「男性と女性のコミュニケーションには決定的な違いがある」。家族問題のカウンセラーとして年間200家族もの相談を受ける山脇由貴子さんはそう指摘します。心理学と豊富なカウンセリング経験に基づく、夫婦関係を維持する秘訣とは――。

※本稿は、山脇由貴子『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』(文春新書)の一部を再編集したものです。

憂鬱
写真=iStock.com/stock-eye
※写真はイメージです

夫のLINEにイラっとする妻たち

男性のコミュニケーションに関する解説からはじめましょう。

まずはカウンセリングで聞いた男性の声です。

「妻から送られてくるLINEは特に返事する必要がないものばかりです。こっちも仕事中なので、べつに返信はしません。だって、『今日の夕飯、ハンバーグね』というメッセージを送られても、返事する必要はないでしょう」
「『これから友だちに会ってくるね。帰りは遅くならないから』というメッセージが送られてきますけど、遅くならないのなら、べつに連絡しなくていいのにと思いますよ」
「今日は帰れないとか、帰りが予定よりすごく遅くなるという時とか、必要な場合は連絡を入れるようにしています。急な接待で夕飯がいらない、とかも」

「ああ、俺と同じ。普通そうだよね」と思った男性も少なくないでしょう。

カウンセリングの場で夫とこんな話になったのは、「夫にメールを送っても、全然、返事をくれない」「夫からのLINEを読むと、イラっとする」という不満をもらす妻が非常に多いからです。

夫のLINEが妻を不愉快にさせてしまうのは、コミュニケーションに関する基本的なスタンスが、男性と女性では大きく異なるからです。

必要な場合のみ連絡をするのが男性の基本スタンス

「必要な場合は連絡を入れるようにしています」

これには多くの男性が同意することでしょう。つまり基本的に男性は、なにか伝える必要が生じたときにだけコミュニケーションをとるのです。いってみれば「要件のみ」「業務連絡のみ」。これが男性のコミュニケーションの基本形です。

だから男性同士では用もないのにメールを送ったり、話しかけたりすることは、ほとんどありません。職場の同僚や上司、取引先に対しては密なコミュニケーションを求められることもあるでしょうが、それは仕事という大事な要件があるからこそです。

意識が「要件のみ」ですから、とくに要件のないメールが妻から来ると、「大した話ではない」と思ってしまうし、返信しようとは思いません。

こうした男性の「要件のみ」「業務連絡のみ」のコミュニケーションが妻の不満を生んでいるのです。

問題
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです

なぜ「業務連絡」だけなのか

男性のコミュニケーションが「要件のみ」「業務連絡のみ」になる背景には、成長する過程での母親との関係があります。

女性の場合、子どもの頃から自分の悩みや、いやな思いをしたことを打ち明けるなど、家庭内で母親と密接なコミュニケーションをとっていますが、じつは男性も小さいころは母親とたくさんの話をしています。友だちとこんなことがあった、学校であんなことがあった……と、女の子と同じように、こと細かに母親へ伝えているのです。

それが減っていくのは小学校の高学年ぐらいからで、中学生になると母親に日々の出来事を話すことはなくなり、「明日、学校で○○が必要」といった要件しか伝えないようになっていきます。高校生ぐらいになれば、必要なことさえ伝えないこともあります。

母親とのコミュニケーションが減っていくのは、息子の年齢が上がっていくにしたがって、母親がその気持ちを理解することが難しくなっていくからです。

幼少期の家庭環境によって異なる物事の捉え方

実際、児童相談所やカウンセリングの場で会った母親たちの多くが、「息子の言っていることに共感できない」と言います。

息子の方も、年齢が上がっていくと、「母親は自分の気持ちを理解してくれない」ことを少しずつ学ぶようになります。

「友だちとケンカした」と言っても、「ケンカしちゃダメでしょ」と叱られたり、「謝ればいいんじゃない?」と当たり前のことを言われたりするだけ。「友だちよりサッカーが上手くできなくて悔しい」という気持ちを話しても、まったく分かってもらえずに、「練習するしかないでしょ」と、これまた当たり前のことを言われるだけ。

母親にしてみれば、男同士のケンカの理由も、サッカーが上手くできない悔しさも理解できません。男同士の仲直りの方法も、サッカーの練習方法も分からないので、前向きなアドバイスなどできないのです。

すると息子は、「どうせ僕の気持ちなんて分かってもらえない。叱られるくらいなら、もう話さないようにしよう」と思うようになるのです。

自分の母親への「当たり前」が妻への「当たり前」になっている

カウンセリングにきたある男性は、自分の生い立ちを整理する中でこんな記憶を話してくれました。

山脇由貴子『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』(文春新書)
山脇由貴子『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』(文春新書)

「何歳からとは、はっきり覚えていませんけど、物心ついてからは、母親に相談するのは何か恥ずかしいなと思うようになりました。話しても、別にどうにもならないし」

多くの男性は似たような経験をしています。これは母を嫌いになるということではありません。「母親への期待を減らしてゆく」ということです。別の言い方をすれば、母親に出来ないこと、つまり「母親は自分の気持ちを理解して、アドバイスすることはできないのだ」ということを受け入れるわけです。

「母親には分かってもらえない」ということを受け入れた結果、思春期以降の男の子が母親に求めるのは、生活環境を整えてもらうことだけになります。食事やお弁当を作ってくれる。必要なものがあれば買ってくれる。洗濯をしてくれる……など、自分が支障なく快適に生活をおくるのに必要なことだけを求め、それで十分だと考えるようになるのです。妻に家事を期待する男性は減ってはきています。しかし、妻が夫へ母親役を求めるのと同様に、夫も妻に対して、母親のように生活環境を整える役割を求めるのです。そして「生活環境を整えてくれれば十分で、あとは放っておいて欲しい」という思春期以降に男性が母親へ求めるものが、自分の結婚においても妻に望むものとなっているのです。

男性はなぜ、結婚してから話してくれなくなるのか

とはいえ男性も女性と交際しているときは、「相手の好意を得る」という目的・要件がありますから、積極的にコミュニケーションをとろうと心がけます。

ところが結婚すると、そうした意識は次第にうすれて、コミュニケーションのスタイルは母親と息子間の「要件のみ」型に戻っていきます。これは「恋愛は特別、結婚は日常生活」だからです。

とはいえ結婚してからも相手の好意をつなぎとめる必要性は男性も分かっていますので、自分の母親に対してよりはコミュニケーションを多くしようと心がけてはいます。

しかし、ここで家庭内のコミュニケーション量の基準となるのが、ここまで説明してきた母親との会話の量で、息子と娘では全然、ちがいます。だから夫が「妻とはわりと会話している」と思っていても、妻にしてみれば「夫は全然、話してくれない」と感じることになるのです。

すでに説明したように、男性も女性も、結婚生活の中で、自分と母親との関係を再現しようとしている面があります。妻は母親との間のような濃密なコミュニケーションを夫に求め、夫は妻に自分の生活を快適にする役割を求めているというわけです。