中央大学ビジネススクール教授・東京大学名誉教授 佐藤 博樹先生 撮影=小林久井(近藤スタジオ)
中央大学ビジネススクール教授・東京大学名誉教授 佐藤 博樹先生 撮影=小林久井(近藤スタジオ)
1月28日、プレジデント ウーマンの主催で女性管理職の育成を考えるイベントが開催されました。今回は、さまざまな企業の人事・ダイバーシティ担当者約60名が参加。人的資源管理やダイバーシティ経営に関する研究の第一人者である佐藤博樹先生とともに、課題やその解決法を探りました。

時短勤務が長引くとキャリアへの意欲を失う人も

各国の男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」。2019年、日本は153カ国中121位と前年よりさらに順位を下げ、いまだ格差が大きいことが明らかになりました。女性管理職比率も、多くの企業が取り組んでいるにもかかわらず、なかなか上昇の気配が見えません。

今回のイベントには、女性管理職育成のヒントを得ようと大勢の人事・ダイバーシティ担当者が参加。木下明子本誌編集長の挨拶や、続く佐藤先生の講演に聞き入りました。

佐藤先生はまず「女性が管理職目指してキャリアを積むには、結婚や出産を選択した女性では、育休取得後に無理なくフルタイム勤務できる環境が必要」と指摘。現状は、育休後の時短勤務からなかなかフルタイムに戻れず、そのうちキャリアへの意欲を失ってしまう女性が多いのが実態とのこと。

時短勤務からフルタイム勤務に早期に戻れない理由は、夫が家事・育児に参加しないことや、フルタイム勤務は残業が多く仕事と子育ての両立が難しいことなど。佐藤先生は、女性管理職を増やすにはこれらの解決が必須だといいます。

「人事担当者は、女性社員の夫とも話して家事育児の分担を促してほしい。同時に、フルタイム=残業が当然という働き方も変えていくべきです」

この提案に、自社の取り組みと比べてうーんと考え込む参加者も。

【女性が活躍するための4つの条件】

(1)採用機会が男女均等である
(2)結婚や出産などのライフイベントを経験しても就業が継続できる(両立支援制度がある+両立可能な働き方がある)
(3)育成・能力開発機会が男女均等である
(4)本人にキャリアの向上意欲がある

女性を昇進から遠ざける「無意識の思い込み」

中央大学ビジネススクール教授・東京大学名誉教授 佐藤 博樹先生 撮影=小林久井(近藤スタジオ)
「男性管理職にも育成スキルを持った人を登用すべき」と佐藤先生

また、時短勤務が長くなると,残業が多い職場だととりわけ重要な仕事を任されにくくなるという弊害も出てくることになります。さらには、男性上司が「時短勤務だから出張は無理」「女性は管理職に向かない」と思い込んでいることもしばしば。上司に悪意はなくても、子育て中の女性には自己成長につながる仕事を割り振らないなど、本人の仕事意欲をそぐ結果になりがちです。

こうしたアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)も、女性を昇進から遠ざける要素の一つ。これを解決するには、男性管理職の意識改革と同時に、「部下を理解し育てるヒューマンスキルを持った人を管理職に登用すべき」と佐藤先生。

子育て中も無理なくフルタイムで働ける環境をつくる、男女別なく部下に育成機会を提供できる管理職を上司にする──。佐藤先生の言葉に、参加者は皆、新たな視点を得た様子でした。

質疑応答では多くの人事担当者からリアルな悩みが寄せられました

講演終了後は約1時間の質疑応答タイム。「管理職になりたくないという女性に意欲を持たせるには?」「女性管理職の数値目標はおくべきか」など多くの質問が投げかけられ、参加者にとって悩みや疑問を解消するよい機会になったようでした。

イベント終了後の懇親会は佐藤先生と参加者の交流の場に 撮影=小林久井(近藤スタジオ)
イベント終了後の懇親会は佐藤先生と参加者の交流の場に

続いての懇親会も、各自が佐藤先生の知見を得たり、参加者同士の交流を深めたりする場に。早くも次回を期待する声も上がっていました。

プレジデント ウーマン編集長・木下明子
【女性リーダーが特別でない、社会をつくる。】

日本のジェンダー・ギャップ指数は前年の110位から121位へとランクダウンしました。他の先進国では着実に男女格差が縮まっているのに、日本ではなぜ遅々として進まないのでしょうか。特に企業においては、女性管理職比率が低いままでは、やがて海外投資家にもそっぽを向かれてしまいます。

そこでプレジデント ウーマンでは、女性管理職の育成や、女性が自らリーダーを目指したいと思える環境づくりをお手伝いしたいと考え、「ダイバーシティ担当者の会」を発足させました。今後もセミナーイベントなどを通して、企業の人事・ダイバーシティ担当の皆様と一緒に、女性管理職を増やす手立てを真剣に考えていきたいと思います。

――プレジデント ウーマン編集長・木下明子