繊細さん4つの分類
「そもそもHSPとは、Highly Sensitive Personの略で、周りの人が気づかない小さなことに気づく繊細な人たちのこと。1996年にアメリカの心理学者のエレイン・アーロン博士が発表した概念で、日本語では『とても敏感な人』『敏感すぎる人』と訳されています。私もHSPの当事者の一人ですが、敏感すぎると言われるのがイヤで、本の中では親しみを込めて『繊細さん』と呼んでいます。非・繊細さんとは、繊細ではない人のことです」
繊細さんとは何か、まず武田さんの説明から対談はスタートした。繊細さんにも、いろいろな人がいて、その性質は4つに分類されるという。
①深く考える
たとえば会社でお土産のクッキーをもらったとき、「ありがとう、おいしそう」と言ってパクッと食べる人もいるけれど、繊細さんの場合は「うずまき模様がかわいいな」「日持ちがするから、今日休んでいる人の机の上に置いておけるな」「チョコ味が少ないから違う味を食べておこう」……そういうことをわっと考える。これを仕事でもプライベートでも行っている。
②過剰に刺激を受ける
光や音、寒さ、暑さ、痛みに敏感。外側の環境からも自分の内側で起こっていることからも刺激を受けやすい。このため、非・繊細さんが「このあとカラオケに行こう」「飲みに行こう」と言っても、繊細さんはぐったり疲れていて帰りたい……ということが起こる。
③共感力が高い
もともと繊細さんは、共感の働きをするミラーニューロンという神経細胞が活発と言われる。相手の喜びや痛みに強く共感するので、和気あいあいとした場にいると気持ちがうれしくなるし、事件や事故のニュースを見ると、自分まで落ち込んでしまう。
④ささいな刺激を察知する
会社の鉢植えの角度が変わった、カーテンがちょっとだけ開いている、そういった小さいことに気がつきながら生活している。
「繊細さんは深く考えて、刺激をたくさん受け取って、よくも悪くも人一倍感じて生きている」という武田さん。だからこそ、どんな人といっしょにいて、どんな職場で働くかが重要だという。
空気をよむと、心と頭の葛藤が大きくなり不調が体に出る
刺激を深く感じとる繊細さん。空気がよめるあまり「これはどうしたらいいんだろう」と考えすぎて、うまく対応できないことが起こりうる。体に不調があらわれて、初めて頑張りすぎていることに気づくことが多いそうだ。
「涙が止まらなくなるとか、マッサージしてもすぐに肩がこってくるとか、心の声を封じると体に出ます。もともと人間の心と体は一心同体。ところが心は『ああしたい、こうしたい』『好き、嫌い』と今ここに焦点を当てているのに対し、頭は『~しなければならない』『過去はこうだから……』と未来の予測を立てます。そして社会人になると『ここはこうしておいたほうが周りに喜ばれるだろう』と、頭で考えたことを優先させます。それは社会人として必要なことですが『忙しくてしんどい』と心が思っているのに『そんなこと言うな』と頭が蓋をしてしまうと、女性なら生理痛や肩こり、腰痛、肌あれといった形で体に症状が出るんです」(武田さん)
そうなる前に周りに助けを求めることができればよいが、現実にはなかなか難しい。しかし伊是名さんは、助けを求めることは人とつながること、と断言する。
入退院を繰り返す絶望の中からつかみ取った幸せの本質
「まず人は一人では幸せになれず、誰かに褒められるとか励まされるとか、そういう関係性の中で幸せになると思うんです。私は小さい頃に入退院を繰り返して、そのときに絶望や挫折を味わって、自分から助けてって言わないとダメだな、味方が一人でも多くほしいなと思った。助ける人も一人だと共依存になるから、親や家族だけでなく、いろいろな人とつながらなきゃいけない。そうしているうちに味方が増えていきました。今、私が書く記事には賛否両論があって、バッシングする人もいるけれど、応援してくれる人もいる。それが自分でも感じられてネガティブにならず、幸せでいられます。味方が一人でも多くいることが大切ですね」
しかし人に助けを求めること自体が「迷惑をかけたらいやだな」「自分のわがままかもしれない」と思うのが繊細さんだ。
「もちろん私も迷惑かなと気を使うこともありますが、それはある意味、人をつなげるものだと思うんですよ。やはり誰でも頼られてうれしいという瞬間があると思うし、私も頼りたいというより、この人といっしょにいたいと思っていて、誰でもいいわけじゃない。だから助けてもらうときは本当に『あなただから』ということを自分の言葉で伝えるようにしています」(伊是名さん)
だからこそ、人を助けるときは、ためらわずに声をかけてほしいという。妊婦さんや高齢者の方に席を譲るのもそう。断られたら気まずいなと考えるのではなく、まずは声をかけてみる。そこから人とのつながりが始まるのだ。
休んだほうがいいのにズルズル働いてしまう現代人
伊是名さんは座っている姿勢が体によくないため、時間があれば5分でも横になって、自分にやさしくしているという。しかし、ふつうに社会生活を送っていると、休んだほうがいいとわかっていてもズルズルと働いてしまう。どうすれば自分を大切にすることができるのだろうか。武田さんは次のように話す。
「まず赤ちゃんとして生まれて、家庭や学校で周りにやさしくする、周りのニーズを満たすことを学びながら大きくなっていきます。日本では、それがいいこととされているので、自分を置いてきぼりにして、周りの期待に応えていく生き方になりがちです。その状態で社会に出ると、あるところまでそれなりにやっていけるけれど、自分をないがしろにして周りに応えていると、いずれ行き詰まります。『会社にいけなくなる』『人間関係でトラブルを繰り返す』といった行き詰まりが起こったときが、自分を大切にするための第一歩です」
「成果を出すことで居場所を確保する」ことからの脱出
自分を大切にする方向に大きく舵を切るために必要なエンジンが二つ。
「それは『もう、こんなのイヤだ』と『もっと自分のために生きるんだ』というものです。今まで自分をないがしろにしていた人が自分を大切にするまでって、惑星から脱出するようなものです。『成果を出すことで自分の居場所を確保する』という根本的な価値観は、幼い頃からの蓄積で、それはもう星の引力みたいなものですから、ものすごくエンジンをふかして、もうイヤだ! ってならないと、なかなか脱出できない。その脱出を手伝うのがカウンセリングかなと思います」
伊是名さんが周りにうまく頼ることができたのは、入退院の経験を通して、つながろうとしないとつながれないという究極の状況があったから、つながれる側にいけたのでは、と武田さんは分析する。
職場の繊細さんとはどう接するのがいいか
では、職場に繊細さんがいたら、周りはどのように接するのがよいのだろうか。繊細さんに「大丈夫?」と聞くと、たいてい「大丈夫」と返ってくる。繊細さんにつらい思いを打ち明けてもらうには?
「聞き出そうとするより『この人なら言っても大丈夫だな』と思ってもらえるように、自分自身がゴキゲンでいっしょにいるのがいいでしょうね。『最近、元気ないみたいだけど大丈夫?』って言っておいて、あとは隣でお茶を飲んだり、雑誌を読んだり、ゴキゲンに過ごす。それで、何か言ってくれたら肯定的に話を聞いてあげられる自分でいるのがいちばんいいかなと思います。もし何かあったら聞くから、と伝えておくのもいいですね」(武田さん)
「この人なら」と思うのは、先程の伊是名さんの話にもつながってくる。
「ただ相手が私に悩み事を相談しないからといって、相手は私を信頼していない、私は必要ないんだと思い込まないことも大切だと思います。何かしてあげたいけれど、相手がアプローチしてこない、そんなときは、今じゃないんだと変に手助けしないようにしたいですね」(伊是名さん)
子どもが繊細さんだったら
また自分の子どもが繊細さんなら、親としてはどんなサポートができるだろうか。自身も子育て中の武田さんは、親も繊細さんなら子どもの気持ちがよくわかるのでは、と話す。
「繊細な子は服のタグがチクチクするとか、発表会でモジモジするといったことがあると、周りからは『なんでそんなことを気にするの?』っていう扱いをされるんです。自分がふつうに感じていることを気にし過ぎと言われると、どんどん自分の感覚が信じられなくなって『お母さんがいいというからいいだろう』と人が判断基準になってしまう。そうではなく『そういうことがあるよね』『お母さんもそういうところがあるよ』と子どもの感じ方を当たり前に受け止めてあげるといいですね」
武田さんの話に大きくうなずきながら、伊是名さんも「子どもにはいっぱい言いたくなるけれど、どんな人に対しても、まず受け止めたいですね」と話す。
不幸中の幸いを見つけようとしなくていい
最後に二人が実践している自分を大切にするためのヒントを紹介しよう。
「私も失敗して落ち込んだり、疲れてもうイヤだと思うこともありますが、夜寝るときは、『意外とよくやったかも、私』と自分にしっくりくるような言葉を言い聞かせて、寝るようにしています。これぐらい大げさでない言葉なら、自分を褒められるかもしれません」(伊是名さん)
「私は体の状態をよく見ておくことと体の状態が悪ければ、何がイヤでそうなっているのか、ちゃんと見ることをおすすめします。繊細さんは『肩がこっているけれど、仕事のストレスかな、でも今の仕事は恵まれているし……』と、どんな悪いことでもいいことを見つけようとして、そこに居続けることがあります。そうではなくて『今の仕事はどんなところがイヤかな』としっかりイヤなところを見て、こういうところがイヤ、イヤと出し切って認めると、次にどうしようかなと解決への行動につながっていくし、自然にいいところも見えてきます。イヤだと言うことをこわがらないということですね」(武田さん)
二人のアドバイスは今すぐにでも実践できそうだ。忙しくて目先のことだけしか考えられなかったり、周囲に気を使いすぎるたりすると、ついおろそかになる自分自身のこと。この年末年始にじっくり自分と向き合ってみてはいかがだろうか。