弘前市・西目屋村・青森市の横顔
「情報発信」という仕事は、東京の視点になりがちです。それを自戒して、地方に行く際は現地をできるだけ歩き回るようにしています。
10月初めは青森県にいました。目的は講演会と取材で、女性編集者と一緒に弘前市、西目屋村(にしめやむら)、青森市を訪問。まず、現地で感じたことを紹介します。
(2)西目屋村の道の駅は、商品で地域資源も訴求
(3)戦時中に「青森大空襲」を受けた青森市には、老舗喫茶店が少ない
紙幅の関係で簡単に紹介します。(1)は記録の残る2006年で、弘前市のリンゴ生産量は2位の長野市の4.5倍。2018年産の青森県全体の生産量は全国の6割弱で、2位の長野県の3倍以上でした。JR弘前駅の郵便ポストの上には、リンゴのオブジェが置かれています。
また、地元カフェ店の店主(弘前コーヒースクール社長・成田専蔵さん)が史実をもとに開発した「藩士の珈琲」という商品も根づき、市内の他の店でも飲むことができます。
(2)の「道の駅 津軽白神 ビーチにしめや」では、例えば「津軽ダムカレー」という商品(1200円)がありました。世界遺産・白神山地と津軽ダムをイメージしたカツカレーです。
(3)の青森市は老舗喫茶店こそ少ないのですが、代わりにコーヒーに関する興味深いデータがあります。今回は「データの裏に潜む消費者心理と生活文化」を考えてみましょう。
なぜ青森市は「コーヒー飲料への支出日本一」か
人口約28万人の青森市のデータからは、どんな消費者心理が読みとれるでしょうか。
・「コーヒー豆への支出」=全国13位(1位は京都市)
・「コーヒーへの支出」=全国24位(1位は京都市)
※総務省統計局「家計調査」飲料データ:都道府県庁所在地・政令指定都市、2016年(平成28年)~2018年(平成30年)の平均
まず、コーヒー飲料(缶やペットボトル飲料)の支出が全国トップに注目しました。一般にコーヒー関連の支出は、喫茶文化が有名な岐阜市や名古屋市(都道府県庁所在地・政令指定都市)と思われがちですが、意外にも本州最北の県庁所在地・青森市が1位なのです。
ただし、それ以外は上位ではない。現地の関係者に聞いても、明確な答えが見つかりませんでした。筆者は、手軽に飲める飲料としての利便性に加えて、県内の他の主要都市である弘前市や八戸市に比べて、「青森市民の所得の落ち込み」が影響していると考えています。実際「青森市民は15年前に比べて平均で2ケタ以上の収入減」という調査結果もあります。
この仮説を裏づけるように、外食代への支出も総じて低く、出費を抑えています。そんな中で上記の数字は健闘しており、「コーヒー好き」といえるかもしれません。
「家庭用アイス」が5000億円市場になったワケ
もう一つ、興味深いデータをあげてみましょう。
少子高齢化や消費者意識の変化で、ビール市場などの食品は伸び悩んでいますが、年々市場が拡大している分野があります。全国各地のスーパーやコンビニで買える、家庭用「アイスクリーム市場」もそのひとつです。
2018年度のアイス市場は5186億円(メーカー出荷ベース)と過去最高を記録しました(日本アイスクリーム協会調べ)。5000億円の大台を超えたのは2年連続となります。
少し前までアイス市場は、記録的な猛暑で需要が伸びた1994年度の4296億円がピークで、それを上回る年は20年近くなかったのです。筆者は以前から取材していますが、当時、関係者からは「あの年は猛暑だったので特別」という意識もありました。
ところが2013年度に4330億円と記録を更新すると状況が変わり、6年連続で過去最高を更新したのです。取材結果では、大きく次の2点が、市場の拡大要因となっています。
・消費者意識の変化
例えば「暑さしのぎ」の要素が強かったアイスが、冬でも売れる「通年型商品」に近づいてきました。各メーカーが秋冬に1個200円以上の「プレミアムアイス」も訴求。最需要期の夏に天候不順で売り上げが伸びなくても、暖房の環境が整った室内で食べる、冬の売り上げ増で落ち込みをカバーする年もあります。
一方、昔は「子どものおやつ」だったアイスが、近年は「大人のスイーツ」にも変わりました。人数の多い団塊世代など、一時はアイスから離れた世代も戻ってきています。プレミアムアイスでも生ケーキに比べれば安いので、プチぜいたくとしても利用されています。
なぜアイス好き日本一は寒い北陸勢なのか
前述の「家計調査」によれば、「1世帯当たりのアイスクリーム・シャーベット」の支出金額は、過去10年で15%増え、特に冬場の増加率が高いそうです。ここでも「冬アイス」の伸びが指摘されており、上位の都市ランキングも興味深いものがあります。
2011年から2017年までの7年間で、金沢市(石川県)が首位になること5回、残り2回は富山市(富山県)という北陸勢だったのです。2018年は大雪などの影響で、金沢市は首位から陥落したのですが、過去10年の平均支出額ではトップとなっています。
この理由を、現地のカフェ経営者に訊ね、来店客にも聞いてもらったことがあります。
「家庭用のカップアイスやバーアイスは、お皿などの準備がいらないし、価格も安い。そうした手軽さも大きいと思います。こちらのスーパーでは、よく割引もしており、なかには半額セールの時もあります。当店のお客さまからは『味が劣化しない』『日持ちできるから買い置きしやすい』という声もありました」(「カフェドマル」店主・満留仁恵さん)
また冬は寒いので、部屋の暖房を強くし、冷たいものを食べる習慣もあります。これは他の地域でもあり、「東京の友人たちの部屋の暖房は弱くて寒い」と話す北海道民もいました。
データからはわからない「意識や本音」
満留さんからは、こんな指摘もありました。
「金沢市は、同じ総務省調査の『他の和生菓子』でも長年にわたり首位です。市民がアイスクリームや和生菓子などの“甘いもの”を頻繁に購入するのは、加賀百万石の『茶の湯文化』の影響もあるように感じています。お茶を楽しみ、甘いものを楽しむ。お客さまに対しても、スイーツでもてなす文化だと感じています」
「和菓子文化」との関連性は、東京のアイスクリームメディア・編集長も同意見でした。
前述の「家計調査」をもう少し続けます。青森市は「リンゴ」の購入額が金額で全国2位、数量では全国5位となっていました(1位はいずれも盛岡市で、長野市は3位と2位)。リンゴといえば青森と思っている人が多いかもしれませんが、トップではないのです。
青森市のこの結果を「当然」と受け取るか、「意外」と受け取るか。意外と感じて理由をさぐると、見えてくることがあります。先日の出張では「青森人にとって、リンゴは買うものではなく、もらうものです」(30代の女性)という地域の慣習が垣間見えました。
前述の2006年の市町村別生産量では、青森市は長野市に次ぐ3位(生産量首位の弘前市は、県庁所在地・政令指定都市ではないので、「家計調査」の対象外です)。
例えば「コーヒーやリンゴに関して、弘前市を調べると、青森市とは違う結果になるでしょう」と地元関係者は話します。確かに、興味深い結果が出てくるかもしれません。
マーケティング関係者は、昔から言われる「百聞は一見に如かず」を重んじる人が多いようです。調査結果をそのまま受け取るのではなく、現地に足を運ぶ大切さを、「ちゃんと普通に生活すること」と話す人もいます。普通に生活=消費者目線の徹底だと思います。