世界経済フォーラムが昨年2019年12月に発表した「ジェンダーギャップ指数」リポートでは、「家庭内の無給労働」(つまり、家事や育児)にかける時間の男女差が大きいほどジェンダーギャップが大きいと指摘されていて、「日本では女性が男性の4倍以上の時間を家事や育児に費やしている」と名指しされている。どうしたら、男性がもっと家事を担うようになるのだろうか。男性の子育てや家事参加を支援するファザーリングジャパンの安藤哲也さんに聞いた。
安藤さん
ファザーリングジャパンの安藤哲也さん

やり方がわからないだけ

男性は、家事の能力がないわけではないんです。

家庭科が中学で男女共修になったのは1993年度。それまでは、男子は技術科、女子は家庭科をやっていました。中学で家庭科を習った最初の男子たちは、もうすぐ40代に差し掛かるくらい。40代の多くは家事のやり方を教わっていないし、親からもそういう教育を受けていません。悪気はないんです。能力がないわけでもない。教わっていないんです。

ファザーリングジャパンでは、いろいろな自治体や企業などで男性向けセミナーをやっていますが、自主的に参加している人ばかりではなく、妻に言われて仕方なく参加するという人が半分くらいいます。中には、「妻が勝手に申し込んだから」という人もいて、そういう人は会場の後ろの方に憮然ぶぜんとして座っているのですぐわかります。

“先輩”の言うことは素直に聞く男たち

それが、セミナーが終わるころには身を乗り出して、「家事も育児も、やっていたつもりだったけれど、全然やってなかった!」と言うようになります。男性はタテ社会で育っているので、“先輩”の言うことなら耳を貸します。「僕も昔は苦労した。あまりにも家のことをやらないので、妻にいつも叱られていた。最初から『スーパーイクメン』の人なんていないよ」と言うと、「安藤さんでさえそうなのか」と話を聞いてくれる。

僕らは、まずは「よく頑張ってるよ」と受け止めてあげます。そして「もうちょっとだけやり方を変えれば、必ず家族から愛されるパパになるよ。僕たちもそうだったから」と話すわけです。

こうした男性には、まずは「名もなき家事をやろう」と言っています。掃除機をかけるだけでなく、掃除機にたまっているゴミを捨てる、トイレットペーパーがなくなりそうだったら補充する、花瓶の水を換える、便座を拭く。これまではいつも「誰か」がやってくれていたことです。意識しないとなかなかそういうことには気づけません。

「レベルZ」の男に幸せな老後はない

ちなみに、僕らの間では男性の風呂洗いにはランク付けをしています。

風呂洗いを依頼されたり、担当になっている夫の多くは浴槽の中しか洗いません。この程度だと「レベルC」。浴槽だけでなく洗い場もきれいにすると「レベルB」。ここまでは何とか到達できますが、次からがなかなか難しい。1週間に1回、排水口の髪の毛を掃除するところまでできたらようやく「レベルB’(ダッシュ)」です。そして、シャンプーやリンスが切れそうになっていないか確認し、なくなりそうになっていたら詰め替える。これが「レベルA」です。

ファザーリングジャパンの理事たちは、このさらに上の「レベルS」です。消耗品の在庫管理をして、なくなりそうだったら買っておくところまでやっているんです。シャンプーやリンスはもちろん、トイレットぺーパー、ティッシュ、洗濯洗剤、水や米、サラダ油、妻が飲むビールなど、重い物やかさばるものを買って、所定の位置においています。物流業界で言うところの、サプライチェーンマネジメントです。

いきなり「レベルS」になるのは難しいですが、こうして具体的な話を聞けば、みんな行動を変えて1ランクは上がるんです。家族みんなが楽になるし、妻がイライラしなくなる。

自分がお風呂に入っていて、石鹸が小さくなっているのに気付いて「おーいママ、石鹸切れてるぞ」と妻を呼んだりするのは「レベルZ」。まず、これでは豊かな老後はないでしょうね。今は働いていて、お金をもたらすATMだから妻もご飯を作ってくれるかもしれませんが、ATMが機能を終えた定年後は真っ先に断捨離されて、熟年離婚まっしぐらですよ。

多様性を教えるのも親の役目

今まで出会った夫婦を見ても、男性の家事に関する行動を変えさせるのは、女性にはなかなか難しいかもしれません。女性がこれをやろうとすると、すべて「恨み節」になってしまいますから。「どうしてできないの?」「どうしてやってくれないの?」「何、この皿の洗い方は!?」……となる。結局、夫の方は「じゃあオレはやらない。この家は妻1人で回るんだからな」となってしまいます。

女性の側もジェンダーバイアスを捨てなくてはいけません。「家事は私がすべてメインでやるもの」と思い込んではいないでしょうか?

確かに夫がやるより自分でやるほうが速いしうまいかもしれないけれど、それではいつまでも楽になれません。しかも、子どもたちにまでジェンダーバイアスを刷り込んでしまうことになります。

女性の中には、「子どもが学校から帰ってきたときに『お帰り』と言ってあげたい」という人がいますが、わが家は妻が会社員なので、平日はだいたい僕が家にいて子どもを出迎えます。小6の息子はよく、友達を連れてくるのですが、先日は息子の友達が「なんで安藤の父ちゃんって家にいるの? 普通、父ちゃんってこの時間働いてるんじゃない?」と言っていました。「オレはもう午前中しっかり働いてきたから、今家にいるんだ」と説明したんですが(笑)。

こういう男性もいるんだ、世の中には多様な生き方や選択肢があるんだということを、子どもたちに知ってほしい。だから家庭内のダイバーシティも大事。多様性を教えるのも親の役目だと思います。

男性は、「MBAよりPTA」

PTAが女性ばかりというのも、子どもたちにバイアスを刷り込んでしまうことになります。それに、男性こそ、どんどんPTAに参加すべきです。

12年前になりますが、僕は、まだ大企業で働く会社員だったときに、子どもの小学校で2年間PTA会長を経験しました。その時、会員全員にアンケートをとって、それまで平日にやっていた会議を、半分平日、半分土日に変えました。そうすると、会社員も出席しやすくなり、役員に男性が3人入ってきました。子どもの教育や地域に関わりたいという男性は結構いるんです。

PTAの日程
※写真はイメージです(写真=iStock.com/RapidEye)

ファザーリングジャパンでは、みんなにPTA役員になることを勧めています。会員のパパで、今年度は40人くらいがPTA会長をやっています。僕は「MBAよりPTA」と言っているんです。お金をかけて行くMBAよりもずっとダイバーシティマネジメントの勉強になります。会社の社長は簡単にはなれませんが、PTAの会長なら手を挙げるだけでなれます。個性的で、多様な保護者たちがあつまるPTAをまとめ上げられたら、多様性推進や女性活躍推進の名マネジャーになれますよ。

将来の夫に年収900万円を求める女子大生

僕が毎年、授業をしているある女子大では、「専業主婦になりたい人?」と聞くと、3、4割の手が上がります。

去年の授業で、教室にいる学生の1人に、「10年後に結婚しているとして、夫には年収どれくらい稼いでいてほしい?」と聞いたところ「900万円くらいでいいです」と答えました。ちょっと遠慮して、1000万円より下げたんでしょう(笑)。

「今、30歳の平均所得は400万円を切ってるんだよ」と言うと、「えー! 困ります」と言うんです。「ママになったら、ママ友と代官山のカフェでランチをしたいのに」と言うわけです。「そりゃ無理だな。行けるのはファストフードくらいかな」と言うと「どうしたらいいんでしょう……」。

「きみも働けばいいんじゃない? 夫が400万円で、自分が働いて350万円だとしたら、世帯年収750万円くらいになる。代官山は難しいかもしれないけど、中央線沿線だったらランチできるんじゃない?」

だいたいこんな話をした後で、家庭での父親の役割や、父親が育児に参加すると母親のためにも、子どもの成長にもいいんだといった話をします。それから90分の授業の最後にもう一度「この中で、専業主婦になりたい人」と聞いたところ、手を挙げる人はゼロになりました。

僕が大学生のころは、奨学金で大学に来ている人の割合は10%程度でしたが、今は半数が奨学金だそうです。これから、日本の景気が急速に良くなって年収が増えるとは考えにくい。そうであれば、夫婦で働いて、ハイブリッドで家事や育児もやっていく方がいいに決まっています。

そういうリアルな考え方を、家庭でも教育の現場でも教えていく。ジェンダーギャップの解消には地道な行動が必要ですが、僕ら大人ができることはたくさんあります。