会社の同僚や取引先に振り回されてぐったり……。そんなストレスフルな日もありますよね。精神科医で産業医として活躍されている井上智介さんが、人間関係のストレスを解消できるコツを教えてくれます。そのヒントは幼少期の育ち方に隠されていました。

※本稿は井上智介『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ediebloom)

「ビリーフシステム」を把握すればストレスは9割なくなる

人間はそれぞれが必ず、価値観や考え方を持っています。その基準によって、物事の良し悪しを判断しながら生きています。それが、自分の評価軸ですね。

そして、その中でも核となる、中心にあるものを「ビリーフシステム」と言います。わかりやすく表現すると、あなたの最大の価値基準とも言えます。

自分の評価軸は、新しい経験や人と出会うことで、どんどんと修正されて形成されていくものです。しかし、ビリーフシステムは原則変わらないものです。

これは、親からの教育であったり、育った環境などによって幼少期に作られるもの。

我々は、ビリーフシステムによって評価軸が作られ、世の中の善悪を判断することになります。

この基準にかなうと、安心したり嬉しい気持ちになったり、逆に基準に反すると、怒りや悲しい気持ちにつながります。

時間を守らない人にイライラするのはなぜか

例えば、幼い時から両親に厳しく「時間は守りなさい」と教え込まれたとしましょう。

すると、その価値基準からずれた人=時間にルーズな人を見ると、すごく嫌悪感を抱くようになります。

しかし、あなた以外の全員が、あなたと同じような価値基準を持っているわけではありません。

もし、集合時間に遅れてきた友人が、「あ~、ちょっと遅れたね~。髪のセットが決まらなくて。あはは」などと言ったとしたら……。

あなたは、「私は“当り前のルール”を守っているのに、なぜあの人は“そんなこと”すら守れないのか……」と、怒りを感じ、友人に対して、拒絶的な態度になることもあるでしょう。

穏やかな人が激怒することも

では、友人の遅刻でイライラするあなたの心が狭いのでしょうか。

もしそうだとして、あなたが心がけを変えたとしても、「集合時間に遅れてもいいや」と、心から思える日は来ないと思います。

なぜなら、あなたは今までの幼少期の教育などにより「時間は守るべきもの」と言われており、それがビリーフシステムという、あなたの最大の評価基準になっているからです。

もちろん、この価値観が悪いわけではありませんし、むしろ立派だとも考えられます。

このケースでは、友人があなたの価値基準から外れて、しかも友人にそれを軽視されたことで、あなたはイライラしているのです。これは、ある意味当然な反応です。

ビリーフシステムを傷つけられたら、普段から穏やかな人であっても、激怒することだってあります。それほど、ビリーフシステムは、人の中にある核となる大切な部分なのです。

しかし、この感情をそのまま爆発させると、友人に対して、嫌悪感を抱くようになり、友情も破綻してしまうでしょう。時間に遅れたという理由だけで人間関係が破綻するのは、やはりもったいない気もしますよね。

ヒントは全て幼少期にある

もしここで、あなた自身が、自分のビリーフシステムを認識していたらどうでしょうか。

きっと、「ああ、遅刻は私のビリーフシステムにひっかかっているな」と立ち止まることができます。

これこそ、1歩引いて、自分自身を俯瞰している瞬間なのです。

自分自身を俯瞰できると、少し冷静さを取り戻せて、感情的になるリスクを減らすことができますね。

では、自分のビリーフシステムをどのように把握すればいいのでしょうか。

ヒントは全て幼少期にあります。ぜひ、あなたの過去の記憶に強く残っている学校の先生や両親の教訓を思い出してみてください。おそらく、その中にあなたのビリーフシステムのヒントがあるはずです。

●「いただきます」「ごちそうさま」を忘れずに言う
●ゴミはすぐにゴミ箱に入れる
●「ありがとう」「どういたしまして」をちゃんと言う

などなど……。

ビリーフシステムを善悪で判断しない

そして、ビリーフシステムを見つけても、「これはいいビリーフシステムだ」「これは悪いビリーフシステムだ」と分ける必要はありません。

さきほどの「時間を守る」という、一見いいと思われるビリーフシステムであっても、人間関係の摩擦の原因になり得ます。

井上智介『職場の「しんどい」がスーッと消え去る大全』(大和出版)

ここからわかるように、ビリーフシステム自体に善悪をつけるのは無意味なのです。どのようなビリーフシステムでも、基準から外れた相手に対しては、厳しく接する要素となります。つまり、ビリーフシステムはその人の最強・最大のこだわりであり、思考の偏りとも表現できます。

だからこそ、あなた自身のビリーフシステムを把握しておくことが、何より大切になるのです。そうすれば、イライラしても、自分自身を俯瞰することができるからです。

中には、ビリーフシステムを持っていること自体が面倒だと考える人や、何も考えずに「無」であるほうが楽である、と感じる人もいます。

しかし、ビリーフシステムはその人の考えの核となるものであり、誰もが持っています。

あなた自身のこだわりや価値基準ですから、大切なものです。ここに目を向けずに無視を続けると、他人の評価軸にばかり合わせなければならなくなってしまいます。

ビリーフシステムを変えることはできませんが、自分の評価軸を徐々に修正することは可能です。基準が社会的には称賛されるような内容であっても、基準に達しない時の対応は、怒りと冷静さのバランスが必要になります。

そのバランスを整える柔軟性を持つために、一歩引いて自分自身を俯瞰するだけで、世の中はより生きやすくなります。

誰もが最初からできるわけではないので、実際にやってみて、成功したり、失敗したりしながら掴んでいきましょう。

<POINT>
あなたの最大の価値基準「ビリーフシステム」を知ろう。
周囲にイラッとしたら「ああ、引っかかってる」と俯瞰を。