この4月、プルデンシャル生命保険では、対面に代わる新たな営業スタイルとしてリモート商談を業界で初めて全面導入。そこで起きた驚きの変化とは──。たたき上げの営業マンで、現在は執行役員を務める菊地直人さんに聞きました。

対面営業一筋の会社が大きく変化

——コロナ以前、プルデンシャル生命保険ではどんな営業スタイルが中心だったのでしょうか。

プルデンシャル生命保険 執行役員 第五営業本部長 菊地直人さん
プルデンシャル生命保険 執行役員 第一営業本部長 菊地直人さん

当社は設立から30年以上、ずっと対面営業にこだわってきました。お客様に寄り添うためにはそれがベストだという思いがあり、実際に顧客満足度調査でも高い評価をいただいてきました。いわば「対面営業の権化」とも言える会社だったんです。それが今回のコロナショックで大きく変わりつつあります。

緊急事態宣言以降、当社ではすべての営業社員を原則在宅勤務とし、対面での活動を自粛しました。しばらくは電話やメールでお客様対応を行っていましたが、4月20日には全社員向けにオンライン会議システムを導入。現在は、社をあげてリモート商談を推進しています。

——ベテランの営業マンから「それでは営業にならない」というような声は上がりませんでしたか?

リモート商談の導入は当社としても初の試みだったので、確かにベテランからは疑問の声が上がりました。私自身、20代後半で入社してから30年近く、ずっと対面営業一筋で来た人間です。コロナ以前は「リモートで営業なんて無理に決まってる」と思っていました。

しかし今回は、緊急事態宣言が出されている間は対面営業を続けるという選択肢はありえないわけです。お客様に感染させない、社員の健康を守る、この2つが最優先ですから、お客さまから相談依頼があったらリモートで対応するしかない。やるかやらないかではなく「やらねばならない、しかも大急ぎで」という状況でした。

体験してみて「何も支障がない」と驚いた営業の権化

——リモートに苦手意識がある社員に対してはどんなフォローを行ったのでしょうか。

会社として行ったのは、インフラ整備やマニュアルづくり、コンプライアンス面ぐらいです。それ以外の部分では、若手社員が大いに貢献してくれているんですよ。彼らの中にはコロナ以前からプライベートでビデオ通話を使っていた者も多く、リモート営業も抵抗なく実践しています。ベテラン社員にはそれが刺激にもなっており、若手のデモンストレーションを見てやり方を学んだりしているようです。

もともと当社では社員同士の勉強会が活発です。導入以降も、リモート商談でお客様とどう向き合っていくかなど、自発的な勉強会がひんぱんに行われています。新しい試みに際して現場主導で進化していける、そうした土壌があるのは当社ならではの強みだと思います。

——導入から1カ月以上が経った今、菊地さんご自身の実感はいかがですか?

結論から言えば、リモートでも大きな支障がないことがわかりました。それが実証された1カ月だったなと思っています。営業の現場を見ていると、商談から契約までのスピードは上がっていますし、お客様にもご満足いただけています。「店舗が開いていないから相談できなくて困っていた」とおっしゃる方もいて、コロナの影響による保険ニーズの高まりを感じることもできました。

私が最初にリモートを体験したのは社内会議でのことでした。私自身も対面営業の権化でしたから(笑)、最初は苦手意識があったのですが、「慣れざるを得ない」と思ってやってみたら意外とスムーズで驚きましたね。リモートでもコミュニケーションには何ら問題がないのだと、身をもって知ることができました。最近はリモートでの採用面接も担当していますが、やはり大きな問題はないと実感しています。

リモート商談に感じた4つのメリット

——リモート商談ならではのメリットを、具体的にいくつか教えてください。

第一に、対面より気楽に商談に応じていただけるようになりました。今は在宅勤務のお客様も多いので時間をとってもらいやすく、また新しい営業スタイルに興味を持ってくださる方も増えています。

第二に、対面のときは二度目のアポは早くても1週間後ぐらいでしたが、リモートではちょっとした空き時間も候補日程に入れられるため、翌日にアポがいただけることも少なくありません。契約までの対話や手続き自体は短縮できませんが、以前よりスピード感をもって進めることができています。

第三は、遠隔地のお客様とも簡単につながれること。当社はもともとエリア制ではなく、札幌支社の営業社員が沖縄のお客様を担当することもあります。そのため、以前は出張してお会いしたり、郵送やメールで資料をやりとりしたりしていましたが、これがすべて自宅にいながらにしてできるようになりました。社員とお客様双方にとって、飛躍的な効率アップにつながっています。

この点は、営業の最初のステップにおいても大きなメリットです。例えば、東京で働いている地方出身の営業社員が、地元の同級生に商談するといったことも簡単にできますよね。これは営業マンにとっては非常に革新的なこと。例えが幼稚かもしれませんが、個人的には、リモート商談はドラえもんに出てくる「どこでもドア」みたいだなと感じています(笑)。

第四に、働く時間を自分でコントロールしやすいため、子育て中の社員から「両立しやすい」という声が上がっています。特に、女性の営業社員から好評の声が多いですね。

リモート商談はたくさんのメリットがある上に、今のところお客様からの不評の声もありません。対面での話し合いを希望される方もいますが、緊急事態宣言下でしたから、状況を説明し、丁寧にお詫びすることでご納得いただけています。

もちろん、コロナが落ち着いたら対面での営業も再開する予定です。ただ、今回の経験を通して、私たちはリモート商談という新たな武器を手に入れることができました。今後は、対面を大事にしながらリモートも推進する「ハイブリッド型」を目指していきたいと思っています。

コロナ以前の「対面だけ」に戻す理由はない

——一方で、実践を通して見えてきた課題もあるかと思います。どのように解決していく予定でしょうか。

ご契約手続きの中にはまだ紙ベースのものもあるため、書類の電子化やオンライン決済化を検討しています。対面と変わらない正確さ・わかりやすさを目指していく方針です。

また先ほども言ったように、現状では若手とベテランとの間にITリテラシーの差があるので、支社単位での勉強会などを通して、ベテランにも学んでもらっています。コロナショックはこれで終わりではなく、第2波や第3波がくる可能性もあります。ベテラン社員にも、この機会に積極的にスキルを磨いてもらいたいですね。

——コロナ後も引き続きリモート商談を推進していくと。

その通りです。日本では、これまでも働き方改革や五輪対応など、さまざまなタイミングでネット活用が推奨されてきましたが、当社ではあまり進んでいませんでした。ずっと対面営業にこだわってきたので、私も含めて多くのベテラン社員が「ネットで営業などできっこない」と思い込んでいたのです。

それが、今回のコロナショックで一気に変わりました。私も固定観念がすっかり覆され、こんなに簡単に変わるものかと自分で自分に驚いています。やはり実体験が大きかったですね。

今は私も経営陣も、リモート商談には大きなメリットがあると確信しています。コロナ以前の当社へと後退する理由はありません。対面とリモート両方の強みを生かしながら、お客様対応も働き方もさらに進化させていきたいと思います。