採用しては辞めていく“漆黒のブラック企業”だった武蔵野が、新卒の3年離職率が5%に改善するまでには、採用と人材教育の工夫があった。中でも、「自社に合う社員」「辞めない社員」を面接で見抜く方法とは――。

※本稿は、小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

採用試験では仕事ができるかどうかは見抜けない

こんなことを言っては身も蓋もありませんが、採用試験では「仕事ができる人か、できない人か」を見極めることは不可能です。私が書類選考を重視しないのは、仕事の適性も素養も、実際にやらせてみないとわからないからです。

私が選考の段階でもっとも重視しているのは、「整合性がとれているか」つまり、「嘘をついていないか」です。

小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)
小山 昇『社長、採用と即戦力の育成はこうしなさい!』(プレジデント社)

学生は、「自己分析」「業界研究」「企業研究」「エントリーシート」「筆記試験」「面接」について、対策を講じた上で就活に臨んでいます。事前に準備をしているため、本音と建前を使い分けることができる。ときには、自分をよく見せようと嘘をつくこともあります。

そこで私は、就活生の「定量情報」と「定性情報」の2つを使って、「建前上ついた嘘」を見極めています。面接だけでも、心理分析ツールの結果だけでも、就活生の本音を見抜くのは難しい。定量情報と定性情報を組み合わせて、就活生と自社の相性を判断しています。

●定量情報……分析ツールの結果
●定性情報……面接の受け答え

【分析ツール】
・エマジェネティックス®……人間の思考特性と行動特性を分析するツール
・エナジャイザー……人と組織の活性化を測る適性検査
・HCi-AS……メンタルチェックと仕事への適性を測る検査

分析ツールのメリット4つ

分析ツールを使うメリットは、おもに次の、「4つ」です。

①学生の思考特性や行動特性に合わせたコミュニケーションができる

トランプも麻雀も、相手の手の内がわかっていれば、有利に戦いを進めることができます。人材採用も同じです。「相手がどのような人物なのか」がわかっていれば、相手に合わせたコミュニケーションが可能です。

②会社に必要な人材を選別できる

就活生の特性がわかれば、「会社のIT化を進めるために、『論理的な分析が得意な人材』を採用する」「営業に力を入れるために『社交的かつ行動的な人材』を採用する」など、事業計画にふさわしい人材を採用できます。

③学生の「嘘」を見破ることができる

たとえば、「論理的な分析が得意な人」は、一般的に履歴書やエントリーシートに書いた内容に準じた受け答えをします。

履歴書
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それなのに、履歴書の内容を無視して話す学生は、素の自分を出していない可能性が、あります。分析ツールの結果と発言の内容に整合性が取れていないからです。

「趣味は競馬」の学生がいました。

この学生の分析結果が「論理的タイプ」であったにもかかわらず、「なぜ競馬が好きなのか」という面接官の質問に対して、「予想が当たるとうれしい」という感情的な理由しか述べなかったとしたら、嘘をついている可能性がある。

一方でこの学生が、競馬の魅力は受け継がれる血統にある。優秀な遺伝子を引き継いだ子孫が必ずしもよい成績を残すわけではない。その不確実性がレースをおもしろくしている」いったように、競馬の魅力を理路整然と説明した場合は「嘘はついていない」ことがわかります。発言と分析ツールの結果が「合っている」からです。

2005年入社の海老岡修はダービーは単勝1.6倍のフサイチホウオーに10万円賭けて、6万円儲けると言いました。エナジャイザーで複雑な仕事でミスが8つあったから、買うのはやめなさいとアドバイスしたが購入しました。判断ミスが少なくなる指導を続けて、2020年11月に本部長に昇進しました。

④内定者同士の価値観を合わせることができる

わが社で「30人」採用なら、内定者が「5人」を過ぎた時点から、「すでに内定が出ている5人との相性」を考えた採用に切り替えます。

なぜなら、内定を出している5人とタイプが違いすぎると、内定者同士の和が乱れるからです。

採用担当者も分析ツールを受けさせる

就活生だけでなく、全社員、「エマジェネティックス®とエナジャイザーを受け、「自分がどういうタイプなのか」を把握しています。人は、「自分と異なるタイプ」よりも、「自分と似たタイプ(思考特性や行動特性が自分に近い人)のほうが、優秀に見えます。相手の考えに共感できるからです。

就職面接
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そこで私は、「どのようなタイプの人をどれくらい採用するのか」を事前に考えて新卒採用に臨みます。そうしないと、採用担当者は「自分と似たタイプの学生を優秀とみなして(自分とは反対のタイプに嫌悪感を覚えて)選別するため、人材が偏ってしまう(採用担当者に似た人材が多くなる)からです。

分析ツールを導入せずに、就活生の嘘を見破る方法

エマジェネティックス®やエナジャイザーといった分析ツールがないときは、どのように就活生の嘘を見抜けばいいのでしょうか。ポイントは、次の「4つ」です。

①履歴書、エントリーシートの記述内容と、発言の整合性を見る

履歴書やエントリーシートから推察できる人物像と、面接時の印象に違いを覚えた場合、就活生が自分を偽っている可能性があります。

書類に「活動的で積極的」と書いてあるにもかかわらず、小さな声でボソボソと話している場合は、記述内容と本人にズレがある、(整合性が取れていない)ことが明らかです。

②同じ質問をして発言の整合性を見る

ひとつの質問とその回答から見えてくるものは、断片です。断片だけでは、その人を見極めることは難しい。そこで私は、同じ質問を(言葉を換え、分散させながら)3回、同じ内容の質問をしています。答えがすべて同じであれば、「嘘をついていない」ことがわかります。

人間性が垣間見える“ある質問”

③「友人」について質問する

「あなたは誠実ですか?」「あなたは社交的ですか?」と質問すれば、就活生の多くは「はい」と嘘をつく。

ですが、「友人は何人くらいいますか?」「その友人たちと何をしているときが一番楽しいですか?」「一番の親友は具体的にどんな人ですか?」と質問をすると、嘘がつきにくい。「どんな友人と、何をして、どのような人間関係をつくってきたのか」を作話するのは簡単ではないです。

「その人が、どのような友人と、どのようなつき合いをしてきたか」を深掘りしていくと、就活生の人間性を知ることができます。「類は友を呼ぶ」からです。

④20分以上、自己紹介をさせる

自己紹介の時間が「1分から3分」であれば、面接対策の例文を、「丸暗記」するだけでも乗り切ることができるので嘘がつけます。ですが20分となると、大学の就職課などが用意した模範回答だけでは間がもたないため、素の自分をさらけ出すしかありません。本当は30分聞きたいですが、時間がないから20分で我慢しています。