営業の仕事は、リモートワークが向かないと思われてきました。足で稼ぐ、お客様に会ってなんぼという価値観が強く残っていました。ところが、このコロナ禍で営業の現場は大きく変化しています。全国の営業職の女性が集まるコミュニティ「営業部女子課」代表理事の太田彩子さんに聞きました。
美しい若いアジアの女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/miya227)

7~8割の営業女子がリモート営業に切り替え

4月には、通勤や外出の自粛が要請されたことで、営業の現場は大混乱になりました。

これまでの営業は「足で稼ぐ」「お客様に会ってなんぼ」の世界でした。ところが緊急事態宣言が出て、業界によっては顧客や取引先が休業していて商談どころではない場合も。そうでなくとも、自分たちもお客様もほぼ完全にテレワークに移行するなか、お客様のところに行けない、会えないという状態になってしまったのです。

でも、どんな状況であっても「経済を回す」という重要な役割を担っているのが営業職。多くの人たちが、試行錯誤しながらも新しい営業のスタイルを切り拓いていっています。

私たち「一般社団法人 営業部女子課の会」では、コロナ禍の4月に営業従事者を対象に「コロナ時代のモノの売り方~営業職のテレワーク~」調査を実施しました。その結果、約6割が「リモート営業に困っている」とありました。

さらにこれは感触ですが、4月下旬には約半数の営業女子がオンライン商談など、リモートでの営業活動を始めていました。その時期は、お客様の状況もあって営業活動が完全にストップしてしまったという人もいましたが、ゴールデンウィーク明け頃から「うちの会社もオンライン商談が解禁になりました!」という声が増えてきて、5月中旬には7~8割の営業女子たちが営業をリモートに切り替えている印象でした。政府による外出自粛が解除された後でも、「リモート営業と訪問営業の両方を続ける」状況は8割以上という印象です。

1日のアポ数が2倍に、生産性が大幅に向上

ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetなどのビデオ会議ツールを使ってリモート営業を始めた営業女子たちからは、様々な気付きが寄せられています。

まず、大きなメリットは「生産性の向上」です。

「足で稼ぐ」これまでの営業スタイルで多くの時間を占めていた「移動」がゼロになりました。その結果、アポ数が増加します。「以前は1日に2~3件だったアポイント数が、オンライン商談に切り替えてからは倍になった!」という喜ぶ営業女子もいます。距離が問題にならなくなったことで、アプローチできる顧客のエリアも広がりました。

また、関係者の商談同席率が高まるという現象も起きています。これまでは営業同行時間を取りづらかった管理職も在宅勤務率が高まり、社内では上司が同席してくれる機会が増えました。お客様の方でも、決裁権者である社長や役員のアポが取れる機会が増え、商談のクロージングができる確率が上がったという声もあります。

「会えばなんとかなる!」が通用しなくなった

一方で、デメリットもあります。

保育園や学校が休みになって子どもたちが家にいる状況で、お客様と話をする環境を作るのが難しいと悩む営業女子が多くいます。「子どもの声が聞こえないように、バスルームにこもって商談を続けました」といった声もありました。以上は、2020年5月当時の話です。

コロナ禍に限らないこととしては、「オンラインでのコミュニケーションの難しさ」があります。

対面でお話をしていれば、相手の表情やメモを取る様子などから、こちらの提案への関心度合いが分かります。価格を提示したときに「うーん」と言ったきり黙り込んでしまったなら、「高いと思っているのかな」と判断して次の手を打つこともできます。こちらの熱意や気遣いも、対面であれば存分にお客様に伝えることができます。

そういった非言語のコミュニケーションが得意で、多少準備不足でも「会えばなんとかなる!」という自信を持っていた人ほど、オンライン商談では難しさを感じているようです。

また、対面営業では商談後にお客様と一緒にエレベーターホールに移動してお別れするまでの雑談から、多くの情報を得ることができました。オンライン商談ではそのような機会がなく、新たな提案のチャンスを失っているという声も挙がっています。

コロナ禍でも売り上げを伸ばせる人と組織の特徴

私達が行ったアンケートでは、リモート営業で「困っている人」「困っていない人」の割合は、男女ともに6対4ほどでした。

両者の行動を分析してみると、一番の差は「顧客や取引先にオンライン商談を積極的に勧めている」かどうかでした(図表1)。

モート営業に「困っていない人」は何が違うのか

「とても困っている」という人たちは、コロナ禍の4月、リモート営業で実践していた工夫の1位は、「顧客とコミュニケーションの数を多くしている」でした。これはある意味、正しい営業方法かと思います。いわゆる、顧客との接触回数を増やして信頼関係を強くすることです。

一方で、「困っていない」人たち、つまり早い段階でリモート営業に適応してリモート営業を順調に進めていた人の約半数は、さらにオンライン商談を顧客先に積極的に勧めていました。率先して新しい営業スタイルにチャレンジできる組織や個人が、コロナ禍でも売上を上げていたのです。

こういった人たちは、「お客様のために」という思いで動いているという共通点があります。

オンライン商談を提案しても、最初は「外出自粛が解除された後でいいから」「落ち着いたときでいいから」と断れられることが多いわけです。そこですぐに諦めたり、逆に食い下がったりするのではなく、「緊急事態が解除されても、世の中が完全に元に戻るわけではありませんよね。お客様の将来のためにも、私たちと一緒にこの変化に適応していきましょう!」という姿勢でお話すれば、受け入れてもらえる可能性も高まるのです。実際に、顧客先にオンライン商談を提案しても、受け入れられるケースのほうが多いのです。

リモート営業はコロナ収束後も止まらない

コロナ禍をきっかけに一気に広まったリモート営業ですが、事態が収束してもこの動きが止まることはないでしょう。

私達の調査では、今後リモート営業のニーズが増えると考えている人が88%もいました。営業担当者自身が、新しい営業スタイルの可能性を感じているのです。

これからは、営業の常識だった「お客様の元に通う」ことそのものが壊れ、非対面のコミュニケーション方法やツールを使いこなしていくことが必須になっていくでしょう。

ただし、リモートの限界もあります。提案内容や商材によってはリモートで完結できるものもあります。しかし、とても高額な取引や、実際に見て確かめていただかないとクレームになりやすい商材など、対面でお会いして信頼関係を作ることが欠かせないケースも多くあります。

アフター・コロナの時代には、リアル訪問(対面)とリモート(非対面)の「ハイブリッド」な働き方や営業が主流になっていくでしょう。自社と取引先の状況などに合わせて臨機応変に、それぞれの良いところを活かしてやっていくことが重要になっていくのだと思います。