連休が始まりました。脳科学者の茂木健一郎さんと、そとあそび研究家の山本貴義さんの対談2回目は、ついやってしまいがちな「勘違い休息法」をご紹介。家でゴロゴロして日ごろの疲れを癒そうと思っている人、逆にしっかり予定を立てて遊びまくろうと思っている人、どちらも要注意! 実はその過ごし方、休息になっていないかもしれません。

タスクをこなす「To-Do リスト型」休暇はNG

【茂木】普段忙しく働いている女性は、GWこそしっかり頭を休めなくては。そこをもう少し突っ込んで考えると、逆にNGな休息法っていうのもあると思うんですよ。

【山本】そうですね。平日と同じように感情労働をしたり、頭をフル回転させたりといった過ごし方をしたら、頭が疲れたままでGW明けを迎えることになる。それではせっかくの休暇がもったいない気がします。

【茂木】その点で言うと、きっちり予定を立ててひとつずつこなしていくような「To-Doリスト型」の旅行はNGですね。念入りに事前準備をして、それをすべてやり遂げたいタイプの人も多いと思うんですが、それじゃ普段の仕事と変わらないでしょう。オフの日は、脳もオフにできる過ごし方をしたいですね。

【山本】僕がガイド時代に一番大切にしていたことは、自然の中で最高に心地いい体験をして、いい状態になって帰ってもらうこと。その心地よさにハマってくれる人も多く、こればっかりは本当に「一度体験して」としか言えないんですけど(笑)。

「インスタ映え休暇」はやめるべし

【茂木】僕としては、働く女性にはぜひ自然の中に身を置く体験をしてほしい。そして自然の中に入ったら、「To-Doリスト型」に加えて「インスタ映え休暇」もやめたほうがいいと思います。出かけた先でインスタに上げることを前提にして写真を撮っていたら、それはもう見る人の目を気にしているわけで、つまりは脳をしっかり使っている。休暇中はインスタのことは忘れて、いま自分が経験していることに没入しなきゃ。

【山本】僕も、取材先で景色を撮影するときは、「どう撮ったらこの魅力が伝わるかな」と試行錯誤しています。きれいな景色を見てもずっと構図を考えている感じで、つまり脳をフル回転させているんですね。仕事だからいいけれど、これを休みの日にもやってしまったら確かに疲れそうです。

北海道でちょうを採取する茂木少年。小学校5年生のとき。

【茂木】せっかくのお出かけだから、景色や自分の写真を残したいのはわかるんですが、インスタを前提にしないように心がけてほしいですね。おすすめは、一緒に行った友だちや家族と密かにお互いを撮り合うこと。カメラを意識していないときって、みな自撮りと違って本当にいい表情、リラックスした表情になっているんですよ。僕も子どものころに父親と北海道にちょうちょを採りに行ったときの写真がとてもいい表情をしているんです。

【山本】わかります。僕の場合も、子どもが撮ってくれた写真はすごくいい表情をしていたりしますね。子どもって景色も驚くような構図で撮っていたりして、衝撃を受けることもしばしば(笑)。人が見ることを意識しないで撮るからいいのかな。

【茂木】そうそう、休暇中の写真は撮るのも撮られるのも人目を意識しないことが大事。僕はよく旅先で友人を勝手に撮っちゃうんですが、後で送るとみな喜んでくれますよ。それがまたいい思い出になったりするんです。

サザエさん症候群を撃退する方法

【茂木】特に普段「感情労働」をしている人は、そこから解放されることが脳の休息になります。それができずに休暇最終日を迎えると、明日からまた仕事だ……と憂鬱になる。日曜の夜にブルーになることを、アニメ番組『サザエさん』の放送時間になぞらえて「サザエさん症候群」と呼ぶそうですよ。

【山本】仕事中の状態を引きずったまま休日を過ごしたら、そうなるのもわかりますね。仕事開始に向けてリフレッシュできていない、つまりうまく休めていないんだと思います。

【茂木】日曜の夕方に家で『サザエさん』を観ていたとしたら、平日と同じようなスケジュールで帰宅したか、もしくは1日中家にいたのかもしれない。上手に休息できなかった可能性は高いんじゃないかな。体を休めたつもりでも、そのあいだ仕事のことが頭から離れなかったら脳のメンテナンスはできません。大事なのは、仕事とまったく違う体験に没入すること、人の目を忘れてボーッとすること。自然の中に行けば、これらが一挙に叶えられますよね。

【山本】半ば強制的にそうなりますね(笑)。自然の中に入ると、頭で考えるより先に目に入るもの、肌に触れるものが感覚に訴えかけてくるようになる。僕の場合は、食事も普段よりおいしく感じます。単純に、体を動かすからお腹が空くっていうこともあるんですけど、自分では五感が活性化するのかなと思っています。でも人間って、それが本来の姿なんじゃないかな。普段はいろんなことに忙殺されて感じにくくなっているだけで。

【茂木】その感覚、よくわかります。意外かもしれませんが、僕もアウトドア体験は結構豊富なんですよ。子どものころからよくキャンプや登山を楽しんでいましたし、大人になってからも学会で行った先で自然の中へ出かけたりしています。以前、アリゾナで砂漠の中をひたすら歩くっていう体験をしたんですが、何ともいえない心地よさに包まれて、すごく幸せな時間でした。

【山本】自然の中に行くと、なぜかみな幸せそうな表情になりますね。例えば登山でも、怒りながら山を登っている人はいないし、人とすれ違ったら笑顔で挨拶したりしているでしょう。それって、単純に気分がいいからだと思うんです。幸せってそんな遠いものじゃなくて、自然体験みたいな小さなことでも意外とかみしめられるもの。普段ストレスの多い人ほど、休日にはぜひそんな体験をしてもらいたいですね。

茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者。1962年、東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。第4回小林秀雄賞受賞の『脳と仮想』(新潮社)、第12回桑原武夫学芸賞受賞の『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)、『脳を使った休息術』(総合法令出版)など著書多数。
山本 貴義(やまもと・たかよし)
そとあそび研究家。アメリカ・ワイオミング州にあるグランドティトン国立公園の大自然に感銘を受けたことをきっかけに、2004年7月、アウトドアレジャー専門予約サイト「SOTOASOBI(そとあそび)」を創設。現在も、年間100日はアクティビティを取材する日々を送る。