セクハラの被害にあった場合、社内の相談窓口を信頼してすぐ相談に行ってもいいのでしょうか。相談するときの注意点について、齋藤健博弁護士に聞きました。
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相談窓口の設置を義務化

セクハラは働く女性にとって大きな悩みの一つで、残念ながら被害の報告が後を絶ちません。しかしこのたび女性活躍推進法が改正され、2020年6月から、一定の規模を有する企業にパワハラに関する社内相談窓口を設置することが義務付けられ、中小企業でも拡大していくことになります。たとえ小さい会社であってもパワハラ・セクハラ相談窓口が設置されることになっていきます。女性にとってはいざというとき駆け込める窓口があるというだけでも、かなり心強いのではないでしょうか。

とはいえ、相談窓口を設置するのは会社側です。本来であれば利害関係のない第三者が窓口となるべきですが、会社側が設置するものである以上、相談窓口の担当者が会社側に有利な判断をする可能性もあるのです。

窓口に相談するときの注意点

たとえばある有名な大企業では、女性社員が相談窓口でセクハラの事実を訴え、裁判を起こすと言ったとたん、「それなら、この会社にいないほうがいいよ」と退職をすすめられました。その女性はまだ22歳と若かったこともあり、「そんなものかな」と思って退職を承諾してしまったのです。

あるいは窓口に相談したにもかかわらず、企業側が何も手を打たないこともあります。通常、相談後は事実関係の調査に移りますから、先方からのヒアリングが必ずあります。何の動きもない場合は窓口が機能していない証拠ですから、弁護士に相談するなどして本格的に争うことも検討することになります。相談窓口を訪れたにもかかわらず、会社が具体的に動かないこと自体、大きな問題だからです。

なぜこのようなことが起こるかといえば、セクハラはほとんどの場合、何らかの役職にある男性社員と、それより立場が下の女性社員のあいだに起こるものだからでしょう。会社側から見て女性と男性ではどちらが大事な社員かといえば、男性である場合がほとんどなのです。

したがって会社は男性を守るために女性の訴えを退けるだけでなく、逆に女性を退職に追い込んだり異動させたりするなど女性に不利な処分を下すケースも珍しくありませんでした。

しかし今回の法改正では、セクハラを相談したことで相談者が不利益を被ることを強く禁止しています。今後はこのようなことも減り、相談窓口が利用しやすくなるはずです。

日記やLINEなどで経緯を残し、上司にも相談

もしセクハラを受けた場合、重要なのは、「証拠」を残すことです。加害者がセクハラの事実をすんなり認めることはまずありませんし、言い分は食い違うものだと思っていたほうがいいでしょう。そうなったときのために、証拠はあったほうが望ましいのです。したがって、心理的にはすぐ削除したくなると思いますが、相手からのメールやLINEのスクショなどは必ずとっておきましょう。自分で書いた日記やメモでもOKです。

また、後日、「上司に相談した」という事実を主張するためにも、直属の上司に相談しておくことも必要です。

しかし証拠がないからといって、相談窓口に相談できないと考える必要はありません。証拠がないと言い出しにくいかもしれませんが、本当に証拠が必要になるのは裁判になった場合の話。相談の段階ではそこまで厳密に考えることもないでしょう。

そもそもセクハラは、思いがけないときに突発的に発生するもの。ある女性は整体院に勤めようとしたら、院長から施術の練習台になるよう命じられ、4~5人のスタッフの前で裸にさせられたといいます。このような場合、物的証拠を残すのが難しいことは想像できます。つまりセクハラの証拠などないのが普通。「証拠がないから相談できない」と思う必要はありません。

また、相談すればその記録が残ります。最悪、裁判になったとしても、自分が被害にあったあと、どういう行動をとったかが参照できるようになります。

少しでも違和感があれば、まずは相談窓口へ

もう一点、セクハラに関して知っておきたいのは、加害者個人だけでなく、使用者である会社に対しても、損害賠償と慰謝料を請求できるということ。なぜなら会社にはセクハラのない環境を用意しなければいけない「使用者責任」というものがあるからです。そういう意味ではセクハラがあった場合、社内相談窓口を利用するのは当然だともいえるでしょう。

セクハラを受けた女性のなかには、「自分にもスキがあったかもしれない」「何か誤解されるような言動をしてしまったのかもしれない」と自分を責める人もいます。

しかし、仮に誤解させるような言動があったとしても、そのあとどういう行為があったかがすべてであり、相談をためらう必要はありません。仮に「一緒にホテルの部屋に入った」というような行為があった場合は、その分、慰謝料をマイナスにされることもありますが、相談の段階ではそこまで厳密に考える必要はないでしょう。

もともと女性はセクハラの被害者になりやすいという意味では、弱い立場にあります。窓口に相談することは、そのギャップを埋めることにつながります。それを後ろめたく思う必要はないのです。

そもそもセクハラは他人に相談しにくいものですし、なかには「私のケースはセクハラと言えるのだろうか」と悩んでいる人もいるかもしれません。確かに何をもってセクハラとするのかは微妙な問題ですが、「イヤだなあ」と違和感をもった程度で相談窓口に行っても、まったく問題はありません。先述したような点に注意しながら相談窓口は積極的に利用すべきだと思います。