テレワークでは、上司は部下の抱える心の問題が見えにくく、「様子がおかしいけれど、何に悩んでいるのかわからない」「どうやったら気づいてサポートしてあげられるのか」と気をもむ上司も多くなっています。産業医であり精神科医の井上智介先生がアドバイスをくれます。
オフィスで働くアジアの実業家
※写真はイメージです(写真=iStock.com/imtmphoto)

テレワークで抱える心の不調の原因は5つ

確かにテレワークで心の不調を訴える人は多くなり、私たち精神科医のところにも、さまざまな相談が寄せられます。テレワークにありがちな悩みは、次の5つです。

①メリハリがきかない

就業時間があっても、家で仕事をしていると、なかなかメリハリがきかず、長時間労働に陥りがち。長く働いているのに成果が上がらないと精神的につらくなってしまいます。

②運動不足になる

在宅で仕事をしていると、出社よりも活動量が減って、運動不足になりがち。消費カロリーが少ないわりに、食べる量が増えることで調子をくずす人も少なくありません。

③情報共有がしにくい

社内でのコミュニケーションがオンライン会議だけとなると、普段以上に入ってくる情報が減ってしまい、業務がしにくいというストレスを抱える人もいます。

④自分の評価がわからない

テレワークだと勤務の様子が見えにくく、自分がどう評価されているのかわからず不安に陥るケースも。さぼっていると思われたくなくて、連絡がきたときにすぐ対応できるようにトイレにもスマホを持ち入るほど、プレッシャーに追い込まれる人もいます。

⑤経済的な不安

これは在宅ワークによるものというより、今回の新型コロナウイルス感染症問題の影響が大きいですが、この先、収入が減るんじゃないか、仕事がなくなるんじゃないかという不安感にかられる人も多くいます。これは若い人ほど深刻な印象です。

これらの部下の心の悩みに対して、上司がいちばんやってはいけないのが「みんなそうだよ」「私もそうだから」と受け流すこと。特に⑤については、精神科でもよくある相談です。病気の兆候を見逃さず、医療機関にしっかりつないでいくことは、上司の重要な役目です。

チェックポイントは「ふだんと比べてどうか」

では上司が部下の不調に、早く気づくには、どうしたらよいのでしょうか。そのポイントは、部下が「ふだんと比べてどうか」ということ。

上司がその部下を見て、ふだんと比べて明らかにおかしいところがある。それも1日2日ではなく、2週間ぐらい続いている……。このように異変が「継続」しているかどうかを見ていくことが重要です。

またメンタルの不調の出方には、次のような順番があります。身近にいる上司が早い段階で気づくことで、重症化を防ぐことができます。

①体の不調
②行動の不調
③精神的な不調

「①体の不調」として、よくあるのが頭痛やめまい、耳鳴り、腹痛など。「出社するとおなかが痛くなる」といった症状は明らかにこれに該当します。また周りから見てわかるものに、肌あれや脱毛があります。なかなか指摘しづらいですが、ここで気づいてあげられると、早期発見、早期解決につながります。

「②行動の不調」は上司としては、いちばんに気づいてほしいポイント。遅刻や欠席が増えていないか、業務の能率が下がっていないか、そういったところから発見できます。

ただし、テレワーク中は遅刻や欠席がチェックできないので、ある程度、業務内容で行動を評価することになります。

たとえば頼んだことを忘れるとか、注意が散漫なりミスが増えるといったことです。

最後に起こるのは「③精神的な不調」です。やたら落ち込んでいる、明らかにやる気が見えない……、誰が見てもわかる不調です。

精神的な不調が起こると、感情の起伏が激しくなるので、急に泣いたり、急に怒ったり、ふだんはそんな人じゃないのに、ということが噴出しますので、上司はおかしいと感じたらすぐに医療機関につなぎましょう。

1対1のランチでふだんの様子をウォッチ

上司が部下の不調を見抜けるかどうかは、ふだんの部下の様子を知っているかどうかにかかっています。ですから上司は、ふだんから積極的に部下の状態を知る機会を増やすことが大切です。

できれば出社したときに、1対1でランチをする。ディナーだとお互いに時間がとられるので、15分ぐらいのランチがベターです。

食事をしながら、仕事の話というよりもプライベートの話を聞いて、部下の表情や様子をしっかりと観察しましょう。

もし悩みを抱えているなら、しっかり聞く。月に1回ぐらいは、そういった機会を設ければ、変化の早期発見に役立つはずです。