※本稿は、寺田有希『対峙力 誰にでも堂々と振る舞えるコミュニケーション術』(クロスメディアパブリッシング)の一部を再編集したものです。
仕事の準備はどこまでするか?
どんな仕事も、事前の準備から始まります。準備が足りないと、自信を持てずに緊張して失敗したり、その仕事の目的を果たせなかったりすることもあります。
ただ、ここで立ちふさがってくるのは、「どこまで準備していくか?」という問題。私もチェックリストをつくるとき、「どこまで細かく準備したらいいんだろう?」「ここまでやっておけば大丈夫かな?」と悩みます。
正直これには、答えがないと思います。
現実問題、準備するにも時間の制限というものがあります。それに、準備しすぎたせいでかえって柔軟性を失ったり、おごりが出てきたりして、失敗する可能性だってあります。
私が行き着いた事前準備のポイントは、「その仕事の最終的なアウトプット」と、「それを受け取る人」をなるべく想像することです。
ポイントは“受け取る人を意識”すること
たとえば番組の収録なら、最終的なアウトプットは動画であり、受け取る人は視聴者です。そして、自分は「視聴者」と「目の前にいる話し相手」の間に立つ立場なんだと理解します。その上で、お互いの架け橋になるようなイメージで、話し相手への質問を考えていきます。
そうすれば、視聴者の知りたいことを質問しやすくなるので、楽しんでもらえるんですよね。
そのために、まずは視聴者のことをよく調べています。
たとえば、番組のファン層を確認して「どの年齢層が多いのか」「性別は」「何を目的に見るのか」などを探っていく。
はじめて担当する番組だったら、スタッフさんに「ファン層はどんな感じですか?」と直接聞くこともあります。
そのうえで、視聴者に刺さりそうな質問を予想していきます。
次に、メインの話し相手(番組ならゲスト)について調べていきます。
このときのポイントは、視聴者と目線を合わせられるように調べること。
たとえば、世間的にそこまで有名ではない相手の場合は、あまり調べていきません。というのも、ほとんどの視聴者は、その人について知らないことが多いからです。
本番で「何のお仕事をしているんですか?」と基本的なことを聞いたほうが、視聴者の知りたいことを話してもらえます。
SNSから読み取れる性格
一方、著名な相手の場合、その人を知る視聴者は多いので、なるべくたくさん調べます。そうすれば、視聴者も知っている基本的なことを質問しなくて済むからです。
たとえば『ホリエモンチャンネル』のゲストが西野亮廣さんだったとき、ほとんどの視聴者は西野さんのことを知っています。だから、西野さんのプロフィールなどに時間を割かず、「普段はどうやって仕事を処理しているんですか?」などと視聴者の知りたそうなことを聞いていきます。そのほうが視聴者は楽しんでくれるんですよね。
ちなみに、話し相手について調べるとき、Wikipediaなどの情報まとめサイトよりも、その人のSNS(TwitterやInstagram、Facebookなど)を確認します。
というのも、SNSは本人が文章を書いていることがほとんどなので、「人となり」を知れるから。それがわかれば、「本番でどう対応すればいいのか?」をイメージしやすくなります。
たとえば、SNSを頻繁に更新していなくて、投稿内容が仕事の情報だけだったら、
「自分のことを話すのは苦手な人で、プライベートな話は聞き出すのが難しいかもしれない」と想像できます。
ほかにも、SNSのコメント返しをよくする人だったら、「自分の気持ちを言葉にするのが好きそうだから、たくさん話してくれそうだな」と想像できます。
「あえて何もしない」が一番NG
ただし、視聴者の気持ちになったからといって、「何も準備しない」のはNGです。ゲストがどんな相手であっても、基本的な情報だけは必ず調べていきます。
そうするようになったのは、5年前、『ホリエモンチャンネル』のゲストに来てくださったチームラボ代表の猪子寿之さんから、ある言葉を言われたことがきっかけでした。
当時、チームラボの事業について知らない視聴者もいました。だから、一般目線でいるために、という思いもあり、チームラボの映像を何も観ずに本番に臨んだんです。
そうしたら、猪子さんに「いまはネットの時代で、社名を調べるだけで映像も検索できるんだから、1分くらいの映像は観てきなさい」と言われてしまいました。
ごもっともですよね。深く反省したのを覚えています。
そのときの痛い経験もあって、事前に話し相手の最低限のプロフィールだけは調べるようになりました。
「アウトプット」と「受け取る人」を意識する
私の場合は「仕事の最終的なアウトプット=動画」で、「それを受け取る人=視聴者」のことが多いので、その例を挙げていきましたが、これはどんな仕事でも使える考え方だと思います。
たとえば、メーカーの営業さんが、自社の新製品を小売店に営業しに行くとします。すると、「仕事の最終的なアウトプット=新製品」だと思います。だから、「この新製品はここを工夫して開発しました!」といったように、製品自体をアピールしたくなるのではないでしょうか。
けれどこの場合、「受け取る人=そのお店で新製品を買う人」だと思います。だから、そのお店にどんな層が来るのか調べた上で、中でもその製品を買ってくれそうなのはどんな人か考えてアピールする。さらに、このとき「目の前にいるメインの話し相手=小売店の仕入れ担当者」ですから、どんな人なのか、どんな話し方をすれば打ち解けることができるのか、できるかぎり調べる。こんなイメージです。
SNSは情報の宝庫
SNSもいまやほとんどの人がやっていて、お店の公式アカウントなんかも多いですよね。それを事前にチェックしておくのもいいかもしれません。フォロワーや「いいね」をしているのはどんな人で、どんなお客様が多そうなのか。どんな商品をプッシュしているのか。
SNS担当者は男性なのか女性なのか。フレンドリーな雰囲気の投稿が多いのか、告知だけを淡々と投稿しているのか……得られる情報は意外に多いと思うんです。特にFacebookなんかは記事を公開にしている人も多いので、情報収集の方法として、真似してもらえるんじゃないかなと思います。
「アウトプット」と「受け取る人」を意識すれば、おのずと何をどのくらい準備していくべきかが見えてきます。これがそのまま、チェックリストの項目になるんです。