国が変われば習慣も変わる。知らなかったばっかりに、仕事がうまくいかなかった……なんてことは避けたい。海外のビジネス現場に詳しいコンサルタントに、欧米で通用するリアルなビジネスマナーを教わりました。

相手を納得させるコミュニケーション術

握手するべき? 手土産は持参?
顔合わせは笑顔から

第一印象が大事なのは、世界共通。相手の目を見て笑顔で挨拶しましょう。一昔前までは握手が一般的でしたが、近年は、衛生的観点から握手を避ける人もいます。もちろん、相手から求められたら快く受けてください。なお、欧米のビジネスシーンでは手土産は重要視されません。むしろ「賄賂」と受け取られる可能性があるので、持参しないほうが無難。どうしても渡したい場合は、相手に気遣いさせない程度の値段のものを選びましょう。

イラスト=永宮陽子、以下すべて同じ
スムーズに仕事を進めるために
名刺交換で確認する、3つの項目があります

海外での仕事の進め方はビジネスライク。トラブルを招かないよう、名刺交換の際に次の3点を確認しましょう。1つ目は、相手の仕事内容。海外の企業では一人一人に「職務明細」が存在し、仕事の範囲や内容が決められています。範囲外のことを相手に頼むのはマナー違反です。2つ目はレポートライン。業務内容などをメールで連絡する際は、誰に送るべきか明確にします。3つ目は名前の呼び方。ニックネームを望む方もいます。

YesかNoか。答えを迫られたら……
「いったん持ち帰る」はNGです

商談や交渉の際に「Yes」か「No」の決断を求められたり、大事な案件に対して結果を迫られたりした場合、自分に決裁権がないと「いったん、社に持ち帰らせてください」と言いがちですが、答えを先延ばしにするだけの発言はNG。「私では決められない案件なので1週間以内にメールします」などと、締め切りを設けて明確に伝えることが大事です。交渉事は、事前の社内での打ち合わせを密にして、なるべくその場で完結することを目指して。

もはや時代遅れ?
レディーファーストの期待は禁物です

男女平等がさけばれる昨今、レディーファーストの概念を持たない若い男性がだんだんと増えてきました。とくにアメリカでは、ビジネスシーンにおいて、「女性だから」と優遇されることなんてない!と思っておいたほうが無難。とはいえ、エレベーターの乗り降りやドアの開閉時に「お先にどうぞ」と促されたら、素直に受け入れるのがマナーです。そうしないと、相手の厚意を無にすることになり、「失礼だ」と思われます。

その場にいるだけじゃダメ!
自分の意見を発言しなければいけません

海外のビジネスシーンで自分の意見を言わないのはマナー違反です。ミーティングの席などで発言しないのは、会議に参加していないも同然と見なされてしまいます。一般的な意見ではなく、できるだけ自分の考えを表明してください。「変かな」と思うことでもOK。欧米のビジネス社会では、「変=ユニーク」な視点は価値があるので、臆せずどんどん発言しましょう。自分の意見を言うことでしか、相手の信用は勝ちとれません。

あいまいな提案はNG
数字で相手を説得します

欧米で働く人々の多くは、物の見方や考え方が論理的です。商談やプレゼンの場では、感情に訴えるのではなく、相手が客観的に判断できるよう、できる限り具体的な数字を用意して伝えましょう。例えば、「わが社と手を組んだら、わずか3カ月でマーケットシェアが5倍になる」「利用者数は2年前の5倍に増えた」といった具合です。その根拠をきちんと説明できるよう、わかりやすくデータをまとめておくことも重要。成功の鍵は数字が握っています。

会話力をあげて、仕事相手と打ち解ける

自分に興味を持ってもらうために
日本の文化を語れるようにしましょう

自国の文化について語れることは、国際人としての基本的なマナー。広く浅く、知識を仕入れておきましょう。禅や茶道、相撲などの伝統的な事柄だけではなく、海外で人気のアニメをはじめ、いわゆるクールジャパンについても話せると一目置かれます。最近は忍者ファンも多く、「どこへ行けば忍者に会える?」と聞かれることも。メイドカフェも認知度がアップ。「日本で行ってみたいところは、アキバ(秋葉原)」とクールな顔で言う男性もいます。

それ、言っちゃダメ!
相手の気分を害する発言に要注意!

国が違えば価値観も変わります。相手を褒めたつもりなのに、イラッとされてしまう場合もあります。例えば、「小顔でうらやましい」「青い瞳がきれい」「ブロンドの髪が美しい」など、変化しようのない体の特徴についての発言はNG。個人への中傷や偏見と受け取られかねません。宗教、年齢、性別に関わる話題にも軽々しく踏み込まないようにしましょう。ファッションに関する発言はOK。アクセサリーや洋服を褒めれば会話の糸口に。

「How are you?」と聞かれたら
無理しないで体調をアピールしましょう

「How are you(調子はどうですか)?」と投げかけられたら、体調がよくないときでも、つい、「I’m fine(元気です)」と返答してしまいがちです。しかし相手は、単にお決まりの挨拶を交わしたいわけではありません。仕事の話を進める前に、「こちらの体調を確認してくれている」と受け取ってください。ひどい時差ボケで相手の大事な言葉を聞き漏らしてしまった……なんてことにならないよう、そのときの体調を的確に伝える習慣をつけましょう。

スマートな立ち居振る舞いで食事を楽しむ

何を着る?
立食パーティーは、ビジネススーツでOK

欧米のビジネスシーンでは立食パーティーが頻繁に催されます。服装はビジネススーツでOK。仕立てのよいブラウス×スカート、パンツスーツでもいいでしょう。あまり気張る必要はありません。ただ、突然、パーティー会場にCEOやどこぞの偉い人が挨拶に来た!という場合に、バッグに忍ばせておいたネックレスをささっとつけてセミフォーマルな装いにする……なんて演出ができたらマナー上級者。一目置かれます。

立食パーティーでのタブー
話す相手を独り占めしてはダメ

立食パーティーは交流の場です。初めて会った人とは簡単に自己紹介し合い、10分程度で「失礼します」と言って、その場から立ち去るのがマナー。どんなに会話がはずんだとしても、相手を独り占めしてはいけません。積極的に話し相手を変え、1人でも多くの人に自分を知ってもらい、ビジネスチャンスを広げましょう。仲間同士でかたまっていたり、ひたすら飲食していたりしては、その場にいる意味がありません。

知らないと恥をかきます
レストランでやりがちなNG行為

ビジネスパートナーが設けてくれたディナーの席。かしこまったフレンチレストランなどに行く場合は、お店のホームページなどでドレスコードを確認し、ふさわしい服装で出かけます。一緒に食事をする人に不快感を与えないためにも、NG行為をしないように気をつけながら、最後まで食事を楽しみましょう。

[酒]お酌をする

酒を注ぐのは給仕の仕事なので、お酌はしないこと。女性が男性にお酌をするのは、はしたない行為と見なされるため、カジュアルな店でもNGです。また、繊細なワイングラスで乾杯するときは、グラス同士をあてないこと。とくにフォーマルな場では、胸の高さまでグラスを持ちあげて乾杯するのが正解です。

[料理]スープをすする

食事中に気をつけたいのは「音」。フォークとナイフを扱うときはカチャカチャと音を立てず、フレンチなどでスープを飲む際は、ズズズッとすすらないようにしてください。取っ手のついていない器を手に持って食べること、パンを直接かじること、ライスをフォークの背にのせて食べることもマナー違反です。

[皿]自ら片づける

食べ終えた皿を重ねてはいけません。片づけはすべて給仕の仕事です。誤って床に落としてしまったカトラリーを自分で拾うのもダメ。フォーマルなフランス料理店で、料理を同席者とシェアすることもマナーに反します。料理を残すときは、給仕に「もう、おなかがいっぱい」と伝えるとスマートです。

ビジネスチャンスがあるから知っておきたい、
中国、インド、中東の習慣

肌を見せるのはNG。パンツスタイルがベストです

中東やインドでは、宗教上の理由から女性が肌を見せることをタブー視しています。そのため、体を覆うチャーミングな民族衣装が豊富です。私たち日本人も、現地では肌を見せない服装を心がけましょう。仕事では、動きやすいパンツスーツがおすすめです。なぜなら、治安が不安定な新興国では、仕事中でも、街中でスリに遭う可能性や、走って逃げなきゃ!という場面に出くわす確率がゼロではないからです。比較的安心と思える中国も含め、手荷物の管理も怠ってはいけません。

日本とは女性観が異なります

女性に対する見方や考え方は、国によって千差万別です。私たち日本人にとっては、理解しがたい感覚を持つ国の人々もいます。知らずに現地へ行って、ショックを受けたり、仕事に支障が出たりする場合もあります。中国、インド、中東、各地域の女性観をあらかじめ把握して、「いざ出張!」というときのために心の準備をしておきましょう。

[中国]女性の地位が高い

中国人女性はステータスが非常に高いため、たくましく、口調も激しいです。格上の手ごわい相手に対しては、尊敬できる点を見つけて「学ばせてください!」という態度を示したうえで、こちらも堂々と意見を言うのがベター。いい関係が結べれば心強いパートナーになってくれます。

[インド]男性優位の傾向

日本人女性に対しての差別は強く感じませんが、全般的に男性優位の国。ただし、何事もカースト制度に縛られるインドにおいて、階級の高い、富裕層の女性の中には社会的地位のある仕事について活躍している人もいます。カオスの国ならでは、女性観も一筋縄では語れません。

[中東]非常に男性優位の傾向

ほかの地域に比べて、圧倒的に男性の立場が上だと覚悟しましょう。なめられないよう、名刺交換の際に「アメリカへの留学経験あり」などのステータスを示してください。タレント性を重んじるので、「走らせたら町一番!」など、何でもよいので“一番”を主張するのも手です。

驚くほど感情の起伏が、激しいと心得ましょう

中国、インド、中東など、大陸の人たちと接するときは、日本人の気質とは全く違うということを肝に銘じておきましょう。私たち日本人に比べて感情の起伏が激しく、喜怒哀楽をすぐに態度で示します。原因不明なことでびっくりするくらい激怒する人もいますが、うろたえたら負けです。うまくいくはずの交渉事も立ちいかなくなってしまいます。どんなことがあっても平常心を心がけ、自分の都合で仕切り、たんたんと物事を進めていきましょう。インド人の場合は、何が何でも自分の理屈を押し通す気質もあるので、合意点を見いだすには長い時間をかける必要が。こちらの粘り強さが試されます。

食事の作法は、“郷に入っては郷に従え”

食事はコミュニケーションをとる絶好の場。お国柄が反映された作法にのっとってビジネスパートナーと一緒に土地のものを味わえば、良好な関係が築けます。食の話は盛り上がるので、世界中でブームの和食のネタを披露しながら食事を楽しむのも手。

[中国]円卓オーナーに従う

中国の食事の席では序列があり、主催側のボスが“円卓オーナー”となって場を仕切ります。「君はコレを食べて」「コレを飲んで」などと指示するのです。中国はメンツの国。ボスの顔を立てるために、勧められたものは理由がない限り断らないこと。酒に弱い人は「随意」(「自分のペースで飲ませて」の意)と言って断ってOK。

[インド]ベジタリアンを尊重する

インドの食習慣を語るときに避けて通れないのが菜食主義者の存在。非暴力・非殺生を説くヒンズー教徒の多くが実践しています。ベジタリアンのビジネスパートナーと食事する際は相手の食スタイルを尊重しましょう。自分も野菜だけをとるべき?と迷うかもしれませんが、相手に合わせなくても失礼には当たりません。

[中東]酒は飲まない

イスラム教徒は戒律によって飲酒が禁じられ、逮捕されることも。そのため、中東諸国では多くのレストランに酒がありません。酒好きには辛い環境です。また、イスラム教徒とユダヤ教徒は、豚肉を食べることを禁じられています。このように、宗教によって食のタブーが存在することを覚えておきましょう。