多くの企業でコミュニケーション研修を実施してきた戸田久実さんは、近年とくにアンガーマネジメントをテーマとした研修の依頼が増えているという。職場でのムダなイライラや怒りは仕事のパフォーマンスに悪影響。なぜ、どんなときに怒りが生じるのか、「これはないよね」と思うほどのモンスター社員にはどう対応すればいいか、解説してくれました。
※写真はイメージです(写真=iStock.com/mangpor_2004)

怒るのは悪いことではない

仕事をする上で、感情をうまく扱えることは人間関係を良好にするためにはもちろん、仕事のパフォーマンスを上げるにも必須。そう考える企業からのアンガーマネジメントをテーマにした研修依頼やご相談が多くなりました。

アンガーマネジメントは、怒ってはいけないということではなく、ムダな怒りに振り回されることなく、怒りの感情とうまく付き合えることを目指します。

ではどんなときに怒りが生じるのでしょう。そのひとつは、自分の思い通りにならないことがあったとき。「〜ある(する)べき」と思っていることや、信じてきた価値観が破られる、その通りになっていないときに怒りが生じます。

モンスター社員にイラっとしないためには

価値観が多様化し、自分とは違う考え方や価値観をもつ人とのやりとりも多くなり、「このくらい当たり前」「こんなことは常識だ」と思っていたことが通用しないことが多くなった、という声が増えています。

違いを受けとめながらやっていかなければとは思うけれど、「これはないよね」と思う人たちもいる。

そういう人にどう対処したらいいのか……という相談を受けることが多くなり、最近では、「モンスター社員」という言葉も耳にするようになりました。

そのような人たちに対してイラっとし、モヤモヤした気持ちになり、仕事にも支障をきたす。そんなふうに必要以上に気持ちを乱されることないよう、どうしたらいいのか、アンガーマネジメントの考え方もいれつつお伝えします。

タイプ1 愚痴ばかり言ってくる同僚

「ちょっと聞いてよ!」と口を開けば愚痴ばかり。

自分のことを理解しない上司が悪い、取引先の言ってくることがおかしい、後輩が仕事をすぐに覚えない、職場の制度がおかしい……と、そんなにも不平不満があるのかとあきれるほど。

このタイプは自分に非があるとは思っていない人が多いので、「そんなことないんじゃない?」「そんなこと言わないで、仕事に集中しなさいよ」と言っておさまるものではありません。

気をつけたいのが、その愚痴の影響で自分がイライラすること。

「まったく! なんで愚痴ばかり言ってくるのだろう! 仕事に集中できないじゃない!」と今度は自分がイライラして愚痴を言う側になってしまいかねません。

情動伝染という言葉があるように、感情は伝染すると言われています。特に、怒りなどのネガティブな感情は、ポジティブな感情よりも伝染力があります。

愚痴っぽい人のネガティブな感情の伝染を受けないようにする、つまりネガティブ感情ウィルスの感染を防ぐことができるよう、ポジティブな感情でのバリアをつくるのがおすすめです。

怒りの回数を減らす「ハッピーログ」とは

そのためにおすすめしたいアンガーマネジメントの取り組みが「ハッピーログ」をつけること。

ハッピーログとは、日常の良かったこと、うれしかったことを記録すること。

「取引先へのプレゼンがうまくいった」という仕事のことや、「朝、カフェをゆっくり飲むことができた」「髪型がキレイにきまった」などの日常の些細ささいなことでも構いません。

継続して取り組むことにより、小さなことにも幸せを感じることができるようになりますし、怒りを感じることが減ったという声もあります。

また、愚痴っぽい相手への対応としては、「そうね、私もそう思う」とうっかり同意してしまうと、「〜さんもそう言ってた!」と、同じように愚痴を言っていたと言われてしまうことも……。

「へ〜、そんなことがあったのね」とあまり興味なさそうに聞いたり、「そういえば……」と話を変えたりしてみましょう。

タイプ2 権利意識が強く、言うことを聞かない部下

若手の部下が言うことをすんなり聞かず、反対に主張してくるので手を焼く……。そんな相談も増えています。

たとえば「出勤時間よりも15分前には出社してね」と言ったら、「就業規則に書いてないのに、なぜですか?」と言ってくる。「私が若い頃は、こんなこと言わなかったのに……」と、イラ立ちを募らせる管理職層は多いのです。

そういうとき、イラっとして「そんなの常識でしょ!」と言わないよう気をつけましょう。年代が違えば価値観は大いに違い、自分にとっては常識でも、相手にとっては全くそうではない可能性が高く、「先輩に常識を押し付けられた」と言ってくる若手もいるこの頃です。

人は「なぜ?」という理由・根拠が腹落ちしないと、自発的な行動はしないもの。だからこそ、「何のために、なぜ15分前に出勤してほしいのか」という理由をわかるように説明する必要があるのです。

「こんなことまで言わなければならないの?」と思うかもしれませんが、「こんなことから言わなければわからない」、つまり異文化コミュニケーションだとわりきりましょう。内容によっては相手の考えも聞きつつ話し合うこと、イラッとしてゴールを間違えないことも重要です。

ついたたきのめしてしまった……という声もありますが、相手にわかってほしいことを理解し、行動してもらうことが目的であることを忘れないことも大事なことです。

タイプ3 昭和的な価値観を押し付ける上司

部下だけではなく、こんな上司に困っているという声もあります。

「仕事は上司の背中を見て覚えるものだ」「飲み会では上司が箸をつけるまで待て」など「それって昭和の話では?」という価値観を押し付け、さらには機嫌の振れ幅が大きく、機嫌が悪いと感情的に怒鳴ってくる上司。

先にとりあげた若手部下の事例と同じく、年代が違えば価値観が違い、上司にとっては長い間信じてきた大切にしている価値観なので、「それって昭和の話ですよね?」「そんなの通用しませんから!」「古いですよ!」と真っ向から否定すると、自尊心が傷つき攻撃的になる人もいます。

「〜の時は〜だったのですね~」と受け流していいような場合は受けとめるだけにし、そうもできない場合は、受けとめつつも「〜した方が〜より効率がいいのでそうしてみませんか?」というように、提案型で対応してみましょう。

感情をぶつけられると嫌な気持ちにもなりますが、どんなに頑張っても相手の感情はコントロールできません。

自分の力でコントロールできないものに対して、「どうしてこうなる!? なんとかならないかな!」と思えば思うほど、必要以上の怒りやストレスを抱えます。現状は変わらないばかりか、自分の怒りやストレスが大きくなるなんてことは避けたいものです。

「これは私の力ではどうにもできない範囲。自分の怒りが大きくならないよう私はどう行動すればいいのか」というように、相手の感情に巻き込まれず俯瞰し、できる対処に意識を向けることもアンガーマネジメントの考え方です。