小学校受験をするのは専業主婦家庭が当たり前、という時代は終わり。今は共働きでの小学校受験も増えているという。幼児教育50年の専門家が教える、働いているからこそ子どもに語れることとは――。
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働く母にとってのハードルは

“小学校受験は専業主婦が当たり前”の時代は終わりました。中学受験を避けたいという理由で、小学校受験を選択する共働き家庭も増えてきたのです。

近年、小学校受験を実施している名門小学校でも、共働き家庭の理解が広がりつつあります。親が家庭にいてしつけをしたり、勉強を見ることができる専業主婦家庭が断然有利だと思われがちでしたが、共働きだからといって入試で不利になることはありません。そのことを前回の記事(「働く母こそ小学校受験すべきこれだけの理由」)で詳しく書きました。

しかしそうは言っても、いざ小学校受験の教室へ通うと、働くママにとってはまだまだハードルが高いことばかり。塾の送迎のために仕事を早退せざるを得なかったり、願書にはフルタイムで働いていることを大っぴらに書くことを遠慮するように指導されたり……。

そこで今回は、共働き家庭の小学校受験対策の工夫や、具体的な方法論について迫ります。

幼児教育50年のプロが語る“働く母の強み”とは

「働くママの強みは、子どもと直接かかわる時間が限られているからこそ、大事な肝をピンポイントで押さえて効率良く小学校受験に挑めることです」

そう語るのは、都内で小学校受験を目的とする幼児教育で50年にわたり指導している宮田紀子先生。いかに子どもと密度の濃い時間を過ごすかを意識するだけで、子どもに与える影響は各段と変わってくるのだという。しかし、働きながらの塾の送迎、子どもの勉強や家事などをいっぺんにママが抱えるのはあまりにも大変だ。

「夫や祖父母、シッターさんに遠慮なく頼りましょう。塾の送迎などを頼む際に大事なことは、信頼関係のある、決まった人に頼むことです。毎回違う人ではなく、小学校受験の主旨を理解している人に頼むことをお勧めします」

授業後に課題の説明や子どもの様子を保護者に伝えることがあるため、シッターは子どもや親と信頼関係があり、塾の先生の話をしっかりと理解し、それを母親に正確に伝えられる人が望ましいという。

夫との効果的な役割分担

「まさか共働き家庭のうちが小学校受験するとは思いませんでした。中学受験を考えていたけれど、近所の小学校で暴力沙汰があり、中学受験には不向きであるという情報が入ったため、小学校受験を考えました。フルタイムで働きながらの受験は大変でしたが、子どもと離れている時間が長いからこそ、メリハリをつけて子どもと接することができたと思います」

大手広告代理店に勤める片山由紀さん(仮名)は、フルタイムで働きながら、子供の小学校受験をして国立小学校に合格を果たしたという。

「塾の送迎は完全に決まったシッターさんに任せて、朝晩の勉強は1時間ずつ、私が見ると決めました。公園などで体を動かす遊びや、キャンプを経験させることは夫に任せ、上手く役割分担が出来たと思います。日常生活では工夫して試験対策に取り組むように心がけました」

小学校受験は、中学・高校・大学受験とは違い、机に向かう勉強よりも、日々の生活の中で得られる学びこそが、受験対策になったと片山さんは語る。それでは具体的に、日常生活をどのように工夫して受験対策に結び付けたのだろうか。片山さんの方法をいくつか紹介する。

日常生活の中で受験対策をする方法3つ

①食事の準備に参加させる

「夕食時におかずをお皿に載せるとき、数の変化を意識できるように工夫をしました。

例えば『から揚げが全部で20個あるから、4人家族で1人5個ずつね』というように、それぞれのお皿におかずを取り分けた状態で食卓に並べるのではなく、大皿におかずを盛って、各自が自分のお皿に取り分けられるようにしていました」

②ゲーム感覚で家事に子どもを巻き込む

「子どもと楽しみながらゲームをするような感覚で、家事に子どもを巻き込んでいました。『ポストから郵便物を取ったら、靴をきれいに整え、手を洗い、クッキーを2枚食べたら、画用紙とクレヨンを引き出しから出してください』というように、ゲーム感覚で毎回違った指示を子どもに出していました。話を最後までしっかりと聞く力が備わり、指示通りに行動に移すことが出来るようになってきました。真正面から厳しく指示を出すのではなく、一緒に楽しむように心がけました」

③通園時間を利用して、“気づき”を促し“五感”を刺激する

「通園時はなるべく自転車を使わずにバスで通い、交通ルールやバスの中のマナーを実体験の中から教えました。季節を問う問題も多く出題されるので、空の雲や草花などの自然に注目するように促しました。出勤時間に間に合うか毎日ハラハラでしたが、時間に余裕を持って家を出るように毎日必死でしたね。“受験は期間限定”だと思い、何とか乗り越えました」

職場の理解を得るには?

小学校受験の試験や面接は平日に行われるため、入試の時期は仕事を調整し休まなくてはいけなくなる。職場の理解をどのようにして得たのか気になるところだ。

「受験を決めた早い段階で、試験期間の11月は休みを取ることを職場に伝え、夫婦そろって有給休暇をとることに成功しました。やはりなるべく早くから職場の周囲の方に理解してもらうことが大事だと思います。仕事に差し支えないように、受験が本格化する半年前までは、がむしゃらに働きました」

小学校受験に合格する子ども5か条

一緒に歩くことで、今日の天気や気候、道ばたの草花や虫、空の雲、建物や行き交う車……多くのものに五感は刺激を受ける。五感を使い脳が刺激されることで、記憶力・創造力・発想力・頭の回転が良くなるのだとか。

「5歳の子どもの集団を横に一列に並ばせたとき、長時間しっかりとまっすぐ立っていられる子どもは、よく歩いている子どもです。よく歩くことで足腰が鍛えられ、フラフラすることなく、しっかりと立っていられる忍耐力がつきます。また、たくさん歩くことで、食べる量が多くなり、夜の寝つきも良くなります。『よく見、よく聞き、よく考えて、的確に判断し敏捷に行動する子ども』これがいわゆる小学校受験に合格する子どもです」と宮田先生は語る。

日常生活の中で「見ること」「聞くこと」「自分の頭で考えること」を意識するような雰囲気を家庭のなかで作ることが、受験対策になるのだ。

子どもと一緒にいる時間が専業主婦より短いからこそ、限られた時間の中で子どもと丁寧に向き合うように心がけること。時間の使い方を工夫して受験対策をすることで、受験を乗り越えることは可能になるだろう。

共働きであることを謙虚な姿勢で伝える

学校側としては、保護者が学校のお手伝いに参加することは可能であるか、緊急時に保護者が学校に来られるかどうか、ということが気になる。

「“一番に子どものことを考えております”という姿勢が大切です。面接では、共働きであっても子どものことを最優先に考えていること、家族が一致団結して協力し合う体制ができていることを伝えましょう。子どもと過ごす時間が少ないことに罪悪感を持つのではなく、『働くママ』である前に『○○ちゃんのママ』という自覚を持ちながら、生き生きと自信を持って働いている姿を子どもに見せましょう。そして、易しい言葉で、仕事の内容や、働くことの喜びなどを伝えられると良いですね。そんなお母さんを見て、子どもは誇らしく思い、『自分も頑張ろう』と思えます。保育園にお迎えに行く際は、どんなに疲れていても毎回笑顔で思いっきり抱きしめてくださいね。親子の絆をしっかりと築き、家庭の中で子どもが愛されているということを実感できることが何より大切です。そんな生活の中で五感を使って自分の感じた物事を自分の力で表現し、考えて行動できる子どもに育っていれば、それで小学校受験には十分に対応できるのです」と宮田先生は語る。

働くということは人間として深みが増し、それは子ども、家庭に還元されていくのであろう。それを常に意識しながら、ワクワクした子育てをすることが大切なのかもしれない。

日々の仕事を通じて得られる情報感度や情報の取捨選択、効率的な時間の使い方、周囲に惑わされず揺るぎない軸を持つ働くママのスキルを活かして小学校受験に挑戦するのも、選択肢の1つに入るのではないだろうか。