産業医として活躍する井上智介先生は、メンタル不調になる人の中には頑張りすぎ屋さんが多いと指摘します。先生が相談者に勧めている「6つの頑張る」の使い分け法とは――。

※本稿は井上智介『職場での「自己肯定感」がグーンと上がる大全』(大和出版)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです(写真=iStock.com/miya227)

「頑張り屋さん」はメンタル不調に陥りやすい

うつ病の患者さんに、「頑張ってね」という励ましの言葉をかけるのがNGであることは、一般的にもかなり広く知られるようになってきました。

ただ、その理由まできっちり理解できている人は、まだまだ少ないように感じます。せっかくなので解説させていただくと、そういった言葉をかけられた患者さんは、「頑張ってこれなのに、まだ足りないんだ」「頑張りたいけどもう無理だよ」と感じてしまいます。そして、さらに気分が落ち込み、ますます自分に自信が持てなくなるのです。

また、うつ病に限らず、敏感に周囲の空気を読んでしまう性格の人にも、「頑張って」は禁句です。その理由は、その言葉を「相手の期待に応えないと!」「相手は、自分が頑張れば喜んでくれる!」というふうにとらえてしまうからです。

そして、自分の頑張りで相手が喜んでくれると考え、時間や体力などを大幅に削ってまで頑張ってしまい、自分でブレーキをかけることが極端に苦手な傾向があります。

このように、メンタルヘルスの不調に陥りやすい人は、「頑張り屋さん」であることが多いと言えます。

「頑張る=全力でやりきる」と思い込んでいる人の危うさ

医師として、自分のためにもう少し手を抜いたり、肩の力を抜いたりするようアドバイスをしても、体調などは無視して、

「私がやらないと、みんなに迷惑がかかってしまうので」
「周りも大変なので、他人にはお願いできなくて」

と、断られることもよくあります。

頑張ること自体はダメなことではありませんし、余裕がある時なら、全力で頑張るのは素晴らしいことです。

しかし、心と体のバランスが保てなくなるまで頑張る必要は、全くありません。

そして、そんな頑張り屋さんと話をしていて痛感するのが、その人にとっての「頑張る」が1種類しかないことです。

つまり、「頑張る=全力でやりきる」だけだと思い込んでいる人がたくさんいるのです。当然、それだけで突き進んでしまうと、よほど上手に自分のストレスを扱っていかない限り、すぐにエネルギーが枯渇してしまいます。

自己暗示の力を軽視してはいけない

そこで私がお伝えしているのが、「6種類の頑張る」を普段から持ちましょう、ということです。

1つしか「頑張る」の選択肢がないと、どんな時でも、その1種類が頭から離れず、自分で自分に暗示をかけることになってしまいます。

大げさに思われるかもしれませんが、様々な研究においても、自己暗示は良くも悪くも効果があることが証明されています。

トップアスリートの中にも、ここ一番という時に「私はここまでやってきた、絶対に勝てる」「必ず得点を決められる」などのように自分に暗示をかけ、その場で最高のイメージを作り上げ、結果を出す人がいますよね。

実は私たちも、これと同様のことを行っています。

日常的に自分に向けてつぶやいた言葉は、知らぬうちに自己暗示となります。時にはそれが悪い方向に働き、あなたの行動を制限してがんじがらめにしてしまうことも。

仕事に限らず、生きていくうえで、どうしても頑張らなければいけない場面や時期は訪れます。

上司から頼まれごとを引き受ける時などに、毎回のように「全力で頑張ります」と声に出したり、「一生懸命頑張ろう」と考えてしまうと、それが暗示となり、自分自身をコントロールしてしまうのです。

そして、全力を尽くすような「頑張る」一択しかないと、どんな時でも「全力で行動する」ことが当たり前になり、いつかあなたのエネルギーは切れてしまうでしょう。

「6種類の頑張る」を使い分ける

それを防ぐためにも、たくさんの「頑張る」バリエーションを持っておく必要があるのです。

そして、普段からどの「頑張る」を使うか意識しておき、その都度口に出していきましょう。これが、いい意味での「小さな自己暗示」になっていきます。

そのバリエーションとして、次の6つのような「頑張る」があります。

① 全力で頑張ってみるか
② ちょっと頑張ってみるか
③ できる範囲で頑張ってみるか
④ ボチボチ頑張ってみるか
⑤ 余裕があれば、頑張ってみるか
⑥ 誰かが頑張るでしょう

いくつか補足するなら、②の「ちょっと頑張ってみるか」は、「とりあえずやってみようか」くらいのイメージです。

井上智介『職場での自己肯定感がグーンと上がる大全』(大和出版)
井上智介『職場での「自己肯定感」がグーンと上がる大全』(大和出版)

③の「できる範囲で頑張ってみるか」は、壁にぶつかるまでやってみようかな、ということ。やり始めてつまずいたら、そこが自分ひとりで抱えるのをやめるラインと決めておいて、あとは誰かに聞いたりSOSを出せばいいという考えです。

④の「ボチボチ頑張ってみるか」は、つらそうなことは後回し気味に放置して、何とか期限に間に合いそうなところでボチボチと始めるイメージ。放置することに罪悪感を抱く必要はありません。

というのも、詳しくは省略しますが、これは心理学で言う「締め切り効果」を期待しているのです。ギリギリになればなるほど、やる気や集中力が出て、大変なことも短い時間でサッと終わらせることができてしまう、なんてこと、ありますよね。

そして、⑥などはもう他力本願です。でも、そんな「頑張る」も、あなたにとって必要になる時がきっと訪れます。

「すでに十分頑張っている」ことを忘れてはいけない

あなたがこれから頑張ろうと思っていることには、どの「頑張ろう」が当てはまりますか?

そこを自分で意識しないと、また無意識のうちに、今まで通りエネルギーがなくなるまで突っ走ることになってしまいますので、これを機会に考えてみましょう。

そして、どの「頑張る」かが決まった時は、小声で構わないので、ぜひ自分に言い聞かせてあげてください。この自分への声かけが、本当に必要な時のブレーキになってくれるはずです。

最後になりましたが、決して忘れてはいけないこととして、

「私はもうすでに、十分すぎるくらい頑張っている」

これを心に刻みつけてくださいね。

あなた自身が一番、自分の頑張りに気づけてないものなのですから。