4月8日、新型コロナウィルスの感染防止のための「緊急事態宣言」が7都府県を対象に発令されました。期間は5月6日までとなっています。これによって、認可保育園等の休園が決まった自治体も。生活基盤を支えてくれていた保育園に通えないという事態をどう乗り越えたらいいのか、保護者の間では戸惑いが広がっています。
女性の自宅での作業
※写真はイメージです(写真=iStock.com/S_Kazeo)

広がる登園自粛ムード

保育園は大人と子ども、子ども同士の濃厚接触が避けられない生活の場です。子どもの重症化は少ないとはいえ、保育園の中で、さらに家庭を巻き込んで感染が広がるリスクは否定できません。保育園がクラスターになってしまうのではないかという不安は、現場の保育士や保護者の間で徐々に高まっていたと思います。

東京都内では、すでに3月初旬から認可保育園等で保護者に「登園自粛」を要請する自治体が多くなっていました。当初の「登園自粛」には、下の子の育休中の家庭や、テレワークでの自宅勤務が可能な家庭などがわずかに応じるにとどまっていました。感染拡大が深刻になり、4月上旬には在籍児の約半数が自粛している自治体もあると報告されていました。

東京23区では「原則休園」が続出

今回の「緊急事態宣言」を受け、特に感染拡大が著しい東京23区では、認可保育園等の「原則休園」、つまり特別な必要性が認められる場合を除き保育は実施しないという方針を発表する区が続出しています。

東京23区で最初に「原則休園」を発表したのは渋谷区でした。「緊急事態宣言」の当面の期限である5月6日まで、保育園等はすべて臨時休園になります。ただし、世帯全員が警察官、消防官及び医療従事者などである家庭のみを対象に「特別保育」が行われます。渋谷区に続いて、千代田区、中央区、文京区、墨田区、杉並区、豊島区、足立区などが次々に「原則休園」を発表しました。

一方で、引き続き開園して「登園自粛」を求める方針の区もあります。要請の強さは「やむをえない場合以外は自粛」から「なるべく自粛」までさまざまで、「テレワークができるご家庭は自粛してください」など、具体的な条件が出されている場合もあります。実際の運用は、園の判断にもよると思われます。認可外保育施設の場合は、それぞれの施設に判断が任せられています。

保護者の職業で線引き?

働く親としては、もちろん大打撃です。しかし、子どもの感染や通勤による自身の感染に不安をもっている人たちからは「休園と言ってもらったほうが、会社に休むことを認めてもらえる」と歓迎する声があるのも事実です。家族に重症化リスクの高い高齢者がいる場合はなおさらです。

それにしても、「原則休園」でも保育してもらえる家庭の線引きには、さまざまな異論があると思われます。渋谷区の4月7日時点での「特別保育」の対象は「世帯全員が警察官、消防官及び医療従事者のご家庭等」と書かれていましたが、保育・介護等の福祉施設の従事者がなくていいのか、ライフラインを支える数々の事業も含めないと、あちこちで困った事態が発生するのではないかと懸念されます。

国の「対処方針」では、「ひとり親家庭」も含まれていました。仕事に行けなくなることで即座に生活が逼迫する家庭、保護者が心身の病気を患っている家庭などへの配慮も求められるでしょう。保育を提供しないのであれば、他の方法で支援をしないと、子どもの福祉が損なわれてしまいます。

「何とかなる家庭」が協力することで苦しい家庭を助ける

「登園自粛」の自治体でも、厳しい対応、ゆるやかな対応が織り混ざってくるでしょう。おそらくこういった線引きの範囲も、今後、各自治体で試行錯誤が重ねられ調整されてくるものと思われます。

そのとき、自治体では、固定的な線引きを強行するのではなく、必要に応じて家庭の個別の事情も汲み取って対応してほしいと思います。家庭と子どもの状況を理解している保育園の意見も重要です。

「そんなことをしていたら役所がパンクしてしまうよ」という意見もあります。パンクさせないためには、どうすればいいのか? それは、むしろ利用者の側の問題かもしれません。「なんとかなる家庭」が進んで自粛に協力すれば、どうしても必要なニーズに対応する余地が生まれるはずです。

苦しい家庭は遠慮せずに役所や保育園に相談することができて、自分たちでなんとかできそうな家庭はできるかぎり自治体や保育園に協力する、それが、私たちの社会を守ることにつながります。

「幼児とともにテレワーク」をどう乗り切るか

家庭が「なんとかなる」ためには、保護者の勤務先、つまり会社等の支えが不可欠です。事務業務全体をテレワークなどによる在宅勤務で行う方針を発表する企業もふえてきました。遅々として進まなかった働き方改革が、思わぬところで劇的に進む兆しがあります。

保護者からは「幼児が家にいて仕事をするなんて無理!」という声も少なからず聞こえます。そのとおり。子どもはそばにいる親に仕事なんてさせてくれません。

自治体や保育園には、テレワークできる保護者でも基本的に保育が必要であることは理解してほしいのですが、緊急事態のもと、テレワークできる家庭はできる範囲で頑張ってみるしかないと思います。夫婦ともにテレワークなら、交替で保育を担当して互いの仕事の時間を確保するなどの工夫もできます。

効率がボロボロになっても仕方がない事態

もちろん効率は落ちます。そこは緊急事態ですから、会社も取引先も「子育てはお互いさま」を合言葉に許容する風土をもってほしいと思います。子育てを社会全体の仕事と考えて認めるのも働き方改革の一部だと思います。

そんなふうにして、一時的に効率がボロボロになっても、雇用が継続されて、1年後に苦労話にできれば幸運だと考えるしかないのが、現状です。この機会に業務についての新しい提案をして、コロナ後にもつながる業務改善を進めるなど、先を見る動きができれば理想的です。

なお、「企業主導型ベビーシッター利用支援事業」に参加している会社の社員が1回2,200円の割引券が利用できる制度が以前からありましたが、3月から新型コロナウイルス感染症対策の特例措置が始まり、1回に複数枚、1家庭につき1カ月当たり120枚まで使用できることになりました。この助成金に所得税がかかるという問題も、その後の政府方針で、課税所得に含まれないことなりました。さらに、今回の緊急事態宣言を受けて、3月中だった期間が延長されています。勤務先に相談してみてください。

仕事を継続できないとき

テレワークが整備できていない会社、自宅でできない仕事に従事している人は、どんな働き方ができるのか、会社と話し合うことが大切です。業務継続が難しい場合には、自宅待機、特別休暇などで休めるよう配慮している会社もあります。要望してみてください(有給休暇を取得させた場合の助成金も参照)。

育児休業を延長したり新たに取得したりすることが可能な場合があります。法定では、復職予定の1カ月前までに申し出れば、育休延長ができる権利が認められています(最長1歳まで。保育園等に入れなくて延長している場合はその時点からの延長も可能)。これは法定の最低限なので、会社が認めれば、もっと柔軟な形での延長も可能です。いったん復職している人の再取得は認められていませんが、母(父)親が育児休業をとっていて父(母)親が引き継ぐことはできます。その場合、1歳2カ月まで可能となります(パパ・ママ育休プラス)。

その他、雇用について難しい局面になった場合はしかるべき窓口で相談してみてください。厚生労働省のQ&Aも参考になります。

どうにもならないときは、もう一度、市町村や保育園に相談してみてください。保育のこと、その他の福祉的な支援制度でつかえるものがあるかもしれません。

子どもにとって、登園できない影響は?

子どもにとっても、保育園に行けないことはたいへんなことです。毎日よく遊び、よく体を動かし、よく食べて、よく寝て、健康的な生活習慣を援助されてきたのに、生活が一変してしまいます。

家で仕事をしなければならない親にとっては、ストレスのたまる生活になるかもしれません。親が怒ってばかりだと、子どももつらくなってしまいそう。

夫婦で協力しあって、子どもとの時間を上手にやりくりしあう方法を考える必要がありそうです。保育園での生活をまねて、1日のスケジュールを決めるのもよいと思います。お散歩の時間、室内で子どもと遊ぶ時間は親も一緒になって遊ぶと、親の運動不足も解消されます。子どもはたくさん遊べば、昼寝もたくさんしてくれます。

ちなみに、私自身は、子どもと遊ぶのが下手くそな親でしたが、子どもが大きくなってから悔やんだのは、もっと子どもと遊べばよかったということです。この期間、子どもと過ごした日々の記憶は、きっと人生の宝物になるはずです。

欧米の医療崩壊などの状況を報道で見れば、私たちがどのような危機に瀕しているかは明らかです。地域と、保育園と、夫婦やその他の家族が協力しあって、この危機を乗り越えることが必要です。