編集者としてこれまでベストセラーを数多く生み出してきた柿内尚文さんは、「日頃から考える習慣をもつことは良い結果につながる」と言います。コロナ禍で外出自粛が続き、限られた環境下で生活をしなければならない今、良い結果を生むための考える習慣について教えてもらいました。

※本稿は柿内尚文『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

子供のインスピレーションの画像
※写真はイメージです(写真=iStock.com/takasuu)

日頃から思考の練習はしていますか?

優秀なスポーツ選手は練習量がすごいといいます。スポーツの世界と同じように、「考える技術」を身につけるためには、「考える練習」をするのが一番です。

ちなみに、僕は「考える練習」が好きです。「考える練習」を僕は「シコ練(思考の練習)」と呼んでいます。たとえば、家の近所のドラッグストアのテーマソングを勝手に作詞作曲したり、大好きな銭湯の価値を高めることを考えたり、電車の中にある中吊り広告につっこみを入れてより伝わるコピーを勝手に考えたり、レストランのメニューを見て新しいメニュー名を考えたり、毎日、あちこちで「シコ練」をしています。

もちろん、誰かに頼まれたわけではなく、自分で勝手にやっているのですが、これが楽しいんです。僕が勝手につくったドラッグストアのテーマソングは密かな自信作で、その店で流れているその店のオリジナルソングよりもいい曲になっていると思っています。

「シコ練」のポイントは具体的な解答までもっていくこと

たとえば、テレビCMを見ていて「このCM、なんか響いてこないな」と思ったら、どこをどう修正したら響いてくるのか、そこまで具体的に考えるわけです。なんとなくで終わらせないのがポイントです。そして、そのことをノートに書き込み、貯蓄します。

レストランは考える練習の絶好の場です。店員さんのサービスはどうか、メニューはどうか、お店の内装や外装はどうか、料理はどうか。考えることがたくさんあります。

スーパーマーケットも格好の練習場所です。この商品のネーミングは魅力的だとか、これだと買いたくならないなとか、この陳列の方法はすごくいいとか。

この練習が、いろいろな場面で役に立ちます。

なぜなら、シコ練から得たことと、仕事の課題には共通点がたくさんあるからです。

経理の仕事をしている人でも、営業の仕事をしている人でも、研究職の人でも、探してみると自分の仕事との関連性が見つかるはずです。いまなにが世の中にうけているのか、いいコミュニケーションと悪いコミュニケーションの違いはなにか、などなど。日頃から練習しておいたことが、なにかにつながるのです。

いつでも、どこでもできるので、ちょっとしたすき間時間、スマホをいじるのを止めて、「シコ練」をぜひやってみてください。けっこう楽しいです。

すごい人たちは「考える時間」がとにかく長い!

以前、取材で国民的ヒット番組を何本もつくってきた有名テレビプロデューサーに聞いたことがあります。

「なぜ、あなたはそんなにヒット番組を連発できるんですか?」

答えは、即答でした。

「考えている時間がとにかく長いからです」

天才と言われていた人なので、意外な答えに驚きました。

今度は別の取材で、国民的ヒット曲を何本もつくってきた有名音楽プロデューサーにも、同じ質問をしました。

「なぜ、あなたはそんなにたくさんの曲をヒットさせることができるんですか?」

こちらも答えは、即答でした。

「水の中に潜って、息を止めて、我慢し続けているからです」

抽象的な言い方ですが、つまりは、考えて考えて、粘って粘って、最高の曲を提供しているということだと僕は解釈しました。

すごい人たちが、すごい成果を出すためのコツは「時間をかけて考え続けること」という答えで共通していました。

考える時間の蓄積は“今までよりいい結果”につながる

「考える技術」を使えば、これまでよりも「考える速度」「仮説を生み出す速度」が上がります。ただ、それ以上の飛びぬけた思考をするために考える時間は必要です。

野球で、バッティング理論をいくら学んでも、ヒットやホームランを打てるようにはなりません。その理論を体に脳に刻み込み、素振りやバッティング練習、練習試合をして、打てるバッターになっていくのです。

考えることも同じです。「考える技術」をベースに、時間をかけ、行動に移して考えていく。

結果 = 考える技術 × 考える時間 × 行動

これが方程式です。

ちなみに、考えることを続けていくと、だんだん考えることが楽しくなってきます。だから、「長く考えるなんてうんざり」なんて思わないでください。そうやって考えたことが蓄積されて、あなたの力になります。

天才ピカソは時間の蓄積を価値にした

蓄積といえば、こんな有名な話があるそうです。ピカソの話です。

ピカソが街を歩いていると、ピカソの大ファンという女性に呼び止められました。彼女はピカソに「この紙に絵を描いてもらえないですか?」と尋ねたそうです。ピカソはそれに応え、絵をその場で描いてあげたそうです。

そしてこう言いました。

「この絵の値段は1万ドルです」

女性は驚いてこう言いました。

「あなたはこの絵を描くのに30秒しかかかってないではないですか」

すると、ピカソは苦笑しながらこう答えたそうです。

「それは違う。30年と30秒だ」

絵を描いた時間は30秒。でも、ピカソは30年かけて蓄積した技術を使って描いたわけです。

この話は出典が不明なので真偽のほどはわかりませんが、とてもいい話なので紹介させてもらいました(1万ドルのところは100万ドルという説もあります)。

蓄積って強いです。もちろん、ムダに時間を使えばいいというわけではないですが、意味のある時間の蓄積は大きな価値になります。今日なにを考え、明日なにを考えるか、「考える」をどんどん蓄積していく。

その時間をつくるときに大切なのは、楽しむこととリラックスすること。脳を楽しませ、リラックスさせることで、よりよい思考が生まれてくるはずです。

思考が生まれる場所“シンキングプレイス”をつくろう

会議が嫌いな人って多いですよね。なぜ会議が嫌いなのか? 理由はこんなところでしょうか。

柿内尚文『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法』(かんき出版)
柿内尚文『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法』(かんき出版)

・単なる報告会になっていて、自分がそこにいる意味がない
・発言しにくい雰囲気で、声の大きな人だけが発言している
・会議の目的がはっきりせず、上司の会議好きに付き合わされている

確かに、こんな会議だと出たくないですよね。

でも、僕は会議がけっこう好きなんです。

僕にとって会議はスポーツに似ています。「思考のスポーツ」という感じです。特に好きなサッカーに会議を置き換えて考えています。参加メンバーは、みんなサッカー選手です。意見というパスを出し合い、ゴールを目指す。全力で会議に臨むので、会議終了後は、脳がクタクタになっています。

会議ではイノベーションや新しいアイデアが生まれにくいと言われますが、そんなことはないんじゃないでしょうか。やり方ひとつ。会議でもイノベーションやアイデアは生まれるはずです。

逆に、僕は会社のデスクではアイデアがまったく生まれません。会社のデスクは事務処理には向いていますが、僕にとって考える仕事、クリエイティブな仕事には不向きな場所です。

自分にとって最適な考える場所=「シンキングプレイス」をつくることは、大切です。ちなみに、僕が好きなシンキングプレイスは7つあります。電車の中、風呂、カフェ、散歩中、ランニング中、書斎、会議です。

いつの時代も人は“シンキングプレイス”を確保してきた

シンキングプレイスと命名したのには理由があります。

スマホがない時代は、生活の中にすき間時間がたくさんありました。その時間を「考える時間」にしやすかったのですが、スマホ普及後は、すき間時間はほぼスマホに侵食されている人が多いんじゃないかと思います。電車の中も、カフェも。会議中ですら、会議に集中せずスマホを見ている人がいます。そうなると、「考える時間」の確保が難しくなってしまいます。だから、命名をして、意識してその場所を確保することが必要になるのです。

昔から、文章を考えるのに最適な場所は三上(馬上、枕上、厠上)といわれてきました。いまでいうならば、電車の中、布団の中、トイレの中といったところでしょうか。そこが考えることに集中できる場所というわけです。シンキングプレイスは昔からあったわけです。