オンラインでのミーティングが当たり前になってもうすぐ1年。非対面のコミュニケーションに慣れてきたと感じている人も多いのではないでしょうか。しかし、3万人以上に教えてきたコミュニケーション講師の桑野麻衣さんは、「99%の人は、人の話を聞いているときの自分の表情に無頓着で、まったく好印象とは言えない状態」と指摘。オンラインでの印象をがらっと変えるコツとは——。

※本稿は、桑野麻衣『オンラインでも好かれる人・信頼される人の話し方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

ビデオ会議
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自分の顔を見る機会が増えている

オンラインコミュニケーションが増えたことで、「自分の顔を画面いっぱいに見るのが辛い」と嘆く声をよく聞くようになりました。

確かになかなかこれほど長時間にわたり、自分の顔を改めてアップで見る機会はありませんよね。特に女性はまだ毎日メイクやスキンケアをする時に鏡を見る習慣がありますが、男性はより抵抗を感じるかもしれません。

しかし、私はこれを一つのコミュニケーション力を向上させるチャンスだと前向きに捉えています。

人は誰もが感情を持ち、目の前の相手に対して感謝や申し訳ないという「ココロ」があります。しかし、私たち日本人の中にはそれを「カタチ」として表現することが苦手な人が多いのです。多くの場合、表情や話し方、言葉遣いといった「カタチ」が表現されていなければ、そもそも「ココロ」がないとみなされてしまいます。

さらに、対面でのコミュニケーションでは五感を使って「ココロ」を表現できますが、オンライン上では基本的に視覚と聴覚の二感(以下)に限られた表現になります。そのため、対面であれば相手にスムーズに伝わるものも、オンラインになるとどうしても伝わりにくくなってしまいます。より「ココロ」を「カタチ」にする表現力が必要になってきます。

そんなオンラインコミュニケーションだからこそ、これまであまり気にしてこなかった、とあるものに真正面から向き合い、磨いていくチャンスです。

私たちが画面越しに見ている自分の顔で、最も長く目に入るのはどのような時の顔でしょうか?

人が話し出した途端に真顔になっていないか

もちろん相手の顔やカメラを見ている時間もありますが、「人の話を聞く時の自分の表情」を見るようになりました。これは無意識であることがほとんどなので「真顔」とも言えます。これまで対面でのコミュニケーションではなかなか見る機会のなかった表情です。

しかし、実は起きている時間の中で最も長く人様に見せている顔がこの「真顔」なのです。どんなに話している時に生き生きした表情をしていても、人が話す番になった瞬間に無表情になってしまえば、その印象が相手には残ります。

私たちは1人きりでも、2人きりでも生きていません。複数の人たちとコミュニケーションを取ることが多くあります。例えば4人で打ち合わせをしたり、ご飯を食べに行った時を想像してください。話しすぎる人は例外として、単純に計算すれば自分が話す時間は4分の1になります。残りの4分の3、言い換えれば3倍の時間は人の話を聞く時間なのです。人の話を聞く表情が大事と言われる理由はご理解いただけたでしょうか。

人の話を聞く表情に生き様があらわれる

私たちはある時から人前で話す練習はするようになります。人前で失敗したくないと思い、練習することで「話す顔」は客観視する意識があります。それに比べて聞く練習をする機会はなかなかありません。自分の「聞く顔」を知っている人は少ないのです。

だからこそ、私は「人の話を聞く表情は、あなたのこれまでの生き様を表している」と思っています。見たこともない、学んだこともない無意識の表情ですから、人とどう接してきたのか生き様がそのまま出てしまうのです。

偉そうなことを言っていますが、私自身もまだまだ常に気をつけている身です。航空会社に勤めていた時、私は教育訓練インストラクターの立場を任されました。その際、まずは自分自身がお手本となることを求められ、自分の接客の様子を動画撮影してもらったことがあります。今でもその動画を見た時の衝撃を覚えています。お客様のお顔を見ている時はさすがに笑顔なのですが、予約情報などを確認しようと端末に目を向けた瞬間、ものすごく怖い無表情になるのです。そこそこ接客には自信のあった私ですが、すっかり自信をなくしてしまい、そこから常に目元と口角を意識するようになったのでした。

今でも人前で話す仕事をしているので、自分が話す時はもちろんのこと、参加者の方のお話を聞いている時こそ自分の表情を意識しています。

仕事柄、これまで多くの方たちの生き様とも言える、真顔や聞く表情を見てきました。そこで気がついたことをお伝えします。

オープンプランオフィス
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トップ1%しかできていないこと

三流とは「話す表情が聞く表情より生き生きしている」人。8割~9割近くがここに属します。

二流とは「話す表情と聞く表情に差がない」人です。1割~2割程度といったところでしょうか。

一流とは「話す表情よりも聞く表情が生き生きしている」人です。100名参加されている講演会場に1人いるかいないかの確率です。トップ1パーセントということです。

いわゆる経営者やリーダー層の人たちと接する機会が多くありますが、まさに一流の方にお会いした時は今でも感動します。きっと従業員の方や部下に対しても、このようにお話を聞いていらっしゃるんだなと想像がつくのです。

一流の人の割合は1パーセントと言いましたが、裏を返せば、聞く表情を磨くだけでトップ1パーセントに入ることができます。

そもそもオンラインでのやりとりは画面をオフにすれば良い、無駄なストレスをかける必要はないという声もよく聞きますが、私はそうは思いません。この変革のタイミングに自分のコミュニケーションの課題と真摯に向き合い、コミュニケーション力を向上させるきっかけにしてほしいと思っているからです。

これまでリアルなコミュニケーションではなかなか向き合う機会のなかった、自分自身の「人の話を聞く表情」を画面で確認してほしいと思います。話す表情の何倍もの時間、聞く表情を周囲に見せていることをぜひ覚えておいてくださいね。自分の生き様、これから変えていきましょう。

小刻みなうなずきもオーバーリアクションもNG

今度はオンラインツールを利用したコミュニケーションにおいての「リアクション」についてポイントをご紹介していきます。モニター越しのコミュニケーションでは、対面以上にリアクションを大きくすべき、というのを聞いたことがありませんか?

桑野麻衣『オンラインでも好かれる人・信頼される人の話し方』(クロスメディア・パブリッシング)
桑野麻衣『オンラインでも好かれる人・信頼される人の話し方』(クロスメディア・パブリッシング)

オンラインでは五感のうちの視覚と聴覚の二感のみしか表現する手段がありません。対面の時以上に真っ先に視覚情報が相手に伝わります。相手が「この人は自分の話を聞いてくれているな、自分の存在を認めてくれているな」、と無意識のうちに感じられるように、安心感や安全であることを示すことが大切です。その「ココロ」を「カタチ」にすることを意識してください。

自然にできるのであれば、もちろん日頃の3倍程度のリアクションは心がけたいところです。表情やあいづち、身振り手振りなど、工夫できることはいくらでもあります。

わざとらしく、不自然すぎるオーバーリアクションをする必要はまったくありません。しかし、画面に映る自分の姿がまるで静止画のようにならない程度のリアクションは心がけましょう。

そういう意味でも画面上でも表情が見える程度の距離にカメラを設定しておくことが大前提です。

頻度も高く、最もすぐにできるリアクションの注意点を一つご紹介します。それは“うなずき”です。日頃からしているような、小さくて小刻みなうなずきはオンラインではまったく相手に伝わりません。

オンラインでのうなずきは「上下に・大きく・1回」

ポイントは「上下に(縦に)大きく1回」。それを少し意識するだけで、とても自然にわかりやすいリアクションができます。「目指せ! ワイプ芸人」なんて私はよく言っていますが、テレビ画面のワイプの中に映る芸人さんやタレントさんがお手本です。ワイプなので本編の邪魔にならない程度の自然なリアクションの大きさで、だからと言って興味がなさそうな態度もしていませんよね。ワイプはまさに声が聞こえないので、小さなワイプ画面の中の視覚的な要素だけで人柄を表現しているのです。改めてワイプ芸人さんのリアクション芸の素晴らしさを実感します。繰り返しますが、わざとらしさの残る不自然なリアクションは不要です。相手の集中力を削いでは意味がありません。

まずは簡単なうなずきの「上下に(縦に)・大きく・1回」を練習してみてください。ずいぶんと相手からの印象が変わるはずです。自然なワイプ芸人さんをぜひ研究し、技を盗んでみてくださいね。