第5次男女共同参画基本計画が年末に閣議決定され、その中で政府は3年間の集中強化期間を設定し、性犯罪・性暴力対策に取り組むとしている。同時に2021年度から小学校・中学校・高校で「生命(いのち)の安全教育」と題した性暴力の当事者にならないための教育のモデル事業が実施される。リーダーとなって政策を推し進める橋本聖子大臣に、白河桃子さんが直撃した――。

若者からは就活セクハラに関する声が多く届いた

【白河】第5次男女共同参画基本計画策定にあたっては、多くの若い世代の声を取り入れられました。注目された選択的夫婦別姓の問題以外にはどのようなものがありましたか。

【橋本】ユースからは、就活セクハラに関する声が多かったですね。就活セクハラというものは、昔からあったと思います。昔からあったけれど、声には出せなかった。声に出してはいけないんじゃないかと思うような時代があったと思います。我慢しなきゃいけないんだと。

橋本聖子大臣
撮影=遠藤素子

でもそれはとんでもないことで、泣き寝入りすることで結果的には深刻な問題になってしまいます。声を出せる状況にしていかなければいけないし、勇気を出して声を出すことが、良い世の中を作っていくという自信を持たせてあげたいというのもありましたね。

【白河】女性が声を上げようにも、今はまだ、それを止めるものがいっぱいありますよね。特に「物申す」女性はハラスメントに遭いやすい。その状況を変えていこうとされているのですね。

アフターピルの薬局販売解禁と同時に性に関する教育が必要

【白河】今、若者の間からさまざまな議論が出ていますが、そのひとつに緊急避妊薬(アフターピル)の薬局販売を求める動きがあります。しかし反対派からは「アフターピルを薬局で買えるようになると、悪用する人が増える」という意見が出ています。この問題について、大臣はいかがお考えでしょうか。

【橋本】悪用する、しないという問題もありますが、それ以前に本当に困っている人がいるということですよね。ですからアフターピルを薬局で処方箋なく買えるよう検討を進めるとともに、年齢に応じた性に関する教育も必要と思っています。しっかりした性暴力予防教育は、ジュニアの時代からしなければいけない。それで2021年度から小学校・中学校・高校で「生命(いのち)の安全教育」と題した性暴力の当事者にならないための教育のモデル事業が実施されます。また、アフターピルを必要とする女性には、性犯罪・性暴力が背景にある場合もありますので、アフターピル処方時の説明や相談をきっかけに、ワンストップ支援センターや医療機関等の関係機関が紹介されることも重要と考えています。

かなり踏み込んだ性暴力予防教育を小学校から

【白河】「生命の安全教育」は、幼児期や小学校低学年から行われますよね。水着で隠れる部分については、他人に見せない、触らせない、触られたら大人に言う、他人に触らせないことを指導する。デートDVの危険性やSNSで人と出会うことのリスクなども教えるなど、かなり踏み込まれたなと感じます。これについてはパブコメもかなり来ていました。

橋本聖子大臣
撮影=遠藤素子

【橋本】まずいちばん大切なのは、加害者をつくらないということですよね。加害者も子どものときは、当然加害者になろうと思っていません。けれども成長するにつれて、周りの大人や地域社会、教育現場などから、いろいろな情報を取り入れるようになってきます。それと同時に、何かプレッシャーを感じたり、心が荒むことがあったりして事件を起こすわけです。そういった事件を起こす手前、子ども時代に「生命の安全教育」を行うことで、人を敬う心を育てる必要があるということです。

【白河】自分の体を大切にする心も育てますよね。

関係省庁に積極的に掛け合って連携

【白河】これはもともと警察庁で、被害者教育としてやっていたところで、教育の中にはなかった。今回は文部科学省の施策になった。これは画期的なことですが、やはり省庁連携や自民党内の調整でご苦労されたのでしょうか。

【橋本】性暴力予防教育については、以前からずっと必要だと努力されてきた先生たちの議員連盟「ワンツー議連」(性暴力のない社会の実現を目指す議員連盟)がありましたから、それを私が受け継いで、進めるということになったんですね。

【白河】調整役と思われている内閣府ですが、「各省庁に乗り込んでパワフルに進めていく」と橋本大臣がおっしゃったことが印象的です。それがまさに政策として、こういう形になったわけですよね。

【橋本】内閣府は調整役ですが、私は主役だと思っているんです。調整役だからと、ずっと受け身でいてもしょうがないですよ。調整役だからこそ、すべての省庁に、どういうふうにやっていくんですか、早く動いてくださいと掛け合っていく。それこそ真の調整役であり、コーディネーターとしての重要な仕事です。そこがわれわれの持ち味だったと思っていたので、どんどん推し進めてまいりました。

誰一人として取り残すことのない社会に

【白河】内閣府が進めるだけでなく、国民運動にしたいとおっしゃっていますが、具体的にどんなことをお考えでしょうか。

橋本聖子氏(左)と白河桃子氏(右)
撮影=遠藤素子

【橋本】政府としては、令和2年度から4年度までの3年間を「性犯罪・性暴力対策の集中強化期間」として、各省庁と連携すると同時に、被害者の支援、加害者の対策、教育啓発にもしっかりと取り組んでいきます。また、被害直後から医療的支援、法的支援、心理的支援を総合的に行う「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」の増設や強化といったことも積極的にやっていきたいですね。これは補正予算にも盛り込んでいます。国民運動としては、やはり誰一人として取り残すことのない社会にしていきたいということです。全国各地どこでも必ず手を差し伸べるところがあるということを広報していくことに今、力を入れています。

【白河】大臣が方針発表の際に、性暴力に抗議する「フラワーデモ」にも言及されましたね。フラワーデモについてはご存じでしたか?

【橋本】視察でワンストップ支援センターを訪れたときに、フラワーデモの活動をしている方もいらっしゃったんです。そこで、一度見に来てください、参加してくださいと声をかけていただきました。そのときはタイミングが悪くて行けませんでしたが、時間が許せば参加して、いっしょに歩いてみたいと思っています。こういったことを国民の皆さんも身近な問題として受け取っていただければなと思っております。

【白河】ぜひ機会があれば参加していただきたいです。本日はどうもありがとうございました。

白河さん対談後記
5年ごとに編まれる男女共同参画基本計画。「第5次男女共同基本計画策定専門調査会委員」として、案を作ることに参画しました。また毎年出される男女共同参画の「重点方針調査会」の委員として2016年から議論に加わっています。
今まで政府の委員としてさまざまな委員会に参画しましたが、若い人たちの声を、大臣や官僚が直接聞き、その声を生かそうとギリギリまで努力してくれるという経験は、あまりありません。今回は、会議の設定(分科会で最新の知見を持つ専門家が集まったこと、Zoomで会議を全公開し、公聴会もZoomで開いたことなど)も非常にオープンでした。
第5次は第4次までとは違い、パブリックコメントが6000件以上集まり、「2020年までに30%」の目標未達はどうなるのか、「選択的夫婦別姓」や「緊急避妊ピル」など、論点が多く、メディアの注目も集りました。特にユースの「#男女共同参画ってなんですか」の活動は大臣の心を動かしたと思います。
橋本大臣は、この分野について最初は「勉強します」とおっしゃっていましたが、短期間で問題の本質をつかみ、パワフルにこの分野をリードするようになった。忖度そんたくせず発言できるのは、やはり「若い世代の声を聞いている」というバックボーンがあるからでしょう。声をあげる事は決して無駄ではなく、声が届くことで政策がより「踏み込んだもの」になることがよくわかります。