仕事をしていると、「なぜその部署へ異動させられるのか」「なぜあの人は昇進したのか」「なぜ自分の企画が通らないのか」など、釈然としないことがたくさん起こります。私たちが知らないところではたらく会社の暗黙のルールや社内の力学について、組織と人事の専門家である中原淳先生が解説します。
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組織の中には暗黙のルールがある

異動や昇進、企画の通る・通らないなど、釈然としないことの多くは、その理由が明確ではありません。裏で暗黙のルールが働いていたり、社内の政治力が影響を与えていたりします。これは、ある程度の規模の組織である以上やむをえないことです。そうした政治的な意思決定がまったく存在しない「ホワイトな組織」を夢想することは、夢想に終わりがちかもしれません。

暗黙のルールですから、それは言葉にならないルールということです。その決裁ルートも不明瞭であることが少なくありません。また暗黙のルールには、組織構成員の「感情」も大きな影響をもたらしていることがあります。ビジネスは「ロジック」で動いているのはなく、「感情」で動くことも多いのです。

重要なことほど暗黙知化されている

言葉にならないこと、決裁ルートが不明瞭であること、また感情で動きやすいものは、それを「感じること」が重要です。基本的にこういう事案が起きたときは、誰がどう動くかをつぶさに観察するしかないと思います。ビジネスは「観察」からはじまります。観察力には個人差があり、見ている人は見ているし、見ていない人は見ていません。

ただし、暗黙のルールがときたま表に出るときがあります。それは、その会社に長くいるベテランや、組織のキーマンが「そういうときは、こうするんだよ」とこっそり教えてくれる瞬間です。暗黙知が半形式知化する、またとない機会です。それを見逃さないことが大事です。

マネジメントとは「グレーな世界」を生きる覚悟

暗黙のルールの中で生きていくうえで心得ておきたいことがあります。それは「グレーな世界」に慣れることです。

最近は社内に女性が増えたり、外国人が増えたりと組織の多様化が進んでいて、物事をはっきりさせようという動きはあります。しかしそれは仕事のやり方やルールの話であって、やはり重要な決定には社内政治的な力が働いて、一般の社員から見えない世界があります。会社という組織が人間から成り立っている以上、それは消しようがないのです。

女性に限らず、白黒つけたがる人がいます。しかしポリティカルなことや、組織にとって重要なことの大半はグレーであることが多いものです。白はあり得ませんし、真っ黒ということもありません。

組織の上層部が扱う物事はすべからくグレーです。白や黒と判断が付くものは実務者レベルですでに決裁されているので、上層部が判断する対象にはグレーなものしか残らないのです。

同じ濃度のグレーであっても、それを「黒」と判断するのか、「白」と判断するかは暗黙知の世界です。その場の雰囲気で決まることも多いのです。

マネジメントとは「グレーな世界」を生きる覚悟です。もしあなたが、職場、組織を動かし、何かを成し遂げたいのなら、グレーな世界をホワイトに塗り替えようとするよりは、グレーな世界を生き延びる方法を考えた方がいいのではないか、と思います。

ほとんどの役員会議は企画の潰しあい

よく「あの人の企画は通って、なぜ私の企画は通らないのか」と不満に思うことがあります。そのときに「どうしてですか」と上司に聞いて答えが返ってくるとしたら、その企画はレベルが低いと考えてまず間違いありません。たとえば「企画書としての形式をもっと整えて」という程度で十分というレベルの企画です。

逆に企画としてのレベルは高く、役員会議まで上がっていってダメだった場合は、役員同士の人間関係が大きく影響している可能性が高いと思います。たとえば、こちらの企画に賛成している役員がいたとして、その役員とひどく仲の悪い役員が頑なに反対したといったケースです。まさに「グレー・オブ・グレー」の世界が展開されているのです。

だから大事な企画を提案する場合は、役員の人間関係まで頭に入れる必要があります。絶対通したい企画だけど、役員同士、仲が悪くて役員会議で決裁が降りそうもないと予想されたら、役員の頭越しに直接社長に提案する思い切った手も講じます。それが世の中で言う「賢い」ということでしょう。

実際ほとんどの役員会議は、仲のよいメンバーが集まっているとはお世辞にもいえません。元々、ライバル同士が集まって開く会議です。仲が良いわけがないのです。最後は誰が社長になるかを競っている者同士です。相手の企画に難癖をつけ、自分の企画を通そうとするのは当然です。

自分の企画を通しやすくするには

自分の企画を通しやすくするには、どの役員に実力があるかを見極める必要があります。それを知るには、最終的には、役員層との距離の近さが大事になってきます。

スポンサーシップで引き上げるのは裏を返せば、そこに論功行賞の力学が働いています。つまり、「引き上げてやるからオレのために働けよ」ということです。論功行賞が組織のルールとなっていれば、上司は味方を得たいので、優秀な女性にも重要な情報が流れます。

こうした組織の暗黙のルールは、日本も外国も関係がありません。アメリカ人はロジカルだから暗黙のルールがないだろうと思うかもしれませんが、それは間違いです。日本以上の派閥社会が存在しています。上司が引き抜かれたら部下ごといなくなる社会です。

一般社員は役員層に近くないので、実力派の役員を見極めるのが難しいかもしれません。

1つ、企画を頑張って通そうとしてくれる役員を見つける方法があります。任期があと1年に迫っている役員に狙いを付けるのです。もうすぐ任期が終わる役員は、最後に一花咲かせたいと考えているか、もう一つ上を狙っている人です。だから、けしかけやすいわけです。これも政治の世界です。

物事は政治的に決まっていくので、それをフェアではないと言っても仕方がありません。男女に関係なく、組織の動きは「良い・悪い」「正しい・正しくない」という軸で捉えるのではなく、ポリティカルなものとして考え、察知するのが正解です。