「すっぴん力消費」が熱い
突然ですが最近、キャリア女性の皆さんは、毎日「フルメイク」をしていますか? 新型コロナの影響で、外出機会が減り、マスク着用の女性が増えたことで、「コスメ」の消費は大きく落ち込みました。コロナ禍で、あるサイトが15~59歳女性に行った調査でも、メイクアップ化粧品の購入頻度が「(とても)減った」の回答は、5割を超えました。
ところが同じ調査で、素肌に関するスキンケア化粧品の購入頻度は「(とても)増えた」が、32%と約3人に1人(20年 アイスタイル調べ)。別の調査でも、50歳未満の女性の約4割が、スキンケアや基礎化粧品を「高価なものに変更している」ことが分かったのです(20年 ネオマーケティング調べ)。
つまり、メイクで外見を「盛る」消費は減ったものの、自身の素肌を大切に「ケアする」部分の消費は、むしろ伸びている。私はこれを、「すっぴん力消費」と呼んでいます。
ただし、すっぴん力(素肌ケア)の難しい点は、「自分だけでは、上手にケアできているかどうかが分かりにくい」ことではないでしょうか。
無料オンラインカウンセリングを1000店舗で導入
そんななか、コロナ禍の2020年5月から、一部の直営店で顧客向けに、無料の「オンラインカウンセリング」を始めたのが、大手化粧品メーカーのポーラ。たちまち話題を呼び、8月には導入店舗が1000店を超えました。一体、どのような接客で人気を集めているのでしょう?
「手のひら全体を使って、このようにグーンと肌の上を滑らせましょう」
Web会議システム・Zoom越しに、顧客にお肌の手入れ法をカウンセリングするのは、ポーラのビューティーディレクター(販売員)。カウンセリング時間は、1回約30分、ビューティーディレクターと顧客が1対1で行います。
同・市場企画部の小池章仁さんによると、「事前に予約いただければ、季節に応じた肌のお手入れ方法や、すぐに実践できるスキンケア、メイクアップ、生活習慣など、トータルで美容に関するアドバイスをさせていただきます」とのこと。
ポーラの原点「訪問販売」がオンラインで実力を発揮
また、商品購入後のフォローがしやすい点も、オンラインのメリットだといいます。
私もそうなのですが、商品を買うとき、お店の方から「このように使ってください」と説明を受けたのに、自宅に戻ると忘れてしまうこともありますよね。
「ですが、オンラインカウンセリングの場合、ご購入商品を画面で確認しながら、適切なタイミングで使い方をご説明できます」と小池さん。
実は、こうした側面は、ポーラにとって「原点回帰」でもあるとのこと。というのも、同社では1937年に初の女性セールスパーソンが誕生。女性の社会進出の幕開けとともに訪問販売が拡大、成長しました。つまり、元々は顧客の「自宅での様子」に、直接触れられる立場にあったのです。
その後、時代の流れとともに、カウンセリングは各店舗で行う方向へとシフトしていきました。
ですがオンラインを取り入れたことで、例えば顧客に化粧ポーチを見せてもらい、普段使っているメイク用品を見た上で、「これは、こういう使い方をした方がいいですよ」と、手持ちのアイテム活用術を伝えられるようになった。つまり、訪問販売の時代に可能だったことが、いま再び、オンラインで行える可能性が生まれてきたとのこと。
「浅草田原町駅前(台東区)のポーラ ザ ビューティーでは、年内に既存顧客の8割にオンラインカウンセリングを実施できるようにしたい」と小池さん。
一方で、「オンラインならではの難しさもある」といいます。
参加者の満足感が高まる30分ルール
難しさの一つが、時間的な制約です。小池さんによると、「オンラインカウンセリングは、お客さまにその場で一緒に実践していただくこともあるため、今のところ集中が途切れない30分間がベスト。このくらいの時間なら疲労感もなく、楽しんでいただきやすい」といいます。
そのためにも、「顧客の要望をできるだけ早く察知し、カウンセリング内容に反映することが重要だと感じている」と小池さん。ほかにも、全4万1000人のビューティーディレクターに対し、いわゆる「デジタルリテラシー」に関するガイドラインを設けているそうです。
オンラインでも対面でも、カウンセリング内容に大きな違いはないとのこと。違うのは顧客の多くが、パソコンではなくスマートフォンでZoom画面を見ていることです。
「だからこそ、画面で見せるツールや資料は、スマホで見られる状態のものを、あらかじめ用意しておくよう心掛けています」
マスク着用時のメイクレッスンも人気
スマホの小さな画面で、肌のカウンセリングを受けるとなると、確かに顧客側にも、かなりの集中力が要求されるでしょう。ただ、スマホはどこにでも持ち運べ、リビングやダイニング、寝室など、自宅の様々な部屋でゆったりと画面を見られるのもメリット。
こうした中で、ポーラはオンラインカウンセリングとは別に、複数のお客さまに行うオンライン上のイベントやレッスンのような位置づけで、無料の「ワークショップ」をスタートさせました。
好評なのは、「(肌の)セルフマッサージ」と、「マスク着用時のメイクアップ」のコンテンツだといいます。
目元のメイクに人気が集中
「マスクをしていると目元しか表に出ないので、とくに眉毛と目元を印象的に見せるメイクアップ術に、人気が集まるようです」と話すのは、同コミュニケーション戦略部・勝田彩さん。
同社は従来、店舗ごとに、地域コミュニティ(ママ友の会ほか)や学校、企業など法人を対象にしたレッスンを、リアルで企画・実施してきた経緯があります。オンラインでのワークショップは、それをWebへと移行させたイメージです。
とはいえ、オンラインの場合、参加人数が多くなりすぎると「ウェビナー」のように一方的な情報提供になってしまったり、一体感を得にくくなってしまったりする。そこで、参加者が3~8人程度の小規模の回も開催し、「〇〇さん、どうですか? 少し難しいですか?」など、積極的に声掛けして感想を聞くことで、参加した顧客同士も楽しみながら親睦を深められるよう、配慮しているとのこと。
こうした工夫もあり、顧客からは「楽しかったので、別の機会にお友達を呼んでもいいですか?」といった声も寄せられるそうです。
対面できない飢餓感は新しい消費につながるのか
半面、オンラインでのカウンセリングやワークショップでは、どうしても顧客の「肌」に触ることができないうえ、直接対面で雑談などをすることが難しい。
そのため、経験したビューティーディレクターは、「オンラインで30分話をすると、余計にお客さまに会いたくなる」「目の前でお肌を見て差し上げたい、という気持ちが強くなる」など、ジレンマを感じているようだと勝田さん。
ですが、こうしたジレンマは、決してマイナスばかりではないでしょう。
例えば、兵庫県・有馬温泉の旅館の事例。コロナ禍で春から夏にかけて、県またぎの旅行を自粛した人も多いなか、旅館の若手経営者らは4月、いち早く「自宅にいながら」温泉を疑似体験できる、「VR(仮想現実)映像」を制作し、ユーチューブでの公開を始めました。
すると、たちまち動画が評判を呼び、5月中旬までに、再生回数が約1万回に到達。私の知人(女性)も、この動画を見たうえで9月、有馬温泉に行ったと話していました。
「有馬(温泉)の泉質が大好きで、2年に一度は行っていた。それが急に行けなくなったので、動画を見て「早く行きたい、行きつけの旅館の女将さんに会いたい」と、ジレンマが膨らんでいった」とのこと。
だからこそ、その女性も、いざ会える状態になって「すぐに行こう」と、いてもたってもいられなかったのでしょう。旅館で馴染みのお客さまを迎える側も、おそらく同じ。
マーケティングで言われる「ロミオとジュリエット効果」のように、「会いたいのに会えない」状況に置かれるからこそ、顧客も、それを迎えるスタッフも、普段の何倍も気持ちが盛り上がり、モチベーションが高まる効果もあるのです。
なぜポーラはいち早くオンラインカウンセリングを始められたか
今年は新型コロナによって、顧客と企業を巡る多くの「外部環境」が大きく変化を遂げました。ですが、ポーラがそこでいち早くオンラインカウンセリングを行えたのは、自社を取り巻く環境変化を冷静に捉え、「SWOT分析」、すなわち「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」を分析できたからではないでしょうか。
化粧品メーカーにおける、コロナ禍のSWOT分析の一例が、【図表1】の通り。とくにポーラにとって大きいのが、全国のポーラショップにいる、約4万1000人ものビューティーディレクター。これは取りも直さず、同社の大きな「強み(S)」になりますよね。
従来、化粧品メーカーは、顧客の肌に直接触れる、肌カウンセリングに力を入れてきました。ですが、こうしたオンラインとリアルの二軸で対応できる体制を整えれば、双方の「いいとこ取り」も可能。遠隔地の新たな顧客も、取り込める可能性があります。
また、メルマガや来店時、オンラインワークショップ時など、顧客一人ひとりのタッチポイントごとに「カスタマージャーニーマップ」を作れば、どこで彼らが満足度を高め、逆にガッカリしたかなども可視化できます。
何が顧客満足につながっているかを追究する
そうすることで、今後の顧客満足につながる実践例が、データとして山ほど蓄積できる。ここが、接客も含めてオンライン(データ)化する、一つの大きなメリットです。
他メーカーも負けてはいません。資生堂は9月、総合美容サイト「ワタシプラス」において、顧客一人ひとりに合わせたメイクテクニックを提案する、スマートフォン向けサービス「ワタシメイク分析」を導入。花王も10月、傘下のカネボウ化粧品のブランドで、LINEを活用したオンラインでのパーソナルサービスを始めました。
オンラインが通例化すれば、他方の「リアルならでは」の付加価値も増すはず。また今後、消費者や社会がより一層、「オンラインが当たり前」となれば、若年層を中心に「なぜコスメだけ、店に行かないとダメなの?」と不便さを感じる人たちも増えてくるでしょう。もはや化粧品メーカーにとっても、サービスのオンライン化は、避けては通れぬ「ニューノーマル」と言えそうです。