目指すは女性CFO(最高財務責任者)。小沼志緒さんは、学生時代の夢を実現しようとキャリアアップを図り続け、3社目の「ランサーズ」で思いをかなえた。その過程では挫折や悔しさもたくさん経験。どう成功に変えてきたのだろうか。

女性CFOを目指して「まずは筋トレから」

(写真=ランサーズ株式会社提供)

大学時代に企業戦略について学び、CFO(最高財務責任者)という職業に憧れを抱いた小沼志緒さん。以来、「女性CFOのパイオニアになる」ことを目標に、証券会社の投資銀行本部、人材サービス企業の財務部、そして現職へと着実にキャリアの階段を登ってきた。

憧れだったCFOの職に就いて3年。昨年にはランサーズの株式公開を担当し、チームの中心となって上場を成功に導いた。現在は財務・法務・経営企画などを統括するコーポレート担当として活躍しており、資金調達やより効率的な事業運営を目指して奮闘中だ。

大学時代の夢はすでにかなえたかに見えるが、小沼さんの目標はさらに上。「ただCFOになるだけじゃなくて、しっかりとした実績を残したい」と語る。

「今は、この人がいたから事業が成功したと言われるような女性CFOもたくさんいるので、私もそうならねばと思っています。『実力あるCFO』になって、後に続く女性たちを勇気づけるような実績を残したい。その意味では、まだやっと挑戦権を得たところという感じですね」

大学時代にはラクロス部で副将まで務めた体育会系女子。キャリアに対しても「まずは厳しい筋トレから」と、猛烈に働けそうな証券会社に入社した。

期待した「昇格」は中途採用者や後輩の手に

CFOへのはじめの一歩としてがむしゃらに働き、少しずつ自信をつけていった小沼さん。だが入社3年目、アナリストからアソシエイトへと昇進するタイミングで最初の挫折を味わった。

「担当していたプロジェクトが佳境に入った時、同じチームの上司が海外へ行くことになったんです。私としては、自分がその役割を引き継ぐものだと思っていたのに、新しく採用された人が任命されて……。ものすごく悔しかったです」

部活に例えれば、学年が代替わりして「今年は自分がエースだ」と思っていたところへ、外部からもっと強いエースが電撃移籍してきたようなもの。実力不足だと思われたのか、それとも意欲をアピールしなかったせいなのか──。受け身でいたらチャンスはつかめない、と実感した瞬間だった。

この経験を通して、次回からは自ら機会をつかみに行こうと決心。次に入社した人材サービス企業では、財務の経験を積みつつ、管理職へのステップアップに向けて自分から行動を起こした。

それは、同社の株式公開プロジェクトに携わっていた時のこと。小沼さんはプロジェクトの進行中に第一子を出産したが、誰かにポジションを奪われるかもという焦りから早々に職場復帰。その直後、上司に「育児で大変だったらプロジェクトから外れることもできるよ」と告げられた。

配慮からの言葉だったのかもしれないが、当時の小沼さんにとって「外れる」はありえない選択肢。仕事への意欲がメラメラと燃え上がり、上司に続行の意思をはっきり伝えたという。

その翌年、プロジェクトは無事に成功。意欲を持って取り組めたこと、証券時代の経験を生かして貢献できたこと、初めての育児と両立できたことなどから自信も生まれ、小沼さんにとっては大きな成功体験になった。

ところが、その後に待っていたのはまたしても挫折だった。はたから見ればこの成功で管理職への道が開けそうなものだが、目指していたマネジャー職には後輩が昇格。証券会社時代とまったく同じ悔しさを味わった。

そこで、今回はきちんと行動を起こそうと上司に直訴。管理職にチャレンジしたいという意思をはっきり伝え、そのかいあって財務グループのマネジャー職に昇格を果たした。

小沼さんのLIFE CHART

初のマネジャー職で部下の指導に失敗

2019年、ランサーズは東京証券取引所マザーズに上場。上場セレモニーでは打鐘役を務めた(写真=ランサーズ株式会社提供)

昇格への思いはあっても、それを上司に伝えるにはかなりの勇気が必要だろう。どうやって勇気を出し、どう伝えるべきか、悩んでいる人も多いのではないだろうか。

「私の場合は前職での悔しい経験が行動につながりました。上司に伝える時は感情的になりすぎないようにしましたね。いくら悔しくても、後輩より私のほうが適任だなんて言ってしまったら、聞き手は機会を与えたいと思えないはず。他者との比較ではなく自分の思いを話して、『だから挑戦の機会をください』と訴えました。でも、実際にマネジャーになってみたらもう四苦八苦で……」

昇格した当初、小沼さんは部下には全員に同じ態度で接すればいいと考えていたそう。だが、元々はっきりとモノを言う性格。昇格前は同僚だった女性部下にストレートな言葉で指示したところ、嫌われてしまい口もきいてもらえなくなった。

その後、管理職研修などを通じて、相手の性格に合わせたコミュニケーションができていなかったと反省。「上から指示するのではなく本人の気づきを引き出すべきだった」と後悔したが、結局彼女との信頼関係は修復できずじまい。手痛い失敗を経て、以降は相手の立場に立った丁寧な物言いを心がけるようになった。

壁にぶつかりながらも成長し、管理職としてしっかりとした意思決定ができ始めた頃。小沼さんは「次は事業そのものを経験したい」と、財務部から事業部への出向を申し出る。希望はすんなりと実現したが、新天地での仕事は期待とはまったく違っていた。

「正直、ワクワクする仕事に出会えなかったんです。前の部署での経験や人脈も生かせなくて、ゼロから構築するしかありませんでした。それでは自己成長に時間がかかりすぎてしまうので、上司に『もっと面白いポジションに行きたい』と相談しました」

転職で自らの成長スピードをアップ

上場記念パーティーで晴れやかな笑顔を見せる小沼さん(写真=ランサーズ株式会社提供)

出向から半年足らずで再度の異動希望。自分の気持ちと正直に向き合って出した結論だったが、これで評価が下がってしまったのか、小沼さんは別部署のマネジャーより低いポジションを打診される。一時は大いに落ち込んだが、これが今後のキャリアについてあらためて考えるきっかけになった。

どうすればCFOの職に近づけるのか。そんな悩みから救ってくれたのは、夫の一言だった。「CFOを目指すならベンチャーに行ってみたら?」とアドバイスしてくれたのだ。

考えてみれば、目指すポジションがあるならそのポジションで迎えてくれる企業に行くのがいちばん。キャリアパスとしても最短だし、その後の成長も格段に早くなるはず──。考えれば考えるほどワクワク感が高まり、CFOの職をオファーしてくれたランサーズへの転職を決めた。

入社直後から資金調達に携わり、半年後には執行役員に就任。株式公開準備などで精神的にも肉体的にも追い詰められ、体調を崩しそうになったこともあったが、心配した経営幹部や夫から言い渡された「3日間の休養」のおかげで回復できたという。

「3日間ひたすら育児に専念して(笑)、これがすごくいい気分転換になりました。子どもたちの笑顔を見て平常心に戻れたというか、仕事モードではない素の自分を思い出せたんです」

管理職が意思決定の調整役だとすれば、役員は意思決定の最後の砦。「背後を守る人がいないから何事も自分で決めるしかない」と、責任の重さをかみしめている。今も苦しい時はあるが、一生懸命考えて後悔のない決断をする、そのプロセスすべてがいい経験になっているという。

今後の目標を「会社をさらに成長させて、同時に自分も成長していきたい」と語る小沼さん。まだ30代後半。実力ある女性CFOを目指して、これからも挑戦と成長を続けていく。

■役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
やるならやらねば

Q 愛読書
LEAN IN』シェリル・サンドバーグ
「仕事でも私生活でも大きな影響を受けた本。子どもを産みたいと思うきっかけにもなりました」

Q 趣味
子育て、料理

Q Favorite item
走れるハイヒール
「新人時代、早歩きの上司に走ってついて行っていました。今もその習性が抜けず、移動の際は歩くより走ることが多いです」