管理職、女性社員の意識改革に取り組む ―ダイキン工業―

空調大手のダイキン工業は、1990年代から女性活躍推進に取り組んできた歴史がある。

人事本部 ダイバーシティ推進グループ 女性活躍推進担当部長 池田久美子さん

「2001年の段階で女性社員は1割に満たず、女性管理職も2人だけ。しかし19年7月現在、女性社員比率は16.5%、女性管理職は61人。女性の採用を増やすとともに、管理職の育成・登用に力を入れてきたことから、着実に増やすことができました」と人事本部ダイバーシティ推進グループ女性活躍推進担当部長の池田久美子さんは語る。

女性の力を生かす取り組みを加速させるため、11年に経営トップ直轄の女性活躍推進プロジェクトが発足。全社を挙げての本格展開が始まった。

当時、社内で行ったヒアリングから、女性の活躍を阻んでいる2つの課題が浮かび上がった。1つは管理職のマネジメントの問題。「女性は管理職になりたがらない」「叱ったら泣くから叱れない」といった先入観や苦手意識があること、時間に制約のある人のマネジメントに慣れていないことなどから、女性の育成意識が希薄だった。もう1つは女性自身の問題。人生の選択肢が多いため、長く働き続ける意識が低く、管理職へのチャレンジにも消極的になりがちだった。

そこで同社は、意欲・能力のある人材には男女を問わず「修羅場」を与えて育てるとともに、競争社会を勝ち抜いていく覚悟を持つことを求め、管理職と女性の双方に意識改革を行うことを決めた。

「『男女の違いは出産のみ』と捉え、性別にかかわらず仕事と育児を両立できる風土づくりへの取り組みが始まりました。まずは、キャリアブランクを最小にしながら仕事に打ち込んで成長し続けたいという社員を最大限支援しようとの狙いから、出産・育児を乗り越えるための思い切った施策を打ち出すことにしました。女性管理職は数値目標を設定して着実な登用をめざすものの、決して数合わせの女性優遇の登用は行わないことも明確に打ち出しました」

育児・出産をキャリアブレーキにしないために

同社には女性活躍のための支援策が多々あるが、その目的は子育て支援ではなく、キャリアアップ支援だ。働き続けることが各自の能力の向上につながると考え、出産・育児をキャリアブレーキにしないための施策を強化してきた。

12年からスタートしたのは、育児休暇からの早期復帰者支援。特に生後6カ月未満で復帰する人への支援が手厚い。たとえば、子どもの病気や残業、出張時に利用したベビーシッターなどのサービス費用を補助する「育児支援カフェテリアプラン制度」。通常は子ども1人あたり年間20万円までだが、生後6カ月未満復帰者は最大60万円に拡充。復帰後1カ月間は4時間の短時間勤務、子どもが1歳になるまでは6時間のフレックス勤務が可能など、柔軟な勤務形態も導入している。在宅勤務制度も、子どもが1歳になるまでの間に限り、週4回まで認められる。

また、育休から復帰した社員と上司・パートナーを対象に「育児休暇復帰者セミナー」を開催。仕事と子育ての両立のコツや情報提供を行っている。

人事本部 ダイバーシティ推進グループ 担当課長 野間友惠さん

「短時間勤務を続けていると、いつのまにかマミートラックに乗ってしまうリスクがあります。セミナーでは、フルタイムに戻すタイミングはいつなのか、自身で考えていきましょうと働きかけています」と同担当課長の野間友惠さんは語る。

こうした施策によって、早期復帰者は年々増えており、18年度は育休からの復帰者63人中31人が1年未満、そのうち10人が6カ月未満だという。

一方、女性管理職の育成も、さまざまな仕掛けを施している。その1つが12年から行っている「女性リーダー育成研修」だ。

「若手社員を対象に毎年約20人を選抜し、7カ月かけて行います。結婚・出産というライフイベントを迎える前に、自らのキャリアについて考え、リーダーをめざす意識を持ってもらうのが目的です」(野間さん)

さらに、部門別に女性を登用するポジションを決める「女性フィーダーポジション」を設置。候補者を挙げて、計画的な育成に取り組んでいる。

空調営業本部 事業戦略室 企画担当課長 安藤聡子さん

「名前を挙げて管理職候補を把握することは以前からずっとやってきたので、今度はポジション側から育成の仕掛けをつくろうということ。候補者の昇進が必ずしも約束されているわけではありませんが、修羅場を与えて育てることで成長の加速につながると考えています」(池田さん)

ここまで力強く女性の活躍推進に取り組んできた同社が、さらに必要と考えていることは何だろうか。

「社内全体の意識は大きく変わってきましたが、十分とは言えません。いろいろなスタイル、いろいろな個性の女性管理職がたくさん実在するということが、最も社員の意識を変えるのではないかと思います。20年度末までに女性管理職100人の実現をめざし、今後も着実に努力を続けていきます」(池田さん)

支援制度の充実が仕事の意欲につながる

空調営業本部の安藤聡子さんと法務・コンプライアンス・知財センターの安田佐和子さんは、管理職として活躍するワーキングマザー。8歳と6歳の子どもを持つ安藤さんは、2回とも出産から11カ月で職場に戻った。1人めの育休後は短時間勤務から再スタート、2人めのときはフルタイムで復帰。子どもが小さいころは、定時よりも早く出社して早く帰宅する勤務スタイルをとった。

法務・コンプライアンス・知財センター 法務グループ 担当課長 安田佐和子さん

2歳児の子育て中という安田さんは1年4カ月の育休の後、フルタイムで復帰。現在、定時より1時間ほど早く出社し、そのぶん早めに仕事を切り上げる。時差のある海外拠点との電話会議があるため、スポットで在宅勤務も利用している。

2人とも、仕事を続けるうえで育児支援の制度は欠かせなかったという。子どもの急病時などは、法人契約している病児保育などの支援会社「マザーネット」を利用。安田さんは実家の親の支援を受けるための交通費の補助も利用している。

「夫が海外に単身赴任しているので一時は退職も考えました。支援制度があったから、今まで築いてきたキャリアを継続させることができたと思っています」(安田さん)。「いざとなったら頼れる制度のおかげで、出張など仕事の日程を決める際も調整がしやすく、気持ちにゆとりが持てました」(安藤さん)

仕事と子育ての両立支援を受け、管理職としても思い切って仕事に挑戦できると実感している。

専門職でキャリアアップしていきたい

「法務という専門職でキャリアアップしていきたい。管理職になったからこそできる仕事もあって、今はそれがおもしろい」(安田さん)。「仕事とプライベート、それぞれに楽しさがあることが大事。そうすれば上手に切り替えができるし、どちらもがんばれると思います」(安藤さん)

テクノロジー・イノベーションセンター テクノロジー・イノベーション戦略室 栗山直子さん

ロールモデルとなる先輩たちの姿を見て「仕事と育児の両立に不安がなくなった」と語るのは、テクノロジー・イノベーションセンターの栗山直子さん。1年ほど前に結婚、自らやりたいと希望した仕事を任され、意欲的に取り組んでいるところだ。

入社5年めに女性リーダー育成研修に参加して、初めて長期的なキャリアプランを考えるようになったという。「自分のキャリアの責任を持つのは自分であることを学び、成果を出すことへの貪欲さが増してきました」と話す。管理職をめざす気持ちはまだ強くはないが、意識の変化がリーダーへのチャレンジにつながっていくのでは、と考えている。

育児支援制度や女性リーダー研修制度など、ダイキン工業の施策は一人ひとりが前向きに仕事に取り組めるよう後押しし、成長を促す原動力になっている。

育児支援カフェテリアプラン制度
子ども(小学6年生まで)の病気、残業、出張時に利用した外部サービス費用を会社が補助する制度。ベビーシッター利用、実家の親の支援を受けるための交通費、保育所の延長保育費用、病児保育施設利用料など、複数のメニューがある。子ども1人あたり年間20万円までだが、生後11カ月未満で復帰すると最大30万円、生後6カ月未満で復帰すると最大60万円と、早く復帰するほど支給額が増加する。
女性リーダー育成研修
若手女性社員を対象に、リーダーをめざす覚悟を持ち、自らの意識変革を目的とした研修。2012年から毎年実施し、部門から選抜された20代~30代半ばの若手女性約20人に対し7カ月で5回の集合研修を行う。ディスカッションやグループワークをとおして、リーダーシップについて考えたり、自己認識を深めたりするほか、ライフイベントを乗り越える意識を持つことが狙い。