管理職志向の差は職場でつくられる
「女性は初めから昇進意欲がないんじゃないの」――多くの企業で女性管理職を増やすための頑張りが見られる中にも、そんないわれない声を聞きます。「いわれない」といったのは、まさに根拠がないからです。それが『なぜ女性管理職は少ないのか』(大沢真知子編著)を読むとよく分かります。
著者の一人である広島大学大学院教授の坂田桐子さんは調査によって、小学校、中学校、高校・大学のリーダー経験は男女で有意差がないことを明らかにしています(図表1)。学生時代は女性も学級委員やクラス委員、各種委員会の委員長、部活動の部長などになろうとする意欲が高いのです。ところが社会に出た途端、男女の管理職の比率がひっくり返ってしまいます。それは生得的な問題ではありませんし、リーダー経験が不足しているという意見も当たりません。
成績は女性のほうが高い
「ならば、女性は優秀じゃないんじゃないの」――残念ながら、この意見は「真実」とはいえません。教育機関で成績を管理している方なら、それが「真」とはいえないことは経験的にわかっていると思います。多くの教育機関では、学生の成績評価で用いられるGPAの数値は女性のほうが高いことがほとんどです。しかも、大学生研究をひもといてみると、女性の方が、キャリアへの関心が高く、社会に貢献したい意欲をもっています。世の中でも、すでに女性のほうが優秀であることがバレてきていると思うのですが(笑)。
昇進意欲は、女性の「能力」や「やる気」とは無関係
「じゃ、女性が単純に長く働く意欲がないからからでしょ」――これも残念ながら、真とはいえません。昔はM字カーブといって、就職してから結婚・出産まで働き、育児のためにいったん家庭に入り、子育てが一段落するとまた働き始める傾向がありました。今はMの谷(落ち込み)が緩やかになっています。女子学生も企業を選ぶ際、長く働けるかを一番に考えて就職活動をしています。
昇進意欲の差は社会に出てから生まれ、それは元々の女性の能力や仕事のやる気とは無関係であると結論付けられます。
入社後たった1年で昇進意欲が減退する
昇進意欲が組織的な要因にあることがよく分かるデータを見てみましょう。入社1年目から2年目にかけての管理職志向の変化を調べたものです(図表2:独立行政法人国立女性教育会館2017「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査研究」より一部を改変)。
まず1年目の管理職志向が「ある」人は、男性で94.1%、女性で64.7%です。男性のほうが30ポイント近く高いので、確かに男性の昇進意欲は女性よりも高いのだなと分かります。この点はこの点で問題はあります。しかしもっと考えなければいけないのがその次の数値です。1年目は管理職志向があったのに、たった1年で意欲を失った人たちの割合です。男性は9ポイント程度しか減っていませんが、女性は20ポイントも下がっています。
女性だけが昇進意欲を失ってしまう「何か」があることが明白です。
女性が絶望する「仕事とワンオペ育児」の両立
最大のネックになっているのは、職場の長時間労働、働き方です。日本の職場では、働き方改革の大号令もむなしく、いまだに職場の長時間労働体質が抜けていません。長時間労働が横行している職場では、女性は「将来、子どもを生んだとき、仕事と家庭の両立ができないだろうな」ということを考えます。
このような長時間労働が横行し、それを見直す雰囲気のない職場で働いていると、女性の就業意欲は下がることがわかっています。女性の配偶者やパートナーも長時間労働が横行している企業で働いているなら、この絶望はさらに深いものになります。万が一、子どもが生まれた場合には、さらに過酷な「仕事とワンオペ育児」の両立を女性が求められるようになるからです。
管理職人材のアンバランスを見て意欲が減退する
さらに、管理職や経営層にすでに昇進している人材が、男性に偏っていることも問題です。私は仕事柄、企業の管理職研修を見たり、自分で担当する機会が多くあります。
まず、管理職研修でいつも思うことは、その参加者のアンバランスです。日本の企業の管理職研修では、女性が3割いることはまずありません。ひどい場合には、100名の管理職がいて、女性が2名程度の企業もあります。いても女性活躍系か総務系、広報系の部署に偏っています。
入社してそういう実態を目の当たりにすると、女性は昇進意欲が失せるのかもしれません。自分が将来、経営層、管理職になるイメージが描けないのです。
今回は女性の価値観からのアプローチで昇進意欲を妨げるものを考えてみました。このように、女性の管理職昇進意欲をそいでいるのは、たいがいは「職場」や「管理職」の問題です。次回は女性の昇進意欲を下げる正体をさらに探っていきましょう。