社員の兼業を認める企業が増え、また行政の創業支援制度も拡充されています。本業以外の活動から収入を得て自立していくことは、より身近な選択肢になりつつあります。一見高く見える“会社の壁”ですが、交渉次第で突破できることも。会社との賢い付き合い方を具体的に見ていきます。

※本稿は藤木俊明『「複業」のはじめ方』(同文舘出版)の一部を再編集しました。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/takasuu)

活動を開始し収入を得る

会社での仕事は、引き続き力を入れて頑張りましょう。そして、情報収集し、いよいよ社外活動をする時のために、匿名の「こうありたい自分のキャラ」をつくりましょう。それは、あなたの将来自立する時のアイコンになるかもしれません。慎重に、真剣に、でも楽しんで考えてつくりましょう。

活動をはじめると、収入が入ってきます。基本的には自分への投資に使って、さらにスキルアップを目指すのですが、あなたはできたら将来は自分でやっていきたいという考えを抱いています。

もちろん自分への投資に使うのはいいのですが、より効果的な使い方、たとえば、情報発信のホームページを自分で作成したり(あるいは作成するスキルを身につけたり)、自分が羽ばたくための滑走路を整備するのに使いたいものです。

また、収入額にもよりますが、会社の給与の振り込みと、個人の収入の口座を分けたほうがいいと思います。「もうひとつの仕事でいくら収入があった」「そのためにいくら支出があった」ということを「見える化」しておきましょう。

所得が年間20万円を超えたら確定申告の必要が出てきます。しっかり売上や領収書を管理しましょう。

活動をする中で、社外のネットワークを広げていきましょう。その中には、将来の自分のお客様がいるかもしれません。「ファンづくり」をしているという気持ちで活動していきましょう。

会社との関係の上手な整理の仕方

あなたの社外活動は順調に回りはじめました。名指しで仕事を依頼してくれるお客様も出てきました。まだ、それだけで生活するほどの収入ではありません。でも、「もう好きなこと、やりたいことだけに打ち込みたい……」という気持ちがわき起こっています。そろそろ、会社との関係を整理する段階かもしれません。

もし、あなたがこれまで一所懸命に仕事をやってきて、ある程度評価されているのなら、会社はあなたに辞めてほしくないはずです(一方、仕事を頑張ってこなかった人は「整理する=辞める」という道しかありません)。

どうしようもない会社だったら別ですが、会社や仕事に、少しでも愛着があるのなら、「兼業」としての複業を会社に提案してみてはどうでしょうか?

(1)会社に相談して「一週間に1日、別の仕事をさせてもらう許可」を得る

「平日のうち、どこか1日、自分の好きな仕事をさせてください! その代わり、給与はその分減らしてもらっていいです」と相談してみる方法があります。

ここで、ついに会社にあなたが好きなこと、やりたいことをやっているということを打ち明けるのです。

もし会社があなたのことを必要であったなら、給与は減るけど何とか今の仕事を引き続き頑張ってくれよということになるかもしれません。

あなたがやりたいことが、社会貢献につながるなど、会社にとっても誇らしいことであれば、もしかして、給与はそのままで「やってみたら」ということになるかもしれません。

実際、兼業を認める会社が出てきているのは事実です。後ろを振り向かず交渉してみたら、意外に会社は認めてくれるかもしれません。

認めてくれなかったら……。その時は考えましょう。期限を区切って、本当に会社から去ることもあり得るかもしれません。でもそれは、最後の手段として取っておいてください。そして、前述したように、会社の中の信頼できる同好の士に話してみてはどうでしょうか。とにかく、すぐ辞めるのは考え直してください。

正社員から非正規へ

(2)会社に相談して「待遇を業務委託に変えてもらう」

会社からもらえる収入は大切です。でも、好きなこと、やりたいことは今しかできない。そこで、会社の正社員の立場を辞めて、業務委託に変えてもらうように交渉してみるのです。

業務委託とは、会社の業務を請け負ってお金をいただく立場です。ボーナスも社会保険もなくなります。つまり、非正規の立場になるのです。

「うわー。そんなのとんでもない……」と思うかもしれません。でもあなたは、自立したいと考えていたのですよね。だったら、会社をメインクライアントとして、安定した収入を確保する道を考えたほうがいいです。あなたにとっても慣れた仕事を任されるわけですし、会社としても同じ人に同じ仕事をやってもらえる上に、さらには人件費を抑えられます。

拘束されないよう、交渉が必要

ちなみに、私がかつて働いていたリクルートはそういうことが得意です。リクルートを辞めた人間に業務委託としてリクルートの仕事を発注しています。その人がどれだけ仕事ができるかを把握していますし、イチから新人を教育しなくてもある程度リクルートのことはわかっている。しかも、社員で雇っていた時より安い人件費で生性を上げられるのです。リクルートにとっても貴重な資源ですし、辞めた人間にとっても、収入が安定するまでは貴重な収入源になります。

その場合まずいのは、ずるずると会社に拘束されることです。そこは頑張って交渉し、自分が自由に働けて、一定の収入も確保して、好きなことに打ち込めるようにしましょう。

自立準備は、あらゆる支援制度を使い倒す

前述のように会社との関係を整理すると、あなたは一歩自立に踏み出したことになります。もちろん会社との関係は切る必要はありません。しかし、「自分でやっていくんだ」という人は、「個人事業主」か「法人」のどちらかを選ぶことになります。

(1)個人事業主とは

つまりフリーランスです。会社との関係を見直して「業務委託契約」になった人は、もはやフリーランスです。確定申告も必要になります。

同時に、自分がやりたい仕事を「看板」にできます。地元の税務署に、たとえば「HARUN堂」という屋号を届け出ればもう手続き完了です。

こういった時のために、起業相談や起業セミナーを受けておくと、有利な補助金制度などを教えてもらえるのです。今からでも遅くはありません。情報収集したほうがよいでしょう。

(2)法人とは

「株式会社」「合同会社」「一般社団法人」などのことです。あなたが代表になって法人をつくるのもひとつの手です。司法書士などに依頼して、だいたい30万円ぐらいで設立登記の書類を作成できます。

クリエイティブ系やアート系などの人はあまり関係ないかもしれませんが、ビジネス系で自立してやっていきたい方は、法人を持つと、企業相手の取引がしやすくなります。

はっきり言って、大企業は個人事業主と仕事をしたがりません。法人口座を持っていないと取引してくれないことが多いです。個人に仕事を頼むのはリスクが大きいと考えているのが一番だと思います。それは少し変だと私は思うのですが、日本で仕事をする以上、現状ではそういう傾向があります。

ちなみに、「合同会社」は比較的安価に会社を設立することができますので、ひとりでやっていくにはこれで十分かもしれません。こういったことも、公的な起業相談窓口で相談に乗ってくれますので、やはり一度は行っておくといいですね。

また、自治体の創業支援制度に基づいて起業し、法人をつくろうという時には、登録税が安くなりますので、そういったことも含めて、使えるものは何でも使いましょう。

かしこい金融機関との付き合い方

自立して独立・起業に向かおうという方は、金融機関との取引を考えたほうがいいと思います。多くの人は、都市銀行などの銀行口座を持っているでしょう。法人をつくる場合、否が応でも法人口座をつくらなくてはならないのですが、たとえば地元の信用金庫などに相談して、自分の事業用の口座をつくり、定期積金などをはじめたらいかがでしょうか?

藤木俊明『「複業」のはじめ方』(同文舘出版)

信用金庫は、定期積金をすることをとても喜びます。そうやって付き合っておくと、貯金は貯まるし、たまに有益な情報をもらうこともできます。私の場合も、信用金庫が有利な融資を紹介してくれて、随分助かったことがあります。

また、「小規模企業共済」といって、個人事業主や小規模事業者の法人が加入すると有利な積み立てもあります。あまりあれこれと焦る必要はありませんが、どこかひとつ顔なじみの信用金庫を持っておいて損はないはずです。

もうひとつ、マイナスの情報を話すと、大手企業に勤めていた人が会社を辞めて個人事業主になると、金融機関からの信用がぐっと下がります。私自身はこれからの日本社会の状況を考えると、住宅を購入することには否定的なのですが、もしマンションなどを買う予定があるのであれば、会社を辞めないでいるか、あるいは辞める前にローン審査に出さないと、住宅ローンが通る確率はぐっと下がりますのでお気をつけください。

「こうありたい自分」のスキルを高めて収入をアップする

これはもう言うまでもないことでしょう。今後は自分の生活設計に影響があるのですから、スキルを高めて、収入を上げていくことに勤しみましょう。

といっても、好きなこと、やりたいことで働くわけですから、きっと頑張っていけると思います。