※本稿は常見陽平『僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う』(自由国民社)を再編集したものです。
共働き家庭における家事分担論争
一時期、共働き家庭における家事分担論争が盛り上がったことがありました。
2018年の明治安田生活福祉研究所(現明治安田総合研究所)の調査では、夫婦ともに正社員の共働き世帯の場合、理想とする夫の家事分担割合は、平均すると夫も妻も約4割。夫が正社員で、妻が非正社員や専業主婦の世帯では、夫側は平均3.7割に対し、妻側が4割の負担を理想としていることがわかりました。
ところが同時に、現実の夫の家事分担割合は、夫の言い分より妻の認識のほうが低いということが明らかになったのです。
現実の夫の家事分担割合は、夫婦ともに正社員の共働き世帯で、夫の言い分は「3割」が最も高く、妻の認識は「1割以下」が最も高くなりました。夫が「やっている!」と思うほど、妻は、夫が実際に家事・育児を分担しているとは感じていなかったのです。
夫「家事や育児の3割くらいは俺がやっている」
妻「あなたのやっている家事は私の10分の1」
というわけです。
家事・育児はどこまでやるべきか
そもそも、家事と育児は、どこまでやったら10割になるのでしょうか。
雑誌『AERA』が提供している「共働きの家事育児100タスク表」というものがあります。家事・育児に関するタスクを100個列挙しているのですが、「朝食をつくる」と「献立を考える」は別のタスクとして挙げられています。よく見ると、「親戚と連絡をとる」「オムツに記名する」「保育園グッズを繕う」など、意外と気づかない細かい家事も丁寧に取り上げられているという印象です。
実際に私も確認してみましたが、3分の1に○がつき、3分の1に△がつき、3分の1に×がつきました。結構やっていると自負する私でも、実際にいつも自分が担当している家事・育児は3割でした。
△は、妻がやることもあるし、私がやることもある項目。これを「やっている」とみなせば、5割は超えるので、我が家はおよそ半々の分担ということになるでしょうか。
この手のタスクの細分化・見える化は、家事・育児の領分をはっきりさせるうえでは有効だと思います。家事・育児のタスクの多さがわかり、働き方も含めた24時間の使い方を意識するきっかけにもなるでしょう。
家事・育児は夫婦で同等に担うべき
ただし、これが「ほら、男性はなにもやってない!」「女性にばかり押しつけて!」といった、男性を仮想敵にする道具にされてしまうのではないかという危惧があります。
一般論として、たしかにこれまで、仕事と家庭の両立という面で、男性が既得権としてラクをしていた部分はあると思います。女性ばかりが担っていた側面もあるでしょう。でも、そこだけを強調して、ジェンダーの問題に落とし込んでも、家庭内の家事・育児分担問題は、なにも解決しないのではないでしょうか。
私は、家事と育児は、夫婦二人で同等に担うものだと思っています。同等と言っても、それは100の項目を数上50対50で分け合うということではありません。どちらにとっても難しいものは、家族以外の人に助けてもらったり、便利家電を導入したり、サービスを利用したりして効率化すればいいとも思っています。
そもそも、三世代同居が当たり前の時代ならまだしも、共働きの核家族が前提となったいま、夫婦だけですべてを取り回すことは難しいでしょう。
出産や母乳を与えることなど、一部の子育てに関わる行為で、女性にしかできないものはあります。だけれども、私の好きな料理は、男性でもできます。我が家では私が担っている「献立を考える」のが得意な女性もいるでしょう。
例えば、私は、洗濯はほぼしません。洗濯に対する自分の知識がまだ足りないと思っているし、なにより妻のほうが上手です。もちろん、状況によって洗濯機を回したり洗濯物をしまったりすることくらいはやります。お風呂上がりの娘に乳液を塗ったり、耳あかをとったり、つめを切ったりするのは、妻のほうが得意そうです。
個々人の強みを活かす
ここで間違えていけないのは、男性でもできるからといって、「男性がやるべきだ」という理屈にはならないということです。逆も同様です。「女性だから料理をするべきだ」という発想は危険です。
不平等感を解消するために役割分担を厳密にするのではなく、個々人の強みを活かした役割分担が、暮らしを楽しくする第一歩だと思います。
家事や育児は、家庭内のことです。男性がやるか、女性がやるかということ以上に、向き不向きで分担すればいい。できないことは、無理に引き受けたり押しつけたりしなくてもいいのではないでしょうか。
家事・育児の満点、10割の出来を目指さないことも、日々の生活の中で、じつは大事なことなのではないかと思っています。
私は料理が好きだから、料理を担当する。好きなので、自分の料理のクオリティは追及しますが、妻がつくった料理の出来に不満は言いません。それでよいのではないでしょうか。
稼ぐことをサボらない
家庭を存続させるうえで大切な取り組みに「稼ぐこと」があります。
前項の「家事分担表」には「収入を得る」がありませんでしたが、収入がなければ家族が生活していくことはできません。
妻が私と結婚したとき、私はベンチャー企業の会社員でした。妻は、紹介予定派遣で、いま働いている会社とは別の外資系のIT企業に勤めていました。けれど、職場が合わなくて、結婚してすぐに辞めました。次の仕事が決まるまで4カ月ほどは、ヨガに通ったり、僕の料理をつくったりしながら専業主婦をしていました。
短期でしたし、夫婦二人の生活だったので、収入の面でそれほど困ることはありませんでした。
ただ、私が38歳で会社員を辞めてフリーランスで働き始め、かつ大学院に通っていた2年間は、やはり不安がありました。確実な収入は妻の月給だけという状態。私も、厳密には非常勤先の大学から給料をもらっていましたが、不安定な収入です。時間の融通は、私のほうが効いたので、料理をはじめ、家事の大半を担うようになったのもこの頃です。
結果として、妻がフルタイムの勤め人として働いていたからこそ、家庭を維持しながら、私は大学院に通い、その後、現在の大学教員の職を得ることができました。
私のような働き方では、妻が専業主婦だと不安があります。娘が生まれた現在では、なおさらです。
女性の離職理由は“子育ての大変さ”だが……
総務省の就業構造基本調査(2017年)によれば、15~64歳の女性の有業率(仕事をしている人の割合)は68.5%。約7割の女性が何らかの形で仕事をしています。そのうち、25~39歳の女性の有業率は75.7%。過去、この世代の女性は子育てなどを機に仕事を離れることが多く、前後の世代に比べて有業率が低くなる、いわゆるM字カーブの谷になる傾向がありました。しかし、2017年の調査では、育児中の女性の有業率はすべての世代で上昇しています。
2012年から17年までの5年間で、共働き世帯は約52万世帯増加し、17年には約1349万世帯にまで達しました。全世帯数比率でも、共働き世帯数はほぼ5割を維持し続けているという現状です。
一方で、前出の2018年の明治安田生活福祉研究所(現明治安田総合研究所)の調査で、子どもがいる25~44歳の既婚女性に、第1子の妊娠・出産を機に仕事をやめた理由をたずねたところ、「子育てをしながら仕事を続けるのは大変だったから」と答えた方が52.3%と最も高くなっていました。現在も、妊娠・出産が、女性が仕事を辞める理由になっているのです。
仕事を辞めたところで育児の大変さは変わらない
しかし、私は、子育てをしながら、仕事を辞めたところで育児の大変さは変わらないということを実感しています。一時的に仕事の効率が悪くなることはあります。それならばと、仕事をいったん休む、または変えるという選択肢はあるとは思います。ただ、中長期で考えると、働き続けることが家計における一番のリスク管理になります。
実際、同調査では、多くの女性が一番下の子どもが未就園児の時は専業主婦、中学生以降は正社員でフルタイム勤務を希望していながら、現実は一番下の子どもが中学生以降も4割が専業主婦であり、正社員フルタイム勤務は2割にとどまっているという結果が出ています。
子どもにとって親の役割はなんだろうと考えたとき、私は、補助輪なのだと思い当たりました。これからを生きる人が、これまで生きてきた人を超えていくためのお手伝い。そのための環境づくりをする役割があるのだと思います。
子育てにはより多くの時間が必要な時期も実際にあります。
ただ、それを、仕事を辞めて捻出することはリスクが高いと思います。
とくに我が家の場合は、私が43歳のとき、妻が42歳のときに娘が生まれているので、最低でも娘が成人する63歳、62歳までは働かなければなりません。大学を卒業するまでなら、65歳まで。できれば娘が30歳になるくらいまでは、私も真っ当に働いていたいと考えています。
稼ぐことは家事のうち
家庭を安定的に存続させるために、稼ぎは必要です。
収入を得ること、これも立派な家事のうちの一つだと言いたいのです。
家事・育児がそうであるように、稼ぐことについても、「男だから」「女だから」を問いません。稼ぐことに向いているほうがより稼げばいいし、時期によって家庭内で役割分担があってもいいと思います。
「女性は家、男性は外」という考え方の時代もありましたが、いまの時代にはそぐわないでしょう。男性が家にいて女性が働くという選択肢もあり得ます。でも、それでは、「女性は家、男性は外」という価値観が入れ替わっただけにすぎません。ジェンダーの役割を互いに押しつけることなく、家事・育児を協力しあうのと同じように、収入の面でも互いに支え合うこと。
夫も妻も稼ぐ。それが家庭運営上のリスクヘッジになります。
私たちは新しい時代を生きているのです。「関白宣言」はお金持ちの論理です。