緊急事態宣言下においてテレワークを実施し、出社せずに対応できる業務が意外に多いことに気づいた企業でも、フル出社に戻したい上司は存在します。彼らがそこまで出社にこだわる理由は何なのでしょう。そしてどうすれば、そんな昭和上司がいる職場でリモートとリアルのハイブリッド型の働き方を実現できるのでしょうか。

テレワークできるのにフル出社に戻そうとする上司

新型コロナウイルスは収束に向かっていますが、入れ替わるように猛威を振るいつつあるのが昭和上司の“社畜ウイルス”です。

あしたのチーム 高橋恭介社長(写真提供=本人)
あしたのチーム 高橋恭介社長(写真提供=本人)

緊急事態宣言発令後、多くの企業がテレワークを導入して、仕事の種類によっては出社せずに対応できることが明らかになりました。通勤時間やオフィスでの横やりがないこと、家族との時間が増えて心理的に余裕が生まれることなど、メリットが大きいと感じている人も多いはずです。それを受けて、今後の働き方は出社とテレワークを組み合わせたハイブリッド型に移行する会社が増えるでしょう。

その流れに待ったをかけるのが昭和上司です。「テレワークは、あくまで緊急措置。コロナの脅威が去れば、週5のフル出社に戻すべき」と、ビフォーコロナに時計の針を戻そうとするのです。

マネジメント手法が古い上司ほど出社にこだわる

なぜ昭和上司は出社にこだわるのか。ITスキルが低くてオンラインに対応できないからだという声もありますが、必ずしもそれだけが原因ではないでしょう。むしろ大きいのは、マネジメント手法の問題です。昭和上司は五感をフルに活用した“体感マネジメント”が得意です。しかし、テレワークではそれが通用しないため、リアルな出社にこだわるのです。

体感マネジメントがとくに効果を発揮していたのは、会議の場でした。たとえば大きな声を出して相手を委縮させたり、ジロリとにらんで牽制したり。なかには机をバンとたたいたり、ペットボトルを投げつけるなど、パワハラ同様のマネジメントをする上司もいました。

しかし、物理的空間を支配して部下に圧をかけるやり方は、オンライン会議上で再現できません。画面の上だと、参加者はほぼ平等で、ポジションもあまり意味を持たない。体感マネジメント、そしてパワーマネジメントを多用していた昭和上司は、そこで行き詰ってしまうわけです。

同じ50代でも新たな動きに対応できる上司は何が違うか

昭和の時代に入社した50~60代でも、テレワークの流れに逆らわずに対応して現場をうまく回している人たちもいます。彼らに共通しているのは、コロナ以前から部下たちにエンパワーメントしていたという点です。もともと権限委譲をしていたので、パワーマネンジメントに頼る必要がなく、オンライン会議になっても同じマネジメント手法で対応しています。

このように、一部の昭和上司がフル出社にこだわるのは、マネジメント手法の問題が大きい。そういう意味では、20~30代の若い上司やITスキルがある上司だからといって、社畜ウイルスにかかっていないとは言い切れません。体感マネジメントやパワーマネジメントしかできなければ、どんな人でも同じように昭和上司化するおそれがあります。

出社しても会議はオンラインで参加せよ

昭和上司が幅を利かせている会社で、出社とテレワークのハイブリッド型にスムーズにシフトするにはどうすればいいのでしょうか。本来はトップが覚悟を持って従来のマネジメント手法の刷新を図るべきです。たとえばエンパワーメントを仕組み化したり、主観が入る余地のある曖昧な評価制度を改めるといった取り組みが考えられます。

私がおすすめするのは、出社解禁後も会議をすべてオンラインにすることです。対面の会議になると、昭和上司はどうしても体感マネジメント、パワーマネジメントに頼ってしまう。それができない環境を強制的に作って、ファシリテーションのスキルを磨いていてもらうのです。

本当は昭和上司にテレワークを続けてもらうのが手っ取り早いと思います。ただ、社畜ウイルスにかかっている人に「出社を我慢しろ」というのは酷です。ですから、出社しても会議室に行って対面で話すのではなく、自席や応接室からオンラインで参加をしてもらいます。

他の参加者はオフラインでも構いません。コロナ前からオフラインとオンラインのハイブリッド会議をやっている会社は珍しくありませんでした。たとえば本社で幹部が集まり、オンラインで支店長が参加するといったケースです。ただ、ハイブリッド会議は、オフラインで雑談も含めて多くの情報が交換されるのに対して、オンラインはただつながっているだけのことが多く、情報格差が生じがちでした。一番偉い人がオンラインでファシリテートすれば、従来見られた情報格差も縮小するでしょう。

また、上司に報告するためだけに印刷されるペーパーもなくなるはずです。昭和上司のオンライン参加は、脱“体感マネジメント”のトレーニングになること以外にもメリットが多い。コロナ収束後も、ぜひ継続させたいところです。

部下がサポート意識を持てば上司も軟化する

ここまでフル出社を望む昭和上司をやり玉に挙げてきましたが、じつは昭和上司だけを悪者にするのも間違いです。

弊社は、全国の従業員数5名以上の企業で、直近1カ月以内に週1日以上テレワークをした一般社員と、テレワークをした部下のいる管理職を対象に、アンケート調査を行いました。一般社員はテレワークをポジティブにとらえる傾向がありましたが、管理職側は「部下の生産性が下がっているのではないか」と回答した人が48.0%にのぼったように、テレワークに不安を抱いている人が少なくありませんでした。

これはある意味、当然と言えます。一般社員、とくに自己完結型のPCワークをしている人にとって、テレワークはいいことばかりでしょう。電話を取らなくてもいいし、話しかけられることもなく集中して仕事に打ち込めます。しかし、上司の仕事は一人で完結しません。マネジメントはジョブ型ではなくメンバーシップ型の仕事であり、遠隔になるほど困難さが増して、多くの労力やエネルギーを必要とします。上司側がテレワークに不安を感じるのは無理もないことです。

一般社員は、そうした上司の心理をよく理解する必要があります。一般社員の仕事も、本当は自己完結型のものだけではありません。組織で働く以上、上司や同僚、後輩へのサポート業務も職務のうちで、たとえば仕事の進捗状況を伝えるのもその一つです。しかし、自分の仕事は自己完結型だと考えている一般社員は、サポート業務をムダだととらえて怠ってしまう。その結果、昭和上司は「やはり出社してもらわないとダメだ、不便だ」という思いを強くするのです。

週5出社を避けたいなら、一般社員も上司が安心できるようにテレワーク中もサポート業務に気を配ってみてはいかがでしょうか。チャットツールでこまめにホウレンソウするなどの工夫をしていれば、上司の不安は和らぐはずです。面倒に感じるかもしませんが、それが完全フル出社に時計の針を戻さないことにつながります。