母親に肌荒れの相談をする男子高校生たち
「ねえ、お母さん(お父さん)、最近、肌が荒れて困ってるんだけど」……。皆さんは、お子さんから、そんな相談を受けたことがありますか?
ここでいう相談者(お子さん)は、女性でなく「男性」。年齢は、おもに高校・大学生、いわゆる「Z世代」のイメージです。
2020年3~8月、私はZ世代を中心にした16~27歳の男女130人に細かな定量アンケートを取り、一部の方々にオンラインでも取材しました。
そこから見えてきたのは、Z世代の、まさに「ニューノーマル」な生き方。普段の生活だけでなく、仕事観や恋愛・結婚・出産観、動画・SNSの利用シーン、そして両親や祖父母、友達との関係性なども、驚きの連続でした。
詳しくは新刊『若者たちのニューノーマル~Z世代、コロナ禍を生きる』に譲るとして、今回は、7月に発売された話題の新商品「ファーストシェービングシリーズ」(パナソニック)をもとに、イマドキの若者・Z世代の美意識とコンプレックス、そして「親ラブ族」と私が呼ぶ、親御さんとの密接な関係性についてご紹介しましょう。
イエローをつくった理由
同シリーズには、「フェイスシェーバー」と「ボディトリマー」の2種類があり、「2種とも、黒と青のほかに、明るいイエローをカラーラインナップに加えました。SNS映えへの意識と共に、ヒゲやボディヘア(体毛)を剃る(整える)のが「恥ずかしい」と考える若者たちに、シェービングのポジティブなイメージを伝えたかったからです」と、パナソニック ビューティ・パーソナルケア事業部の米田共余さん。
「ファーストシェービング」という品名の通り、同シリーズのメインターゲットは、高校・大学生の男子(Z世代)、すなわち人生で初めてヒゲや体毛を剃るような男子です。
彼らは男友達に「お前、ヒゲ濃いな」などと言われてコンプレックスを抱いていたり、自分自身で「キチンと手入れできていないと、清潔感がないよな」と感じていたりする、と米田さんは言います。
「お母さんは化粧水、何使ってるの?」
20~30年前なら、ヒゲや体毛は「ワイルドな、男性性の象徴」というイメージも強かったでしょう。でも私が取材しても、いまや自分の美意識として「手入れしないムダ毛は、だらしない印象を与える」と感じる若者が、圧倒的に多いのが実情です。
そんななか、肌に関する相談相手として、グループインタビューなどでもよく挙がるのが「母親」だと米田さん。彼女たちの脳裏には、少なからず「韓流スターのような、キレイな男子」への憧れがあり、「『息子(の見た目)も、あんなふうになってくれたら』とイメージしているのではないか」といいます。
一部には、母息子の間で「お母さんは化粧水、何使ってるの?」といった、コスメの口コミまで起こっているようだ、とのこと。
電気シェーバーはオジサンアイテム
一方、対お父さんのほうは、「昔は、お父さんが使っていた電気シェーバーを『おさがり』にもらう男子も多かった。でもいまは、電気シェーバーを『オジサンのアイテム』と見るZ世代が目立ちます」と、同社コンシューマーマーケティング ジャパン本部・商品センターの市川央さん。
そんな彼らに、手軽にヒゲを剃れる「ファースト(最初の)アイテム」として、このファーストシェーバーを使ってもらえればと言います。
また、従来はヒゲや体毛剃りのファーストアイテムとされてきた「T字型」の手動カミソリ(安全カミソリ)についても、私が取材すると「ちょっと使いにくい」と感じているZ世代が、決して少なくないのが分かります。
理由の一つは、おそらく「刃」に対する恐怖心。その点でも、同シェーバーは保管時には刃の部分がキャップで隠れているので、「怖い」という感覚を抱きにくいはずです。
また、T字型の特徴として、「どうしても自分がどこに刃を当てているかが、分かりにくい」側面があると、同社 ビューティ・パーソナルケア事業部の松岡泰秀さん。
「でもI字なら『細かな部位』にも気を付けながら、しかも肌に当ててなでるような感覚で『なで剃り』できる。その持ちやすさや使いやすさにも配慮しました」
デリケートゾーンのお手入れを怠らない男子たち
松岡さんが言う「細かな部位」とは、例えばフェイスシェーバーで言えば「ニキビ」の箇所、ボディトリマーで言えば「デリケートゾーン」のこと。
すなわち、ニキビの近くも、I字なら避けて剃ることができる。またデリケートゾーンも、ボディトリマーに「肌ガードアタッチメント」を付ければ、刃が直接肌に触れることなく、なでるようにスッと剃れる、というのですが……。
そもそも、男子が「デリケートゾーン」のお手入れをするとの事実に、驚く方も多いのではないでしょうか。
実は「Vライン」、つまりデリケートゾーンの両サイドについては、数年前から女子の間で、剃るどころか「脱毛」がブームになっています。
ある調査でも、20代女子でVライン脱毛の施術を行ったことがある割合は、なんと約7割(68.3%)(19年 ホットペッパービューティーアカデミー調べ)。
調査対象を、「過去1年以内に美容サロンを利用したことがある人」に限っているので、その分のバイアスはかかっていますが、私が取材しても、いまやVラインのお手入れは、女子の間で「当たり前の身だしなみ」なのだと実感します。
なぜ、水着にならない冬でも気にするのか
その波が、すでに男子にも及んでいると言えるでしょう。
私が草食系男子の本を最初に書いたのが、08年秋。当時取材した若者(おもに現30代後半)ぐらいから、ムダ毛や日焼けを気にする男子が増え、「身だしなみとして、すね毛を剃りたい」や、「能天気に日焼けして、後で後悔したくない」といった声は、多くあがっていました。
とはいえ、「デリケートゾーン」については、水着姿を披露する夏場に気になることはあっても、普段のお手入れでまで気にする男子は少なかったはず。
一体なぜ、水着にならない秋冬まで、そんな箇所をお手入れするのでしょうか。
先の米田さんいわく、「Z世代の若者たちは、『他人の目を気にして』というより、自分のなかに『こうなりたい』という理想の姿があり、そこに近づきたいからと、ヒゲやボディヘアを手入れするイメージ」とのこと。
ただし、ボディについて「Z世代の男子が求めるのは、ツルツルの肌ではない」と米田さん。あくまでも2~3ミリ毛が残る「自然な仕上がり」の肌を理想とする男子が多く、だからこそ先のアタッチメントを同梱し、ほどよい長さの毛を残せるようにしたといいます。
そういえば昨今は、メンズビューティの世界でも、「手入れしてます」「メイクしてます」と感じさせない、自然な「ステルスメイク」が人気です。
SNSと同レベルに重要な「母親の後押し」
若きZ世代の男子は、総じて美意識が高い。反面、「その美意識を、購買にまでつなげるためには、越えなければならないハードルがいくつかある」と、市川さん。
その1つが「価格」であり、「最後のひと押し」。この2つに関係してくるのが、先の「母親」だといいます。
たとえば、マーケティングには「ファネル(漏斗)」という考え方があります。【図表1】のように、まず「商品一覧」を見た人を「100%」と置くと、その次の「詳細」まで進むのは全体の8割、そこから「カート」に入れるのは、多く見積もっても2割で、さらに「購入」まで進むのは1割いるかいないか……、とのニュアンスです。
その過程で、ふるいにかけられた顧客は、漏斗(ファネル)で濾すように脱落していってしまう。
でも逆に言えば、途中で何らかの形で受け止めてくれる存在がいれば、漏斗で濾されることなく「購入」まで至ると考えられるでしょう。
その受け止め役こそが、「買ってあげるわよ」と名乗り出てくれるような、あるいは「これ、いいんじゃない?」と口コミしてくれるような「母親」ではないかと、市川さん。今後は、SNSだけでなく「母親から息子につながるような、口コミの仕掛けも考えていきたい」とのこと。
多くが、従来とはまったく違った美意識やコンプレックスを「標準装備」している、Z世代の男子。だからこそ、そこに新たなビジネスチャンスも眠っていると言えそうです。