上司には的確なフィードバックが求められている
部下とともに日々の業務プロセスや結果を振り返り、次につなげるための日常的なフィードバックを行うことは、上司の重要な役割の1つです。
テレワークの普及により、コミュニケーションの機会が減る中、上司は、その少ない機会の中で、的確にフィードバックすることを求められています。
フィードバックには、「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」の2つがあります。ポジティブフィードバックとは、相手の望ましい言動や肯定的な変化を認めて伝える関わりです。一方、ネガティブフィードバックとは、相手の望ましくない言動を指摘し、改善を求める関わりです。
今回は、テレワークで避けがちになる、部下へのネガティブフィードバックについて解説します。
ネガティブフィードバックは人間の欲求に反する関わり
まずは、テレワーク以前に、そもそも対面ですら避けがちになる理由を、上司・部下の視点から考えてみましょう。
上司視点:ハラスメントリスクに加え、部下に敬遠されたくないという感情があるから
部下視点:「ありのままの自分を認めてほしい」という承認欲求とは逆の関わりだから
ネガティブフィードバックは、人間の欲求に反する、難度の高いコミュニケーションであることが分かると思います。加えてテレワークだと以下の3つの点で、上司にとってはさらに難しくなります。
事実把握:部下と接する時間が少なくなり、ネガティブフィードバックすべき事実を捉え辛い
タイミング:部下の状況や内面を把握できず、適したタイミングが判断しづらい
フォロー:ネガティブフィードバックした後の心理的フォローのタイミングが偶発的に起こり辛い
以上の理由から、ネガティブフィードバックを避けがちになるのです。
なぜネガティブフィードバックは重要なのか
それでも、部下へのネガティブフィードバックが必要な理由を3つご紹介します。
育成の観点:部下が成長する為に必要な課題を、自分で気付ける関わりだからです。
下記の図は、心理学者ジョセフ・ルフトとハリー・インガムが発表した、ジョハリの窓という概念です。これを上司・部下の関係に当てはめると、「上司は知っているが、部下は知らないという盲点の窓」が、上司からのネガティブフィードバックで部下が気付ける領域になります。
関係性の観点:部下が、周囲との関係を改善するきっかけになる関わりだから。
部下が、無自覚、または良かれと思って取った言動が、時に周囲に悪影響を及ぼすことがあります。その際にネガティブフィードバックをすることで、周囲との軋轢を無くすきっかけとなり得るのです。
パフォーマンスの観点:組織のパフォーマンスを向上させる上では、ポジティブなコミュニケーションを土台に、ネガティブなコミュニケーションも一定レベル必要となるから。
社会学者マルシャル・ロサダが、数十社を対象に、組織・チーム内でのポジティブな言動とネガティブな言動の量を比較しました。結果、ポジティブなコミュニケーションとネガティブなコミュニケーションの比率が、約3:1の組織・チームが、最も成功する確率が高いことが判明したのです(ロサダライン 3:1の法則)。ちなみに夫婦間では5:1が最適だと言われています。
上手なネガティブフィードバック5つのポイント
ここからは、ネガティブフィードバックの方法を具体的にご紹介します。
まず「部下が受け取りやすいフィードバックをする」という姿勢が大切です。ネガティブフィードバックは只の手段であり、目的は部下の望ましくない言動を改善することです。
とくに部下の反応が見えにくいテレワーク環境においては、部下の納得感を重視する姿勢が非常に重要になります。
それを踏まえたうえで、フィードバックをする際に気を付けたい具体的な5つのポイントをご紹介します。
②自分の言葉として伝える
③部下の人格ではなく、言動に焦点を当てる
④見えたまま・感じたまま、「鏡」のようにそのまま伝える
⑤断定せずに、相手の意図や認識を尊重する
部下に拒絶されるフィードバック
5つのポイントが、よりイメージしやすいように、上司からのネガティブフィードバックを対比してみましょう。まずは5つのポイントを押さえていない例です。
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社内会議に遅刻した時も思ったけど、田中さんは、色々とルーズだよね。
①抽象的・主観的
他の人も皆、言っているけど、人として良くないよ。
②皆の総意という伝え方 ③人格に焦点
私の経験からすると、ルーズな人は、誰からも信頼されなくなるよ。
④上司の主観
まずは、遅刻癖を早く直してね。
⑤相手の意図や認識を無視し、一方的に伝える
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上記のネガティブフィードバックだと、部下は、反発/無視という態度をとる可能性が高くなります。
部下に受け入れられやすいフィードバック
次に5つのポイントを押さえている例です。
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田中さんは、今日の社内会議に15分遅れたよね。
①具体的・客観的
田中さんを待っていた私からすると、正直、自分勝手な行動に映ってしまっているよ。
②自分の言葉 ③言動に焦点 ④鏡のように伝える
何か、理由や事情とかあるのかな?
⑤相手の意図や認識を尊重して、聴く
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上記のネガティブフィードバックだと、部下は、納得/受容という態度をとる可能性が高くなるでしょう。
テレワーク時にとくに注意すべきこと
冒頭でお伝えしたテレワークでネガティブフィードバックを避けがちになる3つの原因も解消できると、さらにフィードバックの効果が期待できるでしょう。
事実把握:具体的な言動を捉えられない前提で、結果状態から要因の仮説を立て、直接部下に確認する関わりをお勧めします。あくまで仮説でしかないので、部下の意見は、特に尊重することを意識しましょう。
タイミング:テレワーク時こそ、テレビ会議システムを用いて定期的かつ頻繁に1対1で部下と対話する場(1on1)を、仕組みとして設けることをお勧めします。部下の状況や内面を日常から把握しておくことで、ネガティブフィードバックの適切なタイミングを判断しやすくなります。
フォロー:上司だけではなく、同じグループの部下に心理的フォローの依頼をするのもよいでしょう。依頼された部下からすると、負担がある一方で、上司から頼られていると感じるものです。
加えて、ネガティブフィードバックする上司側にも心理的な負荷がかかるので、同じ役職同士で、支え合える関係や、想いを吐き出せる場を意図的に設定したほうが良いでしょう。
会議システムが電話か……最適なツールは?
コミュニケーションに最適なツールは、フィードバックの内容や、部下の想定される反応にもよりますが、推奨の順番は、「会議システム、電話、メール・チャット」になります。
こちらは、ネガティブフィードバックした際に、部下の反応を把握しやすい順番です。繰り返しますが、目的は部下の望ましくない言動を改善することなので、部下の反応から、納得しているか・反発しているかを捉え、その後のコミュニケーションを検討するとよいでしょう。
ここまで、テレワークで避けがちになる、部下へのネガティブフィードバックの方法をご紹介してきました。
ネガティブフィードバックの方法はもちろん重要ですが、それは部下との信頼関係があってこそ活かされます。信頼関係があれば、「この上司は自分の為に良かれと思って伝えてくれている」と部下は捉え、自分の言動を改善する可能性は高くなるからです。物理的に離れていることが多い今こそ、部下との関係を見つめ直してみてはいかがでしょうか。