新型コロナウイルスの脅威は、企業活動にも影響を与えている。東京五輪や災害、異常気象への対応も含め、改めてフレックスタイム制やリモートワークへの注目が集まっている。こうした制度を日常的に運用できている企業では、今回の事態への対応も迅速に、身軽に行っている事例が見られる。その一方で、なかなか新しい働き方が浸透しない組織もあると全国の企業・自治体・官公庁などのワークスタイル変革やマネジメント改革に取り組んできた沢渡あまねさんは指摘する。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Tsuji)

2016年から「満員電車禁止令」

オーディオブックの制作・配信を行うオトバンク(本社:東京都文京区)は、1月27日時点で以下の対応をとり、告知をしている。

<1>通勤ラッシュ時(午前7時~午前10時)において全従業員が電車通勤を回避
<2>不要な出社を控え、基本的に在宅勤務を実施
<3>外出時および社内においてマスクの常時着用を実施

(同社ホームページより)

同社は社員のパフォーマンス向上を目的とし、「満員電車禁止令」を2016年の時点で実施している。すなわち、出社しなくてもよい働き方を当たり前のように実践しているのだ。

会議はリモート参加者がいる前提で進められる

では具体的にどのような方法で「場所の制約」を受けない働き方を実践しているのか。

同社では、満員電車禁止令を導入したのと同じ16年、各社員がパフォーマンスを上げる働き方を選択できるよう、リモート勤務をOKにし、ラッシュ時の通勤を避けての出社を推奨(フルフレックスを導入)している。

会議ではGoogle meetを活用し、基本的にリモート参加者がいる前提で実施されている。モニター、ウェブカメラ、スピーカーなどリモート会議用の環境も整備。チャットツールのslack(スラック)を利用し、各メンバーが仕事の状況を共有するようにしている。早く仕事をあがるのか、どんなスケジュールで動くのかまで把握できるようになっているという。同時に対面でのコミュニケーションが不足しないよう、月1のランチ会で全員集まる場を作るなどの工夫をしている。

このほか、ドコモ・ヘルスケアやJT、パソナグループなどの大企業でも、新型肺炎への措置として在宅勤務を推奨する企業が増えてきている。

普段から出社や対面に依存しない働き方を実践している企業は、淡々と対策を実施しつつ、ビジネスを継続することができている。社員も常日頃から対面に依存しない働き方をしているため、混乱はない。

今回の新型コロナウイルスのみならず、自然災害の強大化など天候リスクも高くなる昨今、どの企業も常日頃からリモートで仕事ができる働き方に変えていく必要があろう。

対応が遅い企業の恐るべき「気合・根性」主義

一方で、なおも働き方を頑なに変えようとしない企業もある。その根底には日本人お得意の「気合・根性主義」が垣間見える。

幸か不幸か、いままで個々人の気合・根性でナントカなってきてしまっていた。天候不順でも気合で出社する。体調が悪かろうが根性で頑張る。そのような歪んだ成功体験と、バイアス(思い込み)が相乗効果をもたらし、「自分たちには関係ない」「私だけは大丈夫」「今回も気合・根性でナントカなる」と思ってしまい、普段どおりの行動を選択させる(あるいは周囲の人たちに強いる)のだ。

「休むことは悪」

このような価値観も、少なからず日本人の行動様式に影響を与えているであろう。私たちは、子どもの頃から「休まないことが美徳」「休むこと=サボること=悪」の価値観で育てられた。たとえば、小学校では一日も授業を休まなかった子どもに対して「皆勤賞」が与えられる。部活も、練習を一日も休まないことが前提とされる。この根強い価値観により、「何が何でも出社する」マインドと同調圧力のような空気が醸成される。

例えば、

・仕事を脱属人化する(担当者がいなくても仕事が回るようにする)
・ペーパーレスを進める(出社しなくても仕事ができるようにする)

など、そろそろ仕組みと仕掛けで出社しなくても業務を継続できるやり方に改めていかなければ、個人も組織も共倒れになる。

対応が遅い企業に顕著な“製造業型マネジメント”

日本において支配的になっている製造業型の管理モデルも問題だ。

「皆出社しているのだから、自分も出社しなければ」

このような横並びを助長するからだ。

長らく、日本は大手製造業や自動車産業を頂点とする統制型の仕事のやり方やマネジメントが正とされてきた。

このようなマネジメントにおいて、逸脱することは悪とされる。そして、マネジメントはおのずと「逸脱させないための管理をする」統制型、性悪説型となる。

いままではそれでよかった。トップや企画部門が答えをもっていた。彼ら/彼女たちが決めたものを作って売れば儲かるビジネスモデルであった。そのビジネスモデルにおいて、統制型および性悪説型のマネジメントは合理的と言える。企画部門であろうが、営業部門であろうが、IT部門であろうが、一律製造現場に最適化された「統制型」の制度や環境のもと、横並びで仕事をさせられる。不公平は許されない。

しかし、これからの時代においてはどうだろう? 製造業型のマネジメントは、すでに以下のような弊害をもたらしている。

・上意下達型。指示も情報もトップダウンでおりてくる
⇒「指示待ち」人材を増やす
・業務プロセスやルールが細かに決められている
⇒イノベーティブなアイディアや行動がうまれにくい
・決められた指示系統の中での報連相が求められる
⇒雑談や自由な意見交換がおこなわれにくい
・全員が8時30分~17時30分(例)の固定勤務
⇒自身のパフォーマンスが高い時間に働くことを制限する
・昼休みも固定。しかもわずか45分のみ
⇒十分にリフレッシュできない。人間関係を固定化させる。外部の人たちや情報に触れにくい

リモートワークを頑なに拒むケースも

目ざましい技術革新とグローバル化が両輪で急加速する昨今、もはやトップが答えを持ち得ない、組織の中にも答えがない時代である。そのような時代にあって、旧来製造業型の仕事のやり方はもはやリスクである。おのおのの領域のプロが、組織の壁を越えて社内外の他者とコラボレーションをしていかなければ問題解決も新たな価値創造もおこらない。

部署ごと、職種ごと、個人ごとに「どんな仕事のやり方がもっとも価値を発揮できるか」を真剣に論じ、横並びを脱していかなければ主体的な働き方などいつまでたっても夢物語だ。

実際にこうした硬直化した風土の職場で働き方改革を進めようとしても、一部の人の「自宅では落ち着いて仕事ができない」「家にいたくない」などの反発により、リモートワークが定着しない事例や、「製造現場で働く人はリモートワークなんてできない。不公平だ」といった理由でリモートワーク導入が見送られるケースも珍しくない。さらには、ITツールを使いこなせない、使おうともせずリモートワークを頑なに拒むというケースもいまだに見られる。

不公平でも第一歩を踏み出すべき

「やれる人はやる」

このくらいの割り切りで、リモートワークできる人はどんどんやれるようにするべきだ。

横並び主義での「リモートワークNG」は、リモートでも成果を出せる、セルフマネジメントができる人材に対して大変失礼でもある。組織や仕事に対する帰属意識(エンゲージメント)も熱量も下がる。

残念ながら、製造業や自動車産業の統制モデルはもはや過去の成功体験である。高度経済成長を支えてくれたことに最大限の感謝を示しつつ、そろそろ見直すべき時にきている。

今回のような状況をきっかけに、逸脱や例外を認めることから始めたい。例えば

・リモートワーク可能な部署や職種はリモートワークに切り替える
・フレックス勤務を部分的にでも取り入れる

など、たとえ不公平であっても、制度や働き方のルールを弾力的に運用する第一歩を踏み出してほしい。これができるかどうかが、企業間における緊急対応力の差につながっていくのだ。