コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が広がる中、管理職は部下をどうマネジメントしていけばいいのでしょうか。2015年から「全社員リモートワーク」を実践しているソニックガーデンの倉貫社長が、そのコツを教えます。
ノートパソコンをを使用している若い女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

リモートワーク先進企業のマストアイテム

リモートワークを進めるにあたって、大きな問題になるのが「コミュニケーション」です。データ共有やファイル共有はクラウドを利用することである程度解決できますが、チームで仕事をしている場合は意思や目標の共有も不可欠。メンバーが互いに在宅勤務をしている場合、管理職はどんな行動をとればいいのでしょうか。

話し合うテーマがあらかじめ決まっているときはTV会議が便利です。ただ、これは日時を決めて行うのが一般的で、日常的な相談には使いにくいもの。皆が会社にいれば、席に行って「ちょっと相談したいんですけど」と気軽に声をかけられるところを、日時の調整から始めなければなりません。

気軽な声かけの手段として、最近はチャットを使う企業も増えてきてはいますが、これも相手が今PCに向かっているのかどうか、声をかけていいタイミングなのかどうかなど迷うことが多く、リアルで対面している場合に比べると、やはりやりにくさがつきまといます。

気軽なコミュニケーションの機会が減ってしまうのは、管理職にとって大きな悩みどころ。こうしたやりにくさを解消するため、当社では「Remotty(リモティ)」という仮想オフィスツールを使っています。

残念なマネジメントの代表格は「部下の監視」

「Remotty」は、オフィスに出社するのと同じように仮想空間に出社する仕組みになっていて、Webカメラやチャットを通して、気軽にあいさつや雑談ができます。出社したメンバー全員が一つの画面を共有しており、そこに映る画像は2分おきに更新されるため、今誰がPCの前にいるのかが一目瞭然。

Remottyの画面。バーチャルオフィスに出社している人たちの顔が2分おきに更新される。チャットでのくだけたあいさつや雑談がコミュニケーションの潤滑油に。(画像提供=ソニックガーデン)
Remottyの画面。バーチャルオフィスに出社している人たちの顔が2分おきに更新される。チャットでのくだけたあいさつや雑談がコミュニケーションの潤滑油に。(画像提供=ソニックガーデン)

「おはよう」「今ちょっといいですか」など気軽に声を掛け合うことができ、込み入った話になってくればそのままTV会議に移動することもよくあります。

当社の社員は18都道府県にまたがっており、全員がリモートワークですが、こうした工夫もあってチームの一体感や生産性を保つことができています。マネジメントについても、私自身は特に不便を感じてはいません。

ただ、管理職の人の中には「部下が目の前にいないとマネジメントできない」という考え方の人もいると聞きます。管理職の仕事は、部下が全員オフィスにいるかどうか、サボっていないかどうかを監視することだと思っているのかもしれません。

私は、管理職の仕事は部下に成果を上げさせることであって、監視ではないと考えています。「部下は上司が見ていないと働かないもの」「リモートワークにしたらゲームやSNSばかりするだろう」と思っているとしたら、その時点ですでにマネジメントに失敗しているのではないでしょうか。

そもそも、サボりたくなるような仕事を与えていること自体が間違いなのです。今やっている仕事の意義をきちんと伝えてもらえない、裁量権が与えられずダメ出しばかりされる──。もし自分が部下で、こうしたマネジメントをされていたら、仕事が面白くなくなるのは当然でしょう。

朝イチの5分ミーティングがおすすめ

管理職の本来の職務「メンバーに成果を上げてもらう」を果たすには、やはり丁寧なコミュニケーションが欠かせないと思います。ただ、リモートワークの場合、前述の仮想オフィスツールを使うなど、リアルのオフィスにいるのとは違った工夫が必要になってきます。

私のおすすめは、まず朝イチにミーティングを入れること。チーム全員で仮想オフィスに出社し、仕事を始める前に5〜10分程度雑談をするのです。朝に顔を合わせておくと、今日は誰が仕事をしていて誰が休みなのかわかるので、その日1日お互いに話しかけやすくなります。うちのメンバーを見ていると、声をかけ合うと距離的には離れていても“一緒に働いている感”が高まるようです。

朝の定期ミーティングは、上司にとっては「ちょっと元気がないな」などと部下の異変に気づく機会になりますし、部下にとっては身だしなみを整えて仕事モードに入るきっかけになります。リモートワークには孤独感を覚える人もいるので、こうした“軽い顔合わせ”はそれを防ぐ上でも効果があると思います。

バーチャルお茶会や1on1が大事

加えて、自宅で1人で作業をしているとつい根を詰めてしまいがち。そこで皆に休憩を促すために、「お茶会」と称した他愛のない雑談をしている会社もあります。1対1の雑談タイムをとることも多いですね。

この「雑談」は、リモートワークにおけるマネジメントではとても重要なキーワード。在宅勤務は移動がないため時間効率が高く、以前は1日に1本しか入れられなかったアポイントを3〜4本入れることも可能になります。これだけ働けば当然疲れるわけで、本人も気づかないうちに心身にダメージが出てくることもあります。

リモートワークでは、真面目で優秀な人ほど“働くマシン”になりがちです。管理職の人は、その点を注意深く見るためにも、また休憩を促すためにも「雑談」を積極的に取り入れてほしいと思います。こうして上司から積極的に声かけをしていけば、リモートワークになったからといってコミュニケーションの質や生産性が落ちるなどということは起こらないでしょう。管理職の仕事は、部下がさぼっていないかどうか監視することではなく、こうしたメンタルケアこそ重要な仕事の1つなのです。

飲みニケーションに頼らない真のマネジメント力が試される

今後、「部下は目の前にいるべき」というマネジメントスタイルは変わっていかざるを得ないと思います。新型コロナの感染拡大で、これまでのように全員出社が前提の働き方はできなくなりつつあります。コミュニケーションも、物理的に対面しての雑談や飲みニケーションに頼るわけにはいきません。

そうすると、管理職が「監視」ではない本来のマネジメントをするようになるはずで、ここに大きなメリットが生まれます。真のマネジメント力を持つ人しか評価されなくなるため、これからは優秀な管理職がどんどん育っていくのではないでしょうか。

長年、日本の働き方は生産性が低いと言われ続けてきました。この機会に旧来の無駄な習慣が一掃され、日本全体の生産性が向上していくことを期待しています。