すでにランチ難民は3人に1人
東京五輪の開幕(2020年7月24日)が、少しずつ迫ってきました。運よく観戦チケットをゲットできた方もそうでない方も、今からその日が待ち遠しいですよね。
一方で、五輪はビジネスマンやOLにとって「悩ましい難題」をもたらす可能性も、いくつか指摘されています。
その代表が、朝晩のラッシュアワーと、「ランチ難民」の増加。とくに後者では、五輪が開催される競技場界隈の企業を中心に、ランチタイムの相当な混雑が予測されます。
ぐるなびによる調査(18年)でも、普段から「月1回は昼食にありつけず、ランチ難民化している」と答えた男女が、3人に1人以上(36%)。これが五輪期間中となれば、さらに何倍も増えるに違いありません。
また、競技場からは遠い企業や住宅地でも、全国的にランチタイムのデリバリーや惣菜需要が増えるはず。「お昼はクーラーのきいた部屋で、ゆっくりテレビで五輪観戦しながら、ランチを食べよう」と考える男女が多いだろう、と思われるからです。
2020年のビジネスチャンスを掴める企業とは
これが、マーケティングで言う「外部環境要因」の変化。かの著名な経済学者、フィリップ・コトラーは、マーケティングにおいて、自社を取り巻くマクロな外部環境の変化を、「PEST分析」によって分析すべきだと説きました。
PESTは、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の4つの頭文字です。
来年の東京五輪によるランチ難民の増加は、都心で働く男女からみると、確かに「ピンチ」かもしれない。でも企業サイドからPESTに照らして考えると、少なくとも「E(経済=消費等)」と「S(社会=トレンド等)」の視点から、大きなビジネスチャンスを迎えるはずですよね。
そこでいま、デリバリーや惣菜を扱う企業は、関連の商品やサービスによりいっそう力を入れ始めています。
例えば「オフィスおかん」。利用企業のオフィスに設置した冷蔵庫・専用ボックスに、定期的におかずを補充するサービスです。
いわば、「社員食堂(社食)」の簡易版、「ぷち社食」とも呼べるでしょう。メニューは「さばの照り焼き」「ひじき煮」「玄米ごはん」といった家庭の味を中心に、約20種類。管理栄養士が監修した、栄養バランスの良い食材を提供するのが特徴です。
「オフィスおかん」導入企業が前年比2倍以上
OKAN・広報の中村星斗さんによると、オフィスおかんの利用企業は、全国で約1500社に及ぶとのこと(2019年6月現在)。毎年導入企業数が(前年対比で)2倍以上の割合で増えているそうです。
提供するメニューは、1品あたり100円。利用する従業員は、オフィスに置かれた専用の集金箱に、買った分だけ料金を投じるシステムです。これは、古くから「富山の置き薬」などで使われてきたビジネスモデル。最近では、オフィスにお菓子が入った小さな箱を設置する「オフィスグリコ」(江崎グリコ)などにも、応用されていますよね。
利用企業は通常、月数万円程度の月額固定料金を「福利厚生費」として支払います。利用しているのは、従業員3人ほどの企業から、5000人を超える企業まで、規模や業種も様々。オフィスだけでなく、クリニックや美容院、また商業施設や工場などにも導入されています。社食を持たない会社だけでなく、社食と併用している会社も多いと中村さん。
確かに毎日社食では飽きやすいですが、かといって仕事中にわざわざ社外のコンビニやレストラン、惣菜店に出向く時間も惜しい。とくにランチタイム、混雑するオフィス街ならなおさらでしょう。
でも、それだけではありません。中村さんによると「最近、男女ともに健康への意識が高い人が増えた影響もあるのではないか」とのこと。多くが「健康で体にやさしいものを選びたい」と考えるからこそ、オフィスおかんのように素朴なメニューを求めるのかもしれません。
夕食用に持ち帰る社員が増加中
またオフィスおかんは、ランチタイムの「社食代わり」だけでなく、「夕食利用」にも役立っているようです。
例えば、近年増え続ける「共働き家庭」の場合。
女性従業員の中には、「早く帰宅して、家族のために調理しなければ」と考える主婦も多いはずですが……、手の込んだ惣菜を一から手作りするとなると、時間や手間がかかりすぎる。帰りにスーパーやコンビニに寄ることさえ「面倒だ」と感じる日があるでしょう。
でも「あと1品」を、社内に設置された冷蔵庫や専用ボックスから持ち帰るだけとなれば、格段にラクになる。
とくに無添加で塩分・糖分も控え目なオフィスおかんの惣菜なら、「ヘルシーではないものを買ってしまった」との罪悪感も抱きにくいはずです。
オフィス外ではアレンジして食卓に
中村さんによると、法人向けのサービス開始当初(2014年)は、「家庭への持ち帰り」需要を想定していなかったそう。ですが、あるテレビ番組で女性社員たちが持ち帰る様子が報道されたのを機に、似たような使われ方が広まったのではないか、とのこと。
「利用者は、持って帰ったおかんの商品をただレンジでチンするのではなく、『ちょい足し』や『味変え』で、アレンジレシピに挑戦しているようです。例えば、カツを卵とじにしたり、豚の角煮と切り餅を炊飯器に入れて、ご飯を炊いておこわ風にしたり、といった具合です」
その他、「次の日のお弁当用に」や、「両親の介護中、家事軽減のために」と持ち帰る女性もいるようだ、と中村さん。こうした社外も含めた利用で、従業員の「ワーク・ライフ・バリュー」の支援に貢献できれば、と言います。
また社内でも、納会やランチミーティングなど「食」を通じたコミュニケーションの場でも役立っているそう。「同僚が、どんなメニューを選ぶのかな」などに注目することで、会話のきっかけ作りになるケースも多いようです。
健康経営の一環として
もちろん、利用者だけでなく企業側にとっても、オフィスおかんを導入する大きなメリットがあります。その一つが、従業員の「健康」と栄養バランスへの配慮。
皆さんは、最近よく使われる「健康経営」という言葉をご存じでしょうか。
もともとは、アメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン博士が提唱した理論(ヘルシー・カンパニー)に基づくもの。従業員が心身ともに健康であれば、会社の業績向上にもつながるはずだという視点です。
近年は経済産業省も、健康経営に取り組む企業を「見える化」する取り組みをスタートさせています。例えば、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する企業を「健康経営 優良法人」として認定する、といった具合。
優良企業と認定されれば、その後の採用活動や株価の上昇等にもつながる可能性があります。もちろん、従業員のモチベーション向上など、社内の活性化にもつながるでしょう。
画期的なサービスが続々と登場!
こうした政府の動きは、先のPEST分析でいう「Politics(政治)」の部分に当たります。
つまり、健康経営という視点を、政府が「認定制度」として導入することが分かった時点で、近い将来、オフィスおかんのようなサービスの利用企業が増えるだろうと予測できる。当然ながら、その後のさらなるビジネス拡大も望めますよね。
実際におかん以外にも、この市場に目をつける企業が次々と登場しています。
その一つが、2018年7月、サントリービバレッジソリューションが、ぐるなびと提携して始めた、法人向けの新サービス「宅弁TM」です。
つくりたての宅配弁当を「自販機」で注文
これは、職場に設置された専用の「自販機」で、飲料を購入するかのごとく、職場近隣のレストランから宅配弁当を注文できるサービス。従業員は、午前10時までに自販機から注文・支払いを済ませれば、その日のランチタイム(12時ごろ)に、職場で作りたての宅配弁当を食べられます。
両社は東京都内の企業から「宅弁TM」の設置エリアを拡大し、2020年までに1000台設置を目指しているそうです。
また、「デリバリー型社員食堂」をコンセプトに、契約企業に日替わりで弁当を届けてくれるのが、「シャショクル」(スターフェスティバル)。
サービスの開始当初(2015年)は、1日100食以上の販売が見込める大企業・複合ビルでの「対面販売」利用が中心でした。ですが19年夏からは、「キャッシュレス&無人化販売」の実現によって、1日20食からの契約が可能に。これにより、従業員数が少ない中小企業でも、利用しやすくなったと言います。
働く男女にとっては「逆風」となるであろう、東京五輪期間中のランチタイム。ですが、関連ビジネスを提供する企業にとっては、まだまだ伸びが期待できそうですね。