新人時代は「何となく働く人」だった
シーチャウさんは中国・四川省の出身。18歳の時に留学で来日し、学生時代にはサークルやアルバイトなどさまざまな活動に打ち込んだ。さらに、学生ベンチャーからヘッジファンド、外資コンサルまで幅広い企業でインターンを経験。こう聞くと、若い頃から意欲にあふれた“働き女子”だったように映るが、本人は笑いながら首を振る。
「全然違うんです。サークル活動や飲み会が大好きで、勉強や仕事への意識も決して高くない“ゆるふわ”な学生でした。ただ単に、新しいことに首を突っ込むのが楽しかったんです。働くことで充実感もありましたが、当時の私にとっては学生生活を楽しむことのほうが大事でした」
卒業後はP&Gに入社し、マーケティング部門に配属。当初は特にキャリアアップを目指すこともなく、毎日できる限り効率よく、かつ楽に仕事を片づけてはさっさと帰宅していたという。
もともと要領がよかったのか、それでも特に失敗することも怒られることもなく、「何となくやっていけていた」と語るシーチャウさん。ところが、2年が過ぎたある日、上司からの「本音の評価」に衝撃を受ける。
「普通」の評価にやる気スイッチがON
「私への評価は『普通』だったんです。特に悪い点はなくて、全部ほどほどにこなせていると。こなせているのなら『優秀』じゃないのかと聞いたら、でも結果を出せていないよねってはっきりと言われて……。そこからマインドセットがガラリと変わりました」
これが転機になった。以降は徹底的に結果にこだわるようになり、仕事への取り組み方も変化。あの一言がなかったら、ずっと“ゆるキャリ志向”のままだったかもしれないと振り返る。本当のことをズバリと指摘してくれた上司とは、今も一緒に飲みに行く仲。シーチャウさんの成長を喜んでくれているという。
この心境の変化は、次の職場を選ぶ際の柱にもなった。結婚し、当時の勤務地だった神戸から、夫が住む東京へ引っ越した翌年のこと。さらに結果を求めていこうと、フットケアブランドのドクター・ショールに転職した。
選んだ理由は「このビジネスなら私が結果を出せると思ったから」。その確信通り、入社1年目で足裏の角質を除去する「ハードスキンリムーバー」を大ヒットさせる。海外向けの商品を日本女性向けにアレンジして売り出そうというアイデアだったが、提案した当初は社員の大半が半信半疑だったそう。
「絶対売れるからって言っても全然信じてもらえなくて。でも、CMが流れたその日から注文が殺到して、すぐに欠品するほどでした。いい商品だと信じて頑張ってつくったら、消費者に喜んでもらえた。初めての成功体験で本当にうれしかったですね」
反対していた人も「結果」を出せば認めてくれる。その「結果」は、消費者ニーズにきちんと向き合えば必ず出せる──。シーチャウさんの確信はさらに深まり、その後もアイデアに反対する上司を、時には本社を、売上という結果で納得させていった。
結果にこだわる姿勢がキャリアを押し上げた
結果を出すためにシーチャウさんが重視したのは2つ。消費者ニーズをつかむためのマーケティングと、店頭で最もいい場所に並べてもらうための営業だ。例えば、ドラッグストアなどに新商品をプレゼンする際は、営業マン任せにせず、マーケティング担当のシーチャウさんも同行したという。
シーチャウさんの熱のこもったプレゼンはストア側の共感を呼び、店内で最も売れやすい場所に置かれるようになった。さらに、受注数の多い営業マンに対してはインセンティブを用意し、組織内に「売りたい、売ってみせる」というムードをつくり出した。
「結果を出そうと思ったら、品質やマーケティングにこだわるだけでなく、組織を動かすことも必要だなと実感しました。それから組織づくりに興味を持ち始めて、チャンスがあればやってみたいと思うようになって。ちょうどその頃、ジョンソン・エンド・ジョンソンのマーケティング本部長にというお話をいただいたんです」
オファーがあった時、シーチャウさんは31歳。大企業の本部長といえば、普通は10~20年仕事経験のある人が就くポジションだ。最初は「本気で言っているのかな」と半信半疑だったそうだが、面接でじっくり話を聞いた末、自分を成長させるチャンスと考えてチャレンジを決めた。
そこから退職の日までは毎日泣いて暮らしたという。それほど会社が大好きになっていた。自分なりに結果を出すコツはつかんだし、周囲からも評価されている。人間関係もよくて居心地は最高。それなのになぜ転職するのか──。最終的に背中を押したのは、「このまま楽な環境にいたら成長できない」という思いだった。
2015年、ジョンソン・エンド・ジョンソンに入社。新しい職場は25人ほどのチームで、若い女性がいきなり本部長として赴任してきたのだから、反発を感じた人もいたに違いない。
そんな空気の中、シーチャウさんは「これからはアグレッシブに結果を求めに行く」と宣言。10年も横ばいが続いていた業績を伸ばすため、組織改革を開始した。
新しい景色を求めて未知の業界へ
「でも、組織改革ってあまりハッピーじゃないんですよ。皆に結果を出してもらうためには、心を鬼にしてキツいことを言ったりしなくちゃならない。そのつど信念をもって決断してはいましたが、痛みもたくさん経験しました」
就任から2年後、商品のブランドシェアは大きく向上し、業績は一桁台後半の伸びを見せた。つらい時期もあったが、この結果は大きな自信になったという。自分なりに、組織改革のサイクルもつかむことができた。
改革中は数字も出ず、部下からの不信感も受け止めるしかない「耐える時期」。でも、そこを乗り越えて結果を出した時の評価は想像以上──。組織改革のプロセスを経験して、シーチャウさんは大きく成長した。
この成果が認められ、当時としては史上最年少で香港現地法人の社長に就任。ここでも、不振に陥っていた業績を見事に立て直してみせた。ただ、前回とまったく同じプロセスを踏み、同じ景色を見たことで「ちょっと飽きちゃった(笑)」のだとか。持ち前の好奇心が、次はまったく違う景色を求めていた。
2回の事業立て直しを経て、未知の世界を探し始めたシーチャウさん。やがてFOLIO社長の甲斐真一郎氏(現・FOLIOホールディングス取締役会長)と出会い、投資をもっと身近なものにしたいという理念に共感。加えて未知の業界だったため、「違う筋肉が鍛えられそう」と入社を決めた。
「今は毎日が初めての体験だらけ。サービスの機能向上、投資そのもののイメージ転換など、初めて経験する課題もたくさん。『ワンコイン投資』は少しずつ広まってはいますが、さらに結果を求めて、投資が初めての方にささる仕掛けを考えていきたいですね」
業界は変わっても、結果にこだわる姿勢にブレはない。FOLIOという新しい景色の中で、自分をアップデートしながら挑戦を続けていく。
■役員の素顔に迫るQ&A
Q 好きな言葉
The most comfortable thing is being uncomfortable.(楽な状態でいることが最も楽じゃない)
Q 趣味
旅行
Q 最近読んだ本
『ソフトウェア・ファースト』及川 卓也
「社内の技術者に勧められたのがきっかけ。技術者の考えをもっと理解したくなり、プログラミングの勉強も始めました」
Q Favorite Item
スニーカー、iPhone
「歩きながら仕事のことを考えるのが好きなのでスニーカーは必須。アイデアが浮かんだらiPhoneにメモします」