※本稿は池田千恵『「朝1時間」ですべてが変わるモーニングルーティン』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
朝のタスク整理はなぜ重要か
1日の予定をタスク化し、優先順位を決めていくプロセスは、自分にとって何が大切で、どれを捨てるべきか、日々の決断に責任を持つことにつながります。
人生は判断の連続です。忙しいから、まだ先だからと判断を先送りにしていくと、あとで振り返ったとき大きな後悔となります。
朝のタスク整理は、自分にとって譲れない「種まき」を見つけて進めていくプロセスです。これはまさに、自分が何を大切にして、どういう人生を生きたいかを占う試金石となります。タスク化しても1日で終わらせることができなかったとき、自分に足りないところが見えてきます。足りないところが見えれば補うべきところも明確化されます。
自分にできないなら得意な人に頼もう、という判断も、「タスク化」から始まるのです。
タスク化を「モーニングルーティン」に組み込むことができると、次の7つのメリットがあります。
1.「決めグセ」がつき、行動が早くなる
これは、本当に「いま」しなければいけないことか?
これは、私がするべきことなのだろうか?
忙しい毎日、心の中ではそう思っていても、立場上言えなかったり、言うとかえって面倒くさくなるからやめておこう、と思ったり、そもそも考える時間すら惜しくてつい体を動かしてしまう。そんな心当たりはありませんか?
その原因は、「決めグセ」がつけられていないことにあります。
たとえばメールの返信に時間がかかる人は「相手からどういう答えを引き出せばいいか」を決めていないし「いつもこの作業に時間がかかる」と言いつつ、なんとなく時間を過ごす人は、自分の仕事内容を改善しよう!と決めていません。
タスク化を続けることで、「決めグセ」をつけることができるようになります。決めグセとは、言い換えると自分の価値観・好き嫌いを明確化し、瞬時に判断して割り振る力のことです。
毎日の出来事の意味を一つ一つ、「やる!」と決めてやるか、なんとなく過ごすかで、1日の達成感と充実感がまるで変わってきます。まずは小さなことからでいいので、すぐに決めるクセづけをしていきましょう。
その決断が間違いでも決断する力は確実につきます。積み重ねれば判断力自体の精度も向上し、仕事全体にかかる時間も短縮できるようになります。
2.「念のため思考」を排除できる
「朝1時間」で集中してタスク分けをすると、一日の「あれもこれも」の情報を詰め込む余裕がありませんので、厳選してリストにすることができます。
たとえば、相手に最終確認だけをしてもらえばいい資料なのに「念のため現段階のものです」と途中経過を見せるのはよくある行為です。しかし、それを「緊急で重要な」タスクとしては扱わないはずですし、朝一番のタスクにしようとも思わないでしょう。
そもそも、送られた相手は、送られてきた未完成の資料をどう扱ったらいいか迷ってしまいます。なんとなく考えなしに手が動いてしまう仕事の仕方を改めるためにも、タスク分けは有効です。
メールの「CC」機能も「念のため」志向がよく出るものです。「念のためこの人にも耳にいれておこう」と、CCの宛先がものすごい数になっていませんか? CCメールを見ていないからといって、責めることはできません。「CCで入れましたけど」と抗議をするのなら、直接相手にメールをすればよかっただけの話です。
自分と相手に対する時間のムダは「念のため」を疑うことで防ぐことができます。念のためを疑った上で、それでも送らなければいけない、と思ったメールなら、「朝1時間」のタスクにしっかりと入るはずです。
3.自分の作業見積もりができるようになる
残業時間削減や生産性の向上、リモートワークの推進など「働き方改革」のニュースが話題になっています。生産性を向上させ、残業を減らすにはどうしたらいいかが論点となっていますが、私は生産性向上のキモは「それぞれの仕事の〝当たり前〟の見える化と共有」だと考えています。
作業を自分ひとりで抱えてしまう、見積もりが甘い、仕事をひとつひとつ丁寧に終わらせないと気が済まないなど、残業問題は一般的に性格の問題と片づけられがちです。
「見積もりの、どこがどう甘いのか」「丁寧すぎるところとちょうどいいところの見極めはどうしたらよいのか」などの具体的なことは、人と比較しないままだと曖昧になってしまいます。
ひとくくりに「メール作成」「資料準備」といっても、人によって手順は様々です。
仕事が速く正確な人の行動=当たり前が共有化され、シェアできる環境をつくることができれば、生産性は劇的に高まります。
仕事が雑で悩んでいる人も、なんとなくこなしている仕事を「見える化」できれば、仕事ができる人と比べることができます。比べれば、どこが抜けると雑になるかも分かるようになります。先輩や仕事ができる人に「私はこのように仕事をすすめているのですが、先輩はどのようにしていますか? と具体的に質問ができれば、的確なアドバイスも受けられます。その結果、自分の作業を正確に見積もれるようになるのです。
4.仕事を抱え込まなくなる
管理職候補に向けての講演で、参加者の一人からこんな悩みを聞きました。「うちの上司は、アイデアを出すと『いいね! じゃあやって!』と、すぐに任せてくれます。それはありがたいのですが、いまの状態でもパツパツなのに、その上で新しいプロジェクトをスタートさせるのは無理です……」。
ちなみにこの悩みを打ち明けてくれたのは、ベテランで仕事も速く、思いやりや責任感もあり周囲からの信頼も厚い方でした。「仕事は忙しい人に頼め」とはよく聞く話ですが、優秀であればあるほど、どんどん仕事を任せられ、うまく回してしまうからこそ、また仕事が降ってくる──。やりがいがある反面、心理的負担も大きいことでしょう。
ここで盲点となるのが、仕事ができる人ほど、自分の作業プロセスを、実はよく分かっていないことが多いことです。
なんとなくできてしまうから、手順をわざわざ数えたり書き出したりするのがまどろっこしく感じ「説明するくらいなら自分がやったほうが速い」とばかりにまとめて引き受けてしまいがちです。
結果、雪だるま式に仕事が増え、いつまでも仕事を抱えてしまうことになります。
できるからとキャパ以上の仕事を受けて「ひとりブラック企業」にならないためにも、タスク化は重要です。すべきことを分解して、ここはできるけれど、それ以外は助けて、と言えるところまできちんと考えれば、実は「そんなに大変ではなかった」と感じる仕事も多いのです。
5.自分の仕事のFAQ集ができる
ほかにも人がいるのに、なぜかあなたにばかり質問が集中することはありませんか? 忙しく過ごしていると「なんで自分ばかり」「自分でググれ」などと思ってしまうかもしれませんが、繰り返し聞かれることは、「誰もが知りたいけど、なかなか答えにたどり着けないから、答えを知っているあなたに質問してくる」ことなのかもしれません。
つまり、この類の質問には、あなただからこそできる価値が潜んでいることが多いのです。タスク化で何をしているかを明らかにしていくことは自分の仕事について自分で「FAQ集(よく聞かれる質問集)」をまとめてみるようなものです。「いつも同じ質問だ」とうんざりしてしまう仕事の中に、自分「ならでは」の問題解決の「宝」が潜んでいると思えば、それだけで仕事もちょっと楽しいものになりませんか?
「朝1時間」でタスクリストを作ることは、自分が無意識にしていることを言語化する作業です。言語化することができれば自分がどのようにスキルを身につけてきたかを棚卸しし相手にきちんと分かってもらえるように言語化しそれを誰にでもできる形で標準化・体系化することにつながります。
体系化できればほかの人に任せることができ、相手に喜ばれて自分もラクになります。また、「教えよう」の視点で物事を見ると、コミュニケーションの取り方も変わるし日々の仕事について楽しみも見いだせるようになります。
6.すべき残業とやめるべき残業の違いが分かる
タスク分けをしておくと、できた/できなかったが明確になるため、見積もりの甘さも見えてきます。たとえば「残業」と一言で言っても、「やむを得ない残業」と「自分の工夫で防げたはずの残業」の二種類あります。タスク化して作業を振り返れば、「自分の工夫で防げたはずの残業」が明らかになり、削減のための方策を練ることができます。
こんな経験はありませんか。クライアントや上司から企画書作成の指示を受けたとき、その内容を完全に把握せず請け負ってしまったため質問ができなかった。案の定作業中に確認しないと分からないことが出てきてしまった。でも確認したい相手は会議や外出でなかなか戻ってこず、結局チェックしてもらうまでに3時間待ってしまった……。
これは指示を受けた時点で不明点を確認していれば防げたはずの残業です。タスク分けをしっかり済ませておけば、企画書作成というタスクには指示内容の確認・作成・成果物のチェックなども含まれることがあらかじめ分かるので、ムダな残業の改善に取り組むことができます。
自分の残業だけでなく、上司の残業理由も観察して、「自分ならどう改善する」と考えられるようになれば「やむを得ない残業」にモヤモヤすることもなくなります。
7.日中の集中力が増す
「朝1時間」のタスク管理が習慣化すると、朝があなたの「ピークマネジメント」の時間となります。「ピークマネジメント」とは、アスリートが試合の本番に自分を最高の状態に持っていくために、いつもの「勝ちパターン」を儀式として行うことをいいます。
2015年にはラグビーの五郎丸歩選手がキック前にする「あのポーズ」が話題となりました。元大リーガーの松井秀喜選手も現役時代、自分の名前がコールされ、打席に向かうまでに次の動作で精神統一をはかっていたそうです。
・体を前に倒す。
・体を旋回するストレッチで体をほぐす。
・左右で素振りをした後、ピッチャーの投球モーションに合わせて素振りをする。
・打席に入ったとき、足で土をならす。
・構えに入るときにバットの先を一瞬見つめる。
(出所:『壁を打ち破る100%思考法』PHP文庫)
このように、自分が「のってくる」状況を意識的につくる儀式として朝1時間をタスク管理に充てていきましょう。「この行動で私はうまくいった」というパターンを繰り返し、「モーニングルーティン」とすることによって、自分にいい暗示をかけることができます。自然と身体が動くような習慣になれば、行動の幅が広がります。
朝1時間のタスク整理で気持ちよく1日を過ごそう!
心理学者ミハイ・チクセントミハイは周囲のざわめきが気にならないくらい思いきり物事に集中している状態を「フロー状態」と名づけました。朝の1時間でタスクを段取りする行為を「フロー状態」でつくることができれば、朝イチから「このタスクを今日1日でクリアするぞ!」という気持ちが高まります。
また、「朝1時間」でリスト化が済んでおけば、すべきことが自動的に決まってくるため、急な相談や突然のトラブルで仕事が中断したとしてもすぐに「すべきこと」に戻ってくることができます。