1万人のビジネスパーソンと出会い、人生の成功の秘訣や失敗談をかたっぱしから聞き出したビジネスコンサルタントの大塚寿さんは、50代、60代の多くが「40代でやりたいことができなかった」と後悔していることに気づいたという。後悔しない40代にするための秘訣とは――?

※本稿は、大塚 寿『できる40代は、「これ」しかやらない 1万人の体験談から見えてきた「正しい頑張り方」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

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出世したくない人が増えている

「出世」という言葉は、以前と比べネガティブに使われることが増えているようです。

価値観の変化により、「課長になんてなりたくない」「管理職をやるのは面倒だ」と、出世しない生き方を志向する人も増えてきました。

最近では特に、エンジニアやIT技術者の間でこの傾向が顕著です。「そもそも、人とのコミュニケーションが苦手でこの業界に入ったのに、管理職になって人のマネジメントをするなんてまっぴら」という人が少なくないのです。

一方で、出世しなければ大きな仕事ができないのもまた事実です。

どちらを選ぶかは価値観の問題です。ただ、40代になったらなるべく早めに「出世を目指すのか目指さないのか、自分の中で決断する」必要があります。

最悪なのは「どちらも選ばないまま、ずるずると仕事を続ける」ことです。出世を目指すなら、リーダーシップやマネジメント能力、物事を俯瞰する能力などが不可欠です。

一方、出世を目指さないのなら、一刻も早く「ある分野のプロ」を目指すべきです。そこが曖昧なままこの貴重な10年を浪費してしまうと、50代になって「立場も低ければなんの専門性もないお荷物社員」になってしまうのです。

今は「7割が課長になれない時代」と言われます。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」などを見ると、確かにそれが現実のようです。1990年代は約半数が課長になっていたといいますから、管理職の椅子は年々減ってしまっているのです。

一流の社長はみな、40代から「社長になる」と決めていた

もし、あなたが「出世を目指す」と決めたのなら、「自分がどこまで目指すのかを明確にしておく」ことです。課長までなのか、部長までなのか、役員までなのか、あるいは社長を狙うのか。そして、その立場になるにはどういった能力が必要かを考えながら、仕事をしていきます。

仮に社長を目指すならば、今から常に全社的な視点を持って仕事を進めていく必要があるでしょう。大手企業でトップまで上り詰めた人に話を聞くと、多くの人が「若い頃から社長になると決めていた」とおっしゃいます。だからこそ必要な能力が身につくのでしょう。

40代という年齢は、いわゆる「出世レース」の最終局面です。逆に言えば、この年代ならまだ勝負ができるということです。

出世を目指さない場合はどうするか

一方、もし出世を選ばないのなら、「自分はどの分野でプロを目指すのか」を明確にしておくべきでしょう。そうすれば社内での地位も確保でき、転職の際も有利になります。

外食企業で働いていたIさんは、40代で「仕事ばかりでやりたいことができていない」と気づき、出世の道を断ってプロとして生きていくことを決意。その後、「ヒマラヤに登りたい」という夢をかなえるために退職したのですが、他社がIさんを放っておかず、別の大手外食チェーンから声がかかり、それまで以上の年収を確保することができました。60歳を過ぎた今も楽しそうに働いています。

もし、自分が出世を目指さないのなら、早めに上司や人事にその旨を伝えておくべきでしょう。もし、そうしたキャリアパスが自社にないのなら、自分が第一号としてその道を作ってしまう、というのも手です。

もし、そんなあなたに上司や人事が「ぜひ管理職をやってほしい」と言ってきたら、せっかくの評価ですから、それに乗ってみるのも手です。

どちらにしても、ともすればネガティブに捉えられがちな「出世」と真剣に向き合うこと。それが40代には求められるのです。

40代は「アンチモデル」から学べ

若い頃は「憧れの人物」がいたもの。しかし、最近はどうも人の悪いところばかりが目立つ。仕事の「ロールモデル」はどこに求めればいいのでしょうか。

大塚 寿『できる40代は、「これ」しかやらない 1万人の体験談から見えてきた「正しい頑張り方」』(PHP研究所)
大塚 寿『できる40代は、「これ」しかやらない 1万人の体験談から見えてきた「正しい頑張り方」』(PHP研究所)

「ロールモデル(見本)となる人物を持て」とは、よく言われることです。確かに、何か問題が起きたときや迷いが生じた際に、「かつての上司の○○さんだったら、こういうときにはこうしていたはずだ」という指針があれば、どれだけ心強いことでしょうか。

身近な人ではなく「憧れの人」をロールモデルに持つことで、より短時間でそこに近づくことができるという効果も期待できます。渋谷のライブハウス「La.mama」で聴いたスピッツを敬愛し、自らもスターダムにのし上がったミスチルのようなものです(ちょっと古い例ですが、40代ならわかってもらえるのでは……)。

ただし、今の時代、「働き方改革」や「コロナ禍によるテレワーク」など、新しい働き方が求められることもあり、従来のロールモデルが通用しなくなっている面もあります。

「パワハラ防止法」も施行された今、かつての上司の指導法をそのまま真似したらパワハラになってしまう、という恐れもあります。昭和の名経営者の自伝や、その部下だった人の体験記を読むと「1日中怒鳴りつけられていた」「殴られた」などという話が頻発しますが、さすがに今では許されないでしょう。

「嫌なやつ」「ダメなやつ」の存在が実は役に立つ

そこで私がお勧めしたいのが、「こういう人にはなりたくない」という「アンチモデル」を持つことです。これは、特に40代の人にこそ意識してほしいことです。

40代の管理職ともなれば、長所を伸ばすだけでなく、短所をなくすことも求められます。多くの部下から見られる立場だからこそ、「人の振り見て我が振り直せ」ではありませんが、アンチモデルが反面教師として役立つのです。

例えば、あなたの周りには「決められない」「自分の頭で考えない」といった優柔不断な人物や、「気分でモノを言う」「都合の悪いことを言われるとムキになって反論してくる」「すぐにふてくされる」ような不安定な人物、「責任を取らない」「二階に上げてハシゴを外す」「手柄を独り占めする」といった無責任な人物がいませんか。

そういった人物を見て「嫌だな」と思うだけでなく、アンチモデルとして「自分もそうなっていないだろうか」と見直す機会にするのです。

こうした「嫌な人」と接すると、こちらも嫌な気分になるものです。しかし、嫌いな人物をアンチモデルとして「学びの対象」とすることで、その人と接する苦痛が緩和されるのです。これがアンチモデルのもう一つの効能です。

「アンチモデルになるような典型的なダメ人間は、私の身の周りに存在していない」というのなら、複数の人物からそうした断片的な問題点を集めてアンチモデルとするのもいいでしょう。どんなに立派な人でも、「ここを直せばいいのに」という箇所があるはずですから。

攻めのロールモデル、守りのアンチモデル

とはいえ、もちろんロールモデルを持つことも重要です。

「ロールモデルの効用はわかっているけど、アンチモデルと違って身近にいないから、困ってるんでしょ」と突っ込みたくなる人もいるでしょう。ならば、アンチモデルと同様に、複数の人物からの断片的な「いいとこ取り」でもかまいません。

あるいは、社内や身近な人に限定する必要もありません。取引先やセミナーで出会った人でもいいですし、感銘を受けたビジネス書の著者でもいいのです。

もっといえば、京セラの稲盛和夫さんや日本電産の永守重信さん、ソフトバンクの孫正義さんのような名経営者でもいいですし、歴史上の偉人だっていいのです。

ロールモデルが40代のキャリア形成のための「攻めの方策」だとすれば、アンチモデルは「守備的方策」。その両方を持つことが、あなたのビジネス人生の支えになってくれるのです。