足の幅が極細で、しかも甲も薄くてやたらと痛がり。日本人のスタンダードとは真逆の足のため、いつも靴を選ぶのに四苦八苦、既成のパンプスなんてとても履けない……。そんな悩みを長年持つプレジデントウーマン編集長木下が、一念発起してオーダー靴に挑戦することになりました。

仮靴の柔らかさに感動するも、まだ隙間が

2019年11月某日、仮靴ができたとの連絡を受け、再度HOSHINOを訪問する。

「色とかは本番じゃないんで気にしないでくださいね」と渡された仮靴に足を入れる。おお、柔らかい! はいた瞬間に童話の人魚姫じゃないけれど、いちいち皮膚に切り込むように固いと感じる靴が多い中、神経質な私の足を包み込むように柔らかい感覚である。

木下さん

出来上がった仮靴のつま先を触りながら、どこがきついか聞いてくれる。

「固さは使っている皮と紙と糊のバランスなんです。縁のところを固く感じる人が多いので、そこを特に柔らかくと意識しています。踵部分を触ると結構固いでしょ?」と星野さん。確かに踵はしっかりと硬さがある。皮自体が柔らかいわけではないようだ。

歩いてみると、ヒールも安定していていい感じである。強いて言えば、つま先がちょっときついかなあ。「どの辺がきついか具体的に言ってください」親指の内側と小指がちょっと辛いかも。「うーん、もっと細くできますね…」と星野さん。確かに前回Aワイズ以下と言われた足のアーチ部分にはまだ隙間が残っている!

我ながら恐るべし極細の足幅よ!

星野さん、やおら道具を取り出して、つま先をぐいっと締め、さらに先をカット。感覚と、実際の中の指の様子を見るのだという。履いて歩いてみると、先がさらにきつくなったのに、さっきより踵が脱げやすくなっているようだ。

木下さん

仮靴の先をカットして、実際の指の様子を見た上で、調整していく。

「サイズだけじゃなくて、どれくらいを痛いとかきついとか感じるかは個人差があります。その人その人の感覚が大事なんです。実際の細さに加えて足の敏感さ。その辺のバランスが難しいところですね」

仮靴はつくってからこんな風にゆっくり話し合って、ヒールの高さやデザインも全部変えてしまう場合もあるそうだ(その場合は仮靴を再度作成する。価格は同じだが仕上がりまでの時間が長くなる)。この懇切丁寧さこそが、オーダーの醍醐味なのだと実感しました。

私の場合は微調整でOKとなったので、仕上がりまであと3カ月。楽しみである。

半年かけて仕上がり、サイズはぴったりだが……

そして、年明け2020年の2月某日、待ちに待った仕上がりの連絡が入る。うきうきと来店すると、オーダー通りのスクエアトゥのパンプスが!とてもシンプルだけど、シェイプがとても美しい。ストラップは、履いてからちょうどいい場所に穴をあけてくれるという。

木下さん

出来上がったスクエアトゥのパンプス。ストラップの穴は履いてからあけてくれる。

早速、足を入れて立ってみると、ヒールの安定感もばっちりでぱっと見はぴったり。ただ、仮靴の時より、本番は皮のあたりがやや固くてつま先がきつい気がした。そのまま店内をぐるぐると歩いてみる。

木下さん

歩いてみると、仮靴のときより皮のあたりがややきつい感覚があった。

「右側の方が踵に隙間がありますね。調整しましょう」と星野さん。人間の足は左右差があるので、そこまで細かく見て調整をしてもらえるのもフルオーダーならでは。仮靴と同じく、つま先はどの指がどのように痛いか細かく聞かれた。今回は先をカットするわけにはいかないので、具体的にどこがどうと答えるのはかなり難しい。実際に歩きながらつま先に全神経を集中して、どの指のどの辺がきついのか一生懸命考えて星野さんに伝えてみる。

この靴の細さでもまだ足がやや前に滑っているため、まずは中敷きを入れてもらうことになった。

中敷きを入れてみる

滑り防止のために、中敷きを入れてみるも、さらにきつい感覚に……。

「パンプスは実際の足よりも細く作るのが原則です。通常はこれくらいのタイトさでつくるのですが、そもそもの足がものすごく薄いので痛く感じるかもしれませんね」

星野さんが言う通り、中敷きを入れて歩いてみたところ、最初に履いたときにきつく感じたつま先がさらにきつく感じる。

「では中敷きは外しましょう。つま先を少し柔らかくなるように調整します。とりあえず履いているうちにある程度、皮がなじんできますので、そのときに何かあればまた調整します」

靴の調整

道具を使ってつま先を柔らかくしてもらう。この作業だけでずいぶん違った感覚に。

足の幅が細いだけでなく、逆に広すぎる人など、いろいろな悩みを持つ人が来店すると星野さんは語るが、一般に足が細かったり薄かったりする人の方が敏感なので痛いと感じやすく、セオリー通りタイトにつくるのがとても難しいのだという。

「だからこそ、つくるときにできるだけ話し合い、コミュニケーションを取っていただくことが大事なんです。サイズや見た目がぴったり合っていても感覚的につらい場合は、無理せずに言っていただければ調整します」

見た目が合っているからよいわけでもないし、隙間があったら絶対にダメというわけでもないんですね。納得しました。道具を使って柔らかく調整してもらった結果、きつかったつま先はずいぶん柔らかく感じるようになった。

木下さん

ストラップに穴を空けて完成。「履いていただいて何かあれば再調整します」と星野さん。

オーダーした靴の底が履いているうちに減った場合は、木型に釣りこんで底を引き直すこともでき、こまめにメンテすれば10年は履けるという。木型は基本の形が同じ靴なら何度でも使えるわけだし、安い既製靴を買って毎年履きつぶしたり、それなりの値段の靴を買っても履きづらくて結局履かないまま放置、という状況が人生で何度もあったことを考えると、結局のところコスパは悪くないと思う。何より環境にも優しいサステイナブルな買い物であると感じました。まずは、少し履いてみて、慣れてきた段階でまた何かあったら調整してもらいつつ、次の一足も考えることにします。

出来上がった靴
木下さん

ついに出来上がり。靴がぴったりだと足元に安定感があって、足もきれいに見える気がします。

HOSHINO BESPOKE SHOES ATELIER

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