※本稿は、越川慎司『週休3日でも年収を3倍にした仕事術』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
週30時間労働を守れるメンバーだけで構成
クロスリバーでは、全社員週休3日制を企業としても4年以上続けています。全メンバーが週に稼働できる上限は30時間です。
「週休3日の会社なんてうまくいくはずがない」。多くの先輩たちにそう言われました。
「楽してていいな」と揶揄されることもありました。
しかし、労働ではなく価値を提供することへのこだわりを持っており、私はこれこそが「More with Less=より少ない時間でより大きな成果を出す」ための最適な手段だと考え、継続してきました。
これから日本が超高齢化社会を迎える中で、人材不足により疲弊するビジネスパーソンが溢れるのではないかと危惧しています。働く人を増やして売上げを伸ばすビジネスモデルや、働いた時間に対して報酬を払う仕組みは必ず限界がきます。
それならば、週休3日でMore with Lessが実現できることを自ら証明したいと思いました。そこで、先に行動を変えました。週休3日・週30時間以内の労働という社内ルールを作り、その実行を約束できる人だけをメンバーに迎え入れることにしたのです。社長である私ももちろん週休3日です。
「全員週休3日」を社外にも公言
全社員週休3日は社外にも公言しています。週休3日にコミットすることで自制心を高め、容易にあきらめることができないようにするためです。
また、単に「時短をする」という願望ではなく、「週休3日・週30時間労働」と数字を入れることで具体的な目標に変わります。また、働く時間の上限を設けることで「締め切り効果」が働き、制限時間内に何とか終わらせようという気になります。夏休みの最終日が最も宿題がはかどるのと一緒です。
さらに、受注案件を絞ることもできます。時間効率の悪い仕事や、将来AIに取って代わられそうな仕事を断って、「すべき仕事」にエネルギーを傾けることができます。
仕事をお断りした際には、お客様から週休3日制についてネガティブなコメントをいただくこともありますが、顧客へ提供する価値の質を落とさないこと、自社のさらなる成長を目指していることを説明し、ご理解いただくようにしています。
週15分の内省で労働時間を8%減らせる
もちろん、無駄をそぎ落とす時短もしています。贅肉を落とすダイエットと同じです。
ダイエットをするとき、体重計に乗らない人はいません。クロスリバーでは全員が時間のダイエットをしたいので、毎週15分だけ時間を取って自分たちの行動を内省(リフレクション)しています。そこで成果につながらなかったことを見つけてやめるのです。つまり、「やめることを決める」ための内省です。
この「週15分の内省」はクライアント企業にも適用し、平均8%の労働時間削減となりました。
日本のビジネスパーソンが1週間の稼働時間のうち68%を使っている社内会議・資料作成・メール処理は、振り返らないと成果につながったかどうかがわからないのです。
だから、止まって考える時間を設け、成果につながらないことをやめるのです。
労働時間を少なくすることだけが目的ではありませんから、その後の成果とセットで振り返ることで無駄な贅肉だけがそぎ落とせるのです。
自分が何時間働いているか把握していない人が多すぎる
週休3日・30時間労働を実践すると、いままで自分がやってきたことの「無駄」をさらに削って重要なことに集中しようという意識に変わります。意識を変えてから行動を変えるのではなく、行動を変えることで意識を変えるのが正解です。
自分が週に何時間働いているかを知らないビジネスパーソンがほとんどだと思いますが、それを可視化し、どこまでダイエットできるかという「目標」を決めることが重要です。
まず、自分が週に50時間働いているのなら、それを40時間にすることを目標にする。そして、時間を削減するために、いまやっている仕事のうち、どこを見直せばいいのか、何を減らすべきかを徹底的に検証していく。つまり、「無駄の棚卸し」です
働く時間と成果を測り「無駄の棚卸し」をしたら、健康診断と同じように専門家の意見を聞くのもいいでしょう。
私自身も、国内外のメンターや尊敬する企業経営者やコンサルタントに、私の働き方を見てもらっています。その上で、どこをどのように改善すべきかといった客観的なフードバックを得る機会を定期的に持っています。週休3日を実行しているという自己満足に陥らないために、外部の目を入れているのです。
うつ病の発症から学んだこと
私は社会人人生で二度も精神疾患(うつ病)を患いました。新卒で入った通信会社で5年目を迎えた29歳のときと、マイクロソフトで本部長を務めていた39歳のときです。共に責任のある仕事を任されて充実したビジネスライフを送っていた時期でした。仕事が楽しくて寝る時間を惜しんで深夜まで働いていました。働けば働くほど仕事をこなすことができていたので、ある種ランナーズハイのようにテンションが高い状態でした。当時は仕事が楽しくて仕方がなかったのです。
ただ、いま振り返ると、長く働いている自分に酔っていたのかもしれません。当時は凝ったパワポ資料を作ることにこだわっていたり、Excelのマクロを組んだりすることで少し自慢げになっていました。
ところがある日突然起きられなくなり、靴の履き方もわからなくなってしまったのです。産業医に診てもらい毎日7時間以上の睡眠を2週間続けたところ復調でき、無事職場復帰できました。このときに睡眠の大切さを知ったのです。
この2回の失敗によって得た学びをもとに、クロスリバーのメンバーには1日6時間以上の睡眠を義務付けています。時差のある地域と深夜にオンライン会議を行った場合は、翌日は始業時間を11時からにしたり休暇を取ったりしてもらっています。
「健康貯蓄」を大切にしながら、永く働き続ける時代に
いくら仕事で成功しても、健康を損なっては意味がありません。睡眠不足になるとパフォーマンスが落ちるだけでなく、私のように精神疾患で働けなくなるリスクも高まります。
若いうちは残業時間を気にせずに働きたい気持ちもよくわかります。しかし精神疾患になると復帰がたいへんです。私は幸運にも数週間で仕事復帰できましたが、やはりうつ病になった私の友人は10年以上自宅から一歩も出ることができていません。
60歳を過ぎても多くの人が働き続ける時代になりました。寿命が延びていく中で、労働「期間」は今後も延びていくと考えてよいでしょう。
一方で、働き方改革に象徴されるように、日々の労働「時間」の上限はどんどん抑えられる傾向にあります。
限られた時間の中でどれだけの成果を出すことができるか、というルールに変わったと理解してください。無制限に働いて成果を出すのはダメなのです。
健康は貯蓄と一緒です。無理をしていくと健康貯蓄が尽きてしまいます。十分な睡眠をとり、ストレスをコントロールして健康な状態を積み重ねていけば、末永く活力に溢れた状態で幸せを感じながら生活できます。
「毎日しっかり休むこと」が仕事の効率を向上させる
睡眠の話に戻すと、人は毎日必ず睡眠をとり、この睡眠の質が翌日のパフォーマンスに大きく影響を与えます。
ただどうしても夜に十分な睡眠がとれないこともあるでしょう。そんなときはお昼寝も効果的です。最近では、クロスリバーのクライアント企業でもパワーナップ(短い仮眠)を取り入れるケースが増えています。前職のマイクロソフトでも、社員食堂の横に昼寝用のスペースが設けられていました。私は15分程度の昼寝をすることもあります。
もし夜に6時間以上の睡眠がとれなかったら、日中に30分以内の昼寝をしてみてください。睡眠不足が解消できれば仕事のパフォーマンスが向上することは科学的に証明されています。
欧米の研究では、スポーツ選手に睡眠時間を10時間以上とらせたところ、それだけでパフォーマンスが劇的に向上したという結果も報告されています。
また起床してから13時間程度が経過すると、脳の機能は急激に低下すると言われています。
6時起床なら夜19時までです。それ以降の作業はパフォーマンスが急激に落ちてしまうのです。この脳のタイムリミットを考慮すると、集中すべき仕事、難しい案件、重要な意思決定といった脳の負荷が大きいものは脳が元気な午前中に行うこと、また19時以降はパフォーマンスが下がるので残業せずにリフレッシュや休養にあてて翌日に備えたほうがむしろ効率が良いことがわかります。