社長と同じ本を読み、会社の未来を語るべし
社内政治というと「昭和な権謀術数」を連想するかもしれませんが、実態は日々職場で地道に行われている信頼関係の構築です。会社員であれば、組織の中で仕事の自由度を上げ、敵を消すために誰にも必要な基本的ヒューマンスキルだと私は考えています。管理職になると実務だけでは足りず、部下をまとめながら、他部署や上層部と折り合い、チームの目標を完遂する力が求められます。上司の立場からいうと、実務能力があっても、全社意識が薄くて自分の仕事しか見ていない人は管理職に上げにくいというのが正直なところです。
管理職をめざすなら、自分の仕事が全体から見てどういう位置にあるのか、関係部署はどういう方針なのかなどを意識して仕事をするべきです。それには経営的視点から見るセンスを磨くこと。まずは事業戦略や、社内で起こっていることを知る観点で自社サイトや社内報、広報活動などを見ることです。情報が集まると主要部門の動きやキーパーソンが見えてきて、仕事の仕方が変わってくると思います。
ほかにも社長と同じ本を読んで課題認識を共有し、会社が歩むべき次の10年を考える、などもよいトレーニングになります。会議や懇談会などで会社の未来について意見を求められたときなど、機会が巡ってきたら、それを言葉にして発信する。同期などにも1度は熱く語っておくと「○○はこんなことを構想している」と社内で注目される可能性もあります。会社は、経営陣と思想を共有し、そこへ向かって芽が伸びている社員には目をかけるものなのです。
根回しが横行する現実は、まだまだ存在している
私は若い頃、組織よりも個人としての能力開発に熱心で、社内政治は面倒だと思っていました。しかし課長になった途端に他部署と意見が対立し仕事が難航。そこで主要部署の課長を束ねる飲み会を主催し、個人的に話す場を増やすと、「○○なら通ったのに」「大筋近いけど、提案が○○なら歩み寄れるよ」など、上役がいる会議での合意形成シナリオを事前に相談でき、仕事が順調に回るようになりました。
「タバコ部屋の密談」や「役員ゴルフ人事」など非公式の合意形成は昭和の遺物でアンフェアだと批判されますが、そうした場で組織が回るという現実は、令和の世の中にもまだまだ存在しています。また、社内政治で培われた仲間意識がキャリア形成で戦力になるのも世の常。派閥というとダークなイメージを持つかもしれませんが、組織で意見を通すには、数の力に頼らざるをえないのが現実です。
それは女性活躍でも同様。政府は指導的地位の女性を3割にという目標を掲げていますが、数の上で圧倒的に劣勢な過渡期ですから、女性が会社組織で大きな発言力を得るには、女性管理職の数をそろえるしかありません。現状多くの日本企業が男社会のセオリーで動いている以上、飲み会やゴルフでなくても、女性が参加しやすいランチ会や懇談会、勉強会などを主催し、業務外で交流をもつことで情報や人脈を集めることも頭に入れてほしいと思います。
女性たちよ、もっとうまく立ち回り、組織を動かせ
新型コロナ禍以後の世の中は地球環境や幸福度など、高次元の価値を反映するビジネスを打ち出せるリーダーがますます必要になってくるでしょう。後にリーダーになる人は、若い頃から高次元の思想をもって仕事をしているもの。自部門よりも会社、自社より日本、国内より世界を、現状よりも未来を見据えています。今活躍している女性リーダーの中にはこうしたことに長けた人材が多いように思います。女性消費者の支持を味方につけて成功を積み重ねていくことで、世の中の価値観も変わっていくでしょう。しかし、女性が発言力を増すためには女性管理職の数が必要。社内政治力を磨き、女性リーダーを増やしていきましょう。
女性らしい社内政治の使い方とは?
高度成長期に女性管理職として活躍、実績を積み上げ、結果を出してきた大先輩・内永ゆか子さんに、女性が会社組織で成功するために覚えておきたい心得を伺った。
リーダーの視座を得れば、昇進したくなる
今の働き盛りの女性たちに言いたいのは「チャンスが来ているのにもったいない」のひと言。政府が掲げる指導的地位の女性割合「ニイマルサンマル(2020年までに30%)」という目標のおかげで確実に潮目が変わってきているのに、手を挙げない。多くの人が誰かが背中を押してくれるのを待っている。会社は男性の機会を削って管理職を女性に振っているのに、説得しないと昇進したがらないなんて、上司からしたらうっとうしいばかりですよ。
後ろ向きになる原因のひとつは情報不足です。J-Winが行った女性管理職322人に聞いた調査(※1)では、昇進前は半数以上が「抵抗感があった」と考えていましたが、昇進後は約9割が「よかった」と回答しています。若い頃から組織の仕組みを教育され、先輩の背中を追う男性に比べ、女性は学ぶ機会が少なく、昇進の意義を知らずにいる場合が多い。
※1 NPO法人J-Win「管理職登用に関する意識調査」によると、322人の女性管理職のうち、昇進前に53%が「抵抗感があった」と回答、昇進後は88%が「よかった」と回答。
まずは周囲にいる評価が高い人の行動を観察し、リーダーの何たるかを学んでみることです。上にいけば会社の金看板を背負って、予算と部下の働く力を使い、自分の裁量で仕事ができるという醍醐味を知れば、昇進に無関心ではなくなるはず。組織を学び、理解すれば、手を挙げて、昇進していく女性がもっと増えると思います。
仕事の実力4割、社内政治が3割。残りは人脈
管理職候補になるには、もちろん仕事ができることが大前提です。リーダーは本業の「強み」がないと長続きしません。自分が会社で何をしたいのか、会社を使ってどう社会に貢献できるのかを常に考えることが重要です。
そして社内政治に意識を向けること。「組織オンチ」だと思われないよう、特に女性は「正義感」に要注意。組織の是非は善悪ではなく戦略によることを忘れず、上司の命令が理不尽でも正義の鉄拳はしまっておく。結果責任は上司にあるのですから、ひとまず言われたように動くのが正解です。さらにそれがどういう状況判断だったのか分析し、理解できれば、働き方が変わります。組織で高く評価されるのは、戦略的視点で動ける人間です。
そして組織での力の源は人脈です。上下左右にサポーターを増やすこと、同僚、上司など、支えてくれる人の数=力です。この人という上司を見つけたらその人の考え方を理解してとことんついていき、決してボスの悪口を言わないこと。上司として自分を支持してくれて、もし間違っていれば正してくれる信頼できる部下を得ること。人と人の結びつきは日々の努力の積み重ねです。ぼんやり働いていては手に入りません。
女性だという利点をうまく使って、組織を上手に泳ぐ
管理職になってさらに上をめざすなら、上層部を味方につけることも必須。今、女性管理職は「金の卵」です。誰でも役員候補になりうる時代ですから、どの派閥も取り込みたいはず。これをうまく使わない手はない。見事役員に昇進した暁に「○○さんは私が育てた」と言う人が何人いても問題はありません。派閥は不安定なもの、どこにも専属せず、どこにでも色気を欠かさず、権力の間を上手に泳ぎ抜ける「したたかさ」をもちましょう。
八方美人と揶揄されることもありますが、競争社会で全員に好かれるのは無理なこと、気にすることはありません。でも表立って敵はつくらない。特に女性リーダーには同性の味方が必要です。女性はマイノリティーなのですから、全体として昇進を応援し合わないといけません。誰が先でもいい、今は女性役員の席を増やさないと発言力も増しません。
「先に塀を乗り越えようとする人を肩車してあげなさい。登った人は下の人を引き上げてあげなさい。泥棒だってそうやって高い塀を乗り越えるでしょう。ましてや働く女同士で争ったりしてはダメよ」。日本のある女性リーダーの先輩の言葉です。越えるべき壁は高く、シンドイかもしれないけれど、どう生きたって女の人生はシンドイ。だったら成功しましょう。多くの勇気ある女性たちが高みをめざし、会社員人生を謳歌することを願っています。
管理職になるための明るい社内政治入門
リーダーの役割を担うには、実務だけでは不十分。チームを成功に導くために身につけておきたい管理職の基本的ヒューマンスキルを学ぼう。
【1】敵をつくらない社内調整力
例えば会社の主力製品の売り上げが落ちている場合、付加価値の高い新製品を投入するというプランに大筋で反対する人はいない。しかし、現場ではどうだろう。営業や製造部門、経理などの管理部門で、立場の違いから意見が対立するかもしれない。そんなとき、うまく仕事を進めるために必要なのが「社内調整」だ。
言うまでもなく会社の仕事は、経営目標を限られた期間と予算、人を使って達成することで成果が出る。そのプロセスを管理するのが、リーダーをはじめとする各部門の管理職の仕事だ。それぞれの部門管理者は経営目標のためにおのおの行動しているが、総論で一致する利害も、細部では対立することがある。結果を出すリーダーには、関係各所の対立を解消し、万難を排して仕事を先に進める調整力が求められる。
では具体的にどうしたら「調整」が可能なのだろうか。組織での対立は悪者がいるわけではなく、それぞれが使命感をもって仕事をしていく中で生まれてしまうもの。自然発生的な問題だけに、解決するには「利害関係者の意見・反論・要望を事前に把握して分析し、調整して関係者が合意できるように行動する」(「3ステップ」参照)ことに尽きる。それぞれの立場の違いから利害は異なるものなので、関係者から地道に情報を引き出し(「秘訣6」参照)外堀を埋めていくほかない。
社内調整というと非合理で面倒なものだと敬遠するかもしれないが、管理職にとっては生命線ともいえる大事なスキルだ。事前の調整が甘いことで、会議などの公的な場で企画を反対されたり、ましてや廃案になるリスクがあったりすることを考えれば、実に合理的な方法といえる。さらに、対立相手と共犯関係で組織同士の合意シナリオを練り、仕事を成立に導く「調整上手」の評判が立てば、他部署でも重宝され、社内で影響力や評価が高まるメリットも。
【2】上司を味方につける力
社内で最も頼もしい味方が上司だ。うるさい存在かもしれないが、個人的な好悪は脇に置いておき、少なくとも嫌われないように努力しよう。特に直属の上司の持つ権限はそのまま自分の戦力として考えることができるし、味方が必要なときに最も頼りになる有益な存在だと考えよう。味方になってもらうためには、日ごろから対立を避け、良好な関係を築き、同盟関係を保っておかなくてはならない。
まず排除したいのが「上司に嫌われる行動」。最も上司が嫌うのは、自分の仕事を阻害する、成功の邪魔になる部下の行動。そこで表をチェックして自分にあてはまる「嫌われる行動」を改善しよう。ネガティブ要素が少ない部下は信頼がおけるので、評価が上がる。
好感を得たところで次は、上司が望むような情報や専門的な知見、社内外の人材など「行動のインセンティブ(動機づけ)」を提供すること。業務はもちろんだが、多方面で上司をサポートする姿勢は信用を高め、良好な関係性の維持に効果がある。
もう1つはコミュニケーションの方法だ。企画をとおしたいとき、あるいは情報を提供するときも、上司によってアプローチを工夫する必要がある。性格、仕事の能力、積極的か保守的か、価値判断の傾向、好悪をじっくり観察して図のように4つに分類してみよう。もちろん上司のタイプはこの4つだけではないが、いったんラフな類型を頭に置いて、対応を変えてみることはムダではないはず。例えば、「仕事の能力が高い×積極的」な上司には自身で判断できるように専門知識や判断しうる情報を提供する、一方で「仕事の能力が低い×積極的」な上司は部下頼みで判断が苦手なので、最良の提案をするなど、対応を変える。
ダメ上司につくと、キャリアアップのチャンス
仕事ができない上司にイラ立つ部下は多いだろう。「ダメな上司についたらチャンスです。上司の権限を使って責任を取らずに大きな仕事を経験できるなんてラッキーだと喜びましょう」(前出の内永さん)
特に判断力がない上司に話を持っていく場合「どうしましょう」ではダメ。事前に選択肢を用意して、良い面と悪い面の両方を伝え、そのうえで自分の推す提案を示し、具体的な方法やリスクと対応策を提示する手順で上司に最終決断を促そう。どんな提案でも責任を取るのは上司、どんどん承認をもらい仕事の幅を広げよう。ダメ上司の利用価値はほかにも。仕事ができない人が昇進している陰にはすごい人脈がある可能性が。将来、強い味方になってくれるかも。
【3】部下から支持される力
働き方改革で時間の制約が大きくなった今、結果が出せるチームには何が必要なのだろうか。
働き方改革はワークライフバランスが取りやすくなるなど、子育てや介護といったライフイベントに左右されやすい働く女性にとっては追い風にもなりうる。半面、時間がないぶん効率が重視され、付加価値の高い新しい仕事に取り組むケースが増えるため、現場は重い負担を強いられる。そんな中で高いアウトプットを得るためには、やはり統率力が必要だ。効率重視で結果を出すためには、残念ながら部下の裁量に任せてゆっくり育てる余裕はない。必ず結果が出る最短コースで作戦を立て、部下を動かす力が求められる。全責任を負ったリーダーが作戦を立て、部下全員と戦略を共有して実践させ、チームで均質な仕事ができるように率いていく。
さらにチームが一丸となって動くためには、リーダーとメンバーの間での丁寧なコミュニケーションが欠かせない。リーダーは仕事の方針と目標を段階ごとに細かく設定し、部下おのおのの裁量に任せず、報告、連絡、相談を徹底。仕事の完成イメージを共有しながら、全員が納得して戦略を遂行していけるように徹底的に面倒を見る。指示系統が一本化されることでスピードとクオリティーが確保されやすくなる。ダメ出しをするときも、戦略に対して何が問題なのかを具体的に指導することで、部下に良し悪しを判断する基準を明確に示し、軌道修正を容易にする。
また実務上のルールも決めておくほうがいい。部下が判断する際には、ルールに立ち戻り遵守するように取り決める。見えるところに貼り出したり、マニュアルにまとめたりし、報告書の書き方でもルールどおりに統一することで、日常業務での訂正や修正が少なくなる。最も重要なのは自分たちが「何のために仕事をし」「誰に寄与するのか」という思想を明確に共有することだ。全員で目的を掲げて仕事をすることで、結果が出せるチームに育っていくはずだ。
部下を好きになることも上司の仕事
女性が初めて管理職になったとき、年上の男性部下をけん制したり、意気込みのあまり、負けまいと張り合ったり、身構えてしまうことがある。いい意見なのに取り上げなかったり、提案のアラ探しをしたり、相手を認める余裕がない。悪意はなくても、キツイ対応がすぎると、実力がある上司であっても、部下は息苦しい。
「仕事は1人ではできないし、何より組織で何かをするためには味方の数が大事です。上司の方針に理解を示し、間違いを正してくれるような部下を持つことは強みでしかないですよ」(内永さん)
少数の部下とうまくやれなければ、大きな組織の長は任されないし、大きな事業を成し遂げることも難しくなる。もちろん、仕事で意見が対立したり、上司として言うべきことはあったりするだろうが、同じ意見でも言う側の対応次第で受け取り方が変わる。「部下を持ったなら、まずその人を好きになること。いいところを探し、『この人が好きだ』と3回心の中で唱えると、不思議と笑顔で接することができるようになります」(内永さん)
【4】社内で人脈を広げる力
味方は多いほうがいいが、考え方の違いや生理的な好悪、相性などがあり、人脈は出会いの機会をとらえて構築するしかない。コツは先に相手のために動くこと。また普段から味方にしたい人との接点を増やし、相手の意見を尊重、共感することで仲間意識を育てる。
順調に味方を増やすには効率がいい順番がある。まずは仕事に直接関係がある人。仕事に必要な同僚や上長、他部門の関係者などはいち早く味方にすることで仕事を進めやすくなり、味方効果が上がる。
さらに周辺の同期・同窓・同部門の人をハブに人脈を広げていく。いない場合は、懇談会や勉強会、親睦会などを利用する。会社の主要部門については、すでにある人脈の同期・同窓・同部門の人から関係を深めよう。いない場合もすでにある人脈から足掛かりをつくる努力を。
さらに狙いたいのが社内や社外の情報を多く持っている人、社内人脈が広い人、そして経営層とそれに準ずる上層部である。すでに立場がある人にメリットを感じてもらうのは難易度が高いが、仕事上の接点があれば、相手のニーズに応える努力をする。接点がない場合には、すでにある人脈から手繰り寄せるか、相手を調査して、興味を引きそうな勉強会の講師に招いたり、有益情報を提供するなど、アピールするチャンスを狙うしかない。
また意外な実力者にも注目する。社長や役員の同期・同窓・同部門の社員や、社歴が長い女性社員、秘書課の社員などは、一般社員が知らない社長や役員の情報を持っていたり、つながりを持っていたりすることがあるので、味方にしておきたい。
ずばりサポーターの数こそ政治力
どれだけ多くの人に支えてもらえるか、サポーターの数がその人の影響力の大きさに比例する。人脈づくりは日々の努力。
「一目置かれるためには人に負けないコア・コンピタンスを持つべきですが、組織で成功するにはそれだけでは不十分。上司や部下との信頼関係はもちろん、広く信用を築く必要があります。それにはまずギブ。相手が困っているときに手を差し伸べることで、有事に助け合える関係が築けます」(内永さん)。
こうした社内の人間関係に気を配ることは大事だ。しかし、多くの人が味方し、本気で応援する人物は単なる人気者ではないという。
「会社を通じて成し遂げたい使命があり、結果を出してこそ、立場を得ていくもの。人脈だけでは大成しません」(内永さん)
【5】権力者の心をつかむ力
会社の権力者といえば、社長をはじめ役員クラスや理事、さらに部長などの未来の役員候補だ。こういった上層部を味方につければ社内政治力がアップすることは間違いないが、付き合い方を間違えると、身の破滅にもつながるので、慎重に行動する必要がある。また、時の権力者の派閥に入れば羽振りはよくなるが、派閥ごと転落する可能性もあるので、特定の派閥にどっぷりはまるのは避けるべきだ。
経営層は、常に会社の業績を向上させたい、ライバルに勝てる画期的な新製品を世に出したい、など課題認識を持ち、実現するヒントや資源、アイディアを探している。提供できる情報の価値が高ければ、提供者の信用は高まり、頼られるようになるもの。簡単にいえば、価値のある情報の質と量を確保することで、権力者の心をつかむことができる。直属の上司ではない場合、頻繁に接点を持つのは難しい。そこでまずはリサーチが重要になる。
社長や役員が会社のウェブサイトやSNS、新聞などのメディアに露出していることがあるが、まずそうした記事や手記には必ず目をとおす。主要人物に近い人が自分の社内人脈にいれば、できる範囲で情報をもらい、今何を考えているか、誰と誰が対立しているかなどを把握しておく。さらに毎年確認しておきたいのが人事異動。新役員がもし自分が興味を持っている事業や専門分野に関心が高い場合は、チェックしておく。面識がない権力者に近づくには仕掛けがいる。例えばターゲットの専門分野の勉強会などを主催し、講師を依頼するなど。プロジェクトが動けば、情報提供や意見交換もしやすく自然に接点が増やせる。
そのほかには趣味や社内サークルなどで権力者と同席することも考えられるが、初回で心をつかめなければ先は難しい。その場に備えて自分が提供できてターゲットに価値がありそうな知見や情報、経営層が入手できない現場の意見などを意識してストックしておくとよい。
メンターに指名されて断る先輩はいない
上層部に擁護者を見つけるには、思い切って直接アプローチしよう。「『企業人として成長したいのでご指導ください』と言われて断る人はいません。有能な人ほど多忙ですが、責任感が強いので、自分が手に負えない場合は、ふさわしい人を紹介してもらえることもあります。なかには『女性へのメンタリングの経験がないから』とおっしゃる方もいるかもしれませんが『男性に言っていることをご指摘いただければ十分です』と依頼すればいいと思います」(内永さん)
ターゲットを定める場合は、勝負に負け続けている人は避け、勝っている人を選ぶことも加味すべきだ。選球眼を養うためにも、いろいろな人を観察し、話を聞き、社内の情報通などからも情報収集をすること。
【6】社外ネットワークをつくる力
特にこれまで経験がない新しいプロジェクトに取り組む場合、社内のノウハウだけでは突破できないことがある。そんなときに威力を発揮するのが、社外人脈だ。不足している知識やノウハウを他社の人脈から短時間で得ることができれば、大きな壁も乗り越えることができる。ただし、外から新しい情報を持ってくるだけでは求められるイノベーションは起こせない。社内調整力や上層部にものを言う影響力、他部署を動かせる信用など、社内政治力があってこそ新しい仕事が動く。つまり社内政治力と社外人脈の両輪を持つハイブリッド人材になれれば、リーダーとして高く評価されるはずだ。
ではどうやって有益な社外ネットワークをつくったらいいのだろうか。出会いの場は社外の「情報交換会」「勉強会」「業界団体の会合」「セミナー」「SNS」など多数ある。手始めに名刺交換のときに雑談をして興味関心が一致したり、ネットワークに入ってほしかったりする人を情報交換会や勉強会などに誘う。人と仲良くなるには複数回会い絆を深めること、何回も会う中で知人や友人を紹介し合うことにもなり、人脈のすそ野が広がる。
また著名な人が主宰するセミナーや業界の勉強会、懇談会があれば参加して、意見交換をしたり、後日メールで相談などをしたりしてつながりをつくる手もある。業界団体に所属すれば、裏方になりスタッフとして仲良くなれるかもしれない。
利用価値が高いのはSNS。1度会った人と人脈を維持するのに実名登録制のSNSなどは便利。関係イベントもチェックできるうえ、直接コメントをすることで関係を保つことができる。SNSでは実際に会わなくても接触回数を確保でき、ターゲットのネットワークが目に見えるので、情報源にもなる。
一見、社交的な人が有利なような社外人脈だが、有益な人的ネットワークを維持するには、自分が社外に提供できる価値が必要だ。自分の社外価値を検証して、今ひとつウリがないという場合は、社外に出る前に、仕事や得意分野など、価値資源のレベルアップが必要かもしれない。
女性管理職は何をやっても目立つことを意識する
男性と同じように仕事をしても、圧倒的に人数が少ないぶん、女性管理職は目立ってしまう。地位が上がるにつれ、ますますその傾向は強くなる。当然失言も目を引き、後を引くので、意見を言うときは慎重に。言うべきことを言うのは大事だが、勢いに任せず一呼吸おいて、よく考えてから発言しよう。
「著名人の講演会で質疑応答の時間に先陣を切って手を挙げる女性がいますが、ちょっとハラハラします。どんなレベルで話題が展開するのか見定めて、3番目くらいに質問をするのが無難です。男性が多い場では女性は目立つし、失敗も目立ちます。会社のトップが集まる会合などでも、会社の金看板を背負っている女性管理職には慎重に行動してほしいと思うことがありますね」(内永さん)
一方で女性管理職は目立つということを逆手に取る視点も。
「かつて上司にマニキュアがはげているとたしなめられたことがありました。忙しくても髪を振り乱していてはダメ。外見にも手を抜かず、ツメの先まで美しく武装して優雅に働きたいですね」(内永さん)