心理カウンセラーの中島輝さんは、大人になると自己肯定感が下がりやすくなると言います。なぜでしょうか。そこには私たちが日常的についやってしまいがちな2つ心のクセがありました。

※本稿は中島 輝『自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ)の一部を再編集しました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/nathaphat)

自己肯定感の2つの罠とは?

自己肯定感を高めたいと考えている皆さんに知っておいていただきたいことがあります。それは、「過去の失敗へのこだわりやトラウマ」「他人との比較や劣等感」――この2つの罠が自己肯定感を低下させるという真実です。

大人になると自己肯定感は下がりやすくなります。大きく分けて理由は2つあります。1つは、経験が増えるからです。

とくに失敗した経験というのは、強く印象に残ります。そして、同じ失敗を繰り返したくないという意識も高まります。これが自己肯定感を低くするトリガーとなっていくのです。

たとえば、あなたもこんな経験をしたことがあるかもしれません。

■プレゼン中に頭が真っ白になり、何も話せない空白の数分を経験してしまった。
■徹夜して仕上げた渾身こんしんの企画書が、「いまいちだな」と一蹴されてしまった。
■よかれと思ってやったのに、「余計なことはしなくていい」と言われた。
■一生懸命、料理をつくったのに、「お腹いっぱいだから」と食べてもらえなかった。

私たちは過去に失敗体験をしたことに対して、苦手意識を持つようになります。会議で発言するのを避けたくなり、プレゼンが恐怖になり、新たな提案をするのが億劫になったり、何をやっても邪魔してしまうかもと思ったり、彼のご機嫌を過度に伺うようになったりします。そして、プレゼンが恐怖になった人は、上司から「来月の取引先でのプレゼン、よろしく」と言われたら、その日から確実に憂鬱な気分になって自己肯定感も低空飛行を始めます。

大人になると自己肯定感が下がりやすい2つ目の理由

もう1つは、他人と比較をしてしまうからです。

■自分は同僚の誰々よりも仕事ができない。
■いつも笑顔で可愛がられる後輩のように振る舞いたいのに、うまくいかない。
■他のお母さんのように子育てがよくできない(だから子どもがいじめられる)。
■私にはみんなのような女性としての魅力がない(だから恋愛が長続きしない)。

どうしても他の人と比較してしまう。人生が長くなるにつれて、比較の対象は増えていくように思えます。

偏差値でたとえるなら、偏差値55だった私が勉強をし、56、57、58と少しでも上昇したとき、自分のがんばりと努力によって結果を出したんだと、自分を認めていくことで自然と自己肯定感が高まります。

ところが、友達のAくんは偏差値65だと知ったとしましょう。そこで、Aくんと自分を比較し始めると「自分がこれだけがんばったのにAくんに負けているなんて、自分は勉強ができないんだ」と考え、自己肯定感が下ってしまうのです。

ライバルとの比較が有効に働く条件とは

身近にいる人をライバルとして定め、競い合うことで力を伸ばすというのは、勉強や仕事で成果を出すために有効な方法ではあります。しかし、それが正しく機能するのは自己肯定感が高まっているときのこと。

「偏差値55だった私が勉強して、58になった。よくやった。これからまたがんばろう」と自分自身を認めることが重要です。そのステップを踏まず、「でも、Aくんは65だから」と比較してしまうと自己否定が始まってしまいます。

「認めてもらいたい!」気持ちに要注意

過去のトラウマや劣等感により、自分で自分のことを前向きに評価できないとき、人は周囲から認められたいという承認欲求が強くなります。人から承認されることによって、存在の安心を得ようとするのです。

承認欲求は誰もが持っている欲求です。ところが、自己肯定感が低いままでは、自分で自分を認められないから心が満たされず、欠乏感によって他者からの評価を求めてしまうのです。

すると、行動が依存的になってしまいます。勉強なら、教師や親の求めに応じてがんばる状態です。とにかく、教師や親に認められるためにがんばるのです。仕事なら、「あなたのがんばりが必要だ」「このノルマを絶対に達成しろ」と言われ、ブラックな環境でも、「認められよう」とぎりぎりまで耐えてしまいます。子育てなら、良い小学校に入ることが、良いお母さんとして認められることだと思い込み、子どもの考えや夫の状態もかまわず、がんばってしまいます。

目標が達成できても充足感が得られない

仮にこの状態で学校の成績が上がったり、職場でのノルマをクリアしたり、良い小学校に子どもが入学することができたとしても、スタート地点で「自分で自分を認めていない」ので充足感は得られません。むしろ、「次は何をしたらいいのだろう?」とまた周囲に指示を仰ぎ、そんな自分に無力感を覚えて、自己肯定感をさらに低くすることになってしまうのです。

行動の動機が「やりたい」ではなく、「承認欲求を満たすため」になったままでは、いつまでもやらされ感から脱することができず、結果を出しても自己肯定感が低下する負のスパイラルに陥ってしまいます。また、エスカレートすらすることがあります。

ここで注目したいのは、「認めてもらいたい!」気持ちが強くなったら、自己肯定感が低くなっているのだな、と気づくことです。そしてムリに高めようとしないことです。それだけで自分の状況を冷静に見つめることができるのです。

2つの罠から抜け出すには?

中嶋 輝『自己肯定感の教科書』(SBクリエイティブ)

でも、「どうしても忘れられない失敗の記憶」や「比較したくないと思っても気になってしまうライバルの存在」がある場合は、どうしたらいいのでしょう。

答えは、「そのまま放置して残しておくこと」です。過去の出来事も、他者も、あなたの力で変えられるものではありません。

変えられないものにとらわれるくらいならば、そのまま放置し、熟成させましょう。

ここでも重要なのは、自分で「変えられない過去には悩まない」「ライバル視している相手を変えることはできない」と納得することです。こうした場合はノートに「放置して残しておく」という考えを書き出すと効果が高まります。

自分で自分に「いいね」できればOK

自分で決めて、納得する。この手順を踏むことで、あなたは過去の失敗や他人との比較から脱することができます。なぜなら、私たちの脳は「ま、いいか」「なんとなる」と納得したことに関しては、自然と忘れていくようにできているからです。

比較対象とするのは、自分自身。あなたが出した成果と、その背後にある努力を知っているのは他の誰でもなく、あなたなのです。

自分で自分に「いいね」を出すことができれば、無理に高めようとせずとも自己肯定感は高まっていきます。そして、結果的には失敗してしまったとしても、「この部分はよかった」「この部分は修正しよう」と、次の成長につながるポイントが見えてきます。

自分で自分に許可を出して動いているとき、私たちは「自分の人生にYES」と言える状態にあります。目を閉じてみて、そんなふうに思えている自分を思い描けたら、大丈夫。あなたはきっと「自分にハナマル」をあげられる人に変われます。