近年、PTA活動を簡素化する変革の動きが出てきている。仕事内容を見直して合理化する、PTA版・働き方改革。でも、それだけでは不十分と言うのがノンフィクション作家で『PTA不要論』著者の黒川祥子さんだ。なぜPTAは不要なのか。

共働き世帯が増えた今、維持は不可能

2016年には共働き世帯が1129万世帯に対し、専業主婦世帯は664万世帯と倍近くの開きになっている。これだけ専業主婦と仕事を持つ主婦の比率が違ってきているわけだから、30年前、専業主婦が多数派だった時代に作られたPTAの活動内容は見直されて当然であり、いつまでも「前例踏襲」していていいわけがない。

ネットを検索すれば山ほど出てくる母親たちの悲鳴は、間違いなくPTAの変革を求めている。専業主婦だから担えた活動を同じようにやれと言われても、今や不可能であることは火を見るより明らかだ。

なり手がいない「終わった組織」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/takkuu)

大抵のPTAには「推薦」や「指名」などの専門委員会が置かれているが、これは次の年度の本部役員を決めるために活動する組織だ。東京下町に住む、美咲さん(47、仮名)は、推薦委員会の委員長の任期期間、鬱になるかと思うほどの憔悴を味わった。

「前任者に『3回、断られるのが当たり前』と言われました。電話は着信拒否なので、ピンポンしに行きました、何度も。一生懸命、手紙も書きました。とにかく、なり手がいないんです。どんどん、追い詰められていきました」

美咲さんは自嘲気味にこう語る。

「その組織が次年度も存続するために、そのためだけに活動する委員会がわざわざ必要なんて、その時点でもう、終わった組織ってことでしょう」

恐怖の保護者会をなくす大改革

PTAという組織は、会長・副会長・書記・会計・会計監査からなる本部役員と、その下に文化・安全・校外・広報などの各専門委員会があり、委員会が具体的な活動を行うという構図になっている。

そのPTAを実際に大変革した小学校がある。由梨さん(46、仮名)はPTA会長になった年に、各専門委員会を廃止し、“恐怖の保護者会”を一掃した。

それまでに由梨さんは本部役員を3年経験し、多くの疑問を持った。

「みんながやらなきゃいけないという意識、これって変じゃない? って感じたことが始まりでした。委員会のために保護者を軟禁して役員決めをする、全員が強制的に参加するシステムを止めませんかと……」

軟禁してまで役員を決めておきながら、子どものためになる活動自体がほとんどなく、何のためにやるのか意味がわからないものばかり。前例踏襲派の本部役員が卒業で抜けるのを機に、由梨さんは本部役員と協力して、専門委員会は全て廃止した。

その代わりに本部役員は倍の20人に増やし、イベントごとの統率係の役割を担ってもらい、実働部隊としては、一般会員がやりたい時にお手伝いとして参加するようにした。強制ではなく、できる人ができるイベントにだけ関わるという形にしたのだ。クラス役員は1人だけ選出、連絡係になってもらう。これなら“恐怖の保護者会”は必要ない。

PTA改革で人気小学校に

学校側には、改革前の年度末に大まかな方針を文書にして伝え、子どものための改革であることを強調し、了承を得た。新年度になり、保護者への説明会を開催し、改革の全容を伝えた。

「PTAの会則は一定数の賛同者がいれば、変えられます。総会で決議をとり、賛同されました。私はPTAに入らない人がいてもいいと思う。マンパワーは出せないけれど、お金だけは出すというのもありだと思います」

この改革のおかげなのか、少子化のご時世でありながら、由梨さんの小学校には入学する子どもがどんどん増えているという。

それでもPTAが必要ない理由

このような活動の簡素化や合理化を進める改革が起これば、それでPTAの問題は片がつくのだろうか。それを考えるために、PTAの別の側面を見ておきたい。

前回の記事(PTAがベルマーク運動をやめない理由)で、PTAは区市町村から都道府県、そして国へと連なる縦の組織であることに触れたが、なぜ、PTAは国につながっていないといけないのだろう。

2018年8月、佐賀県で開催された「全国高等学校PTA連合会」大会において、吉野復興大臣が挨拶を行い、福島県の放射線量は他の都市と変わらないぐらいに戻ったのでどんどん、福島県に修学旅行に行ってほしいと呼びかけ、福島県の食材の給食への利用などを訴えた。

こうして風評被害の払拭という国の意志が、PTAという組織を通して末端の一会員にまで伝えられていく。慎重に考えたい保護者だっているだろうに。

PTAは戦後、占領軍(GHQ)の働きで作られたものだが、戦前の「母の会」の流れをくむ面もあることが、取材の過程で明らかになった。母の会は、子どもが戦地で国のために死ぬことを誇りに思う、国が理想とする母の像を体現する。たとえ、わずかであってもその流れがあるのなら、断ち切るべきだと私は思う。子どもの健全な育ちのための保護者組織であるのなら、国に繋がっている必要はないはずだ。学校独自の組織でいい。

PTAの代わりに何が必要か

取材に応じた母親たちは、揃ってこう言った。

「私たち、タダ働きが嫌なんじゃない。子どもにとって意味のある活動をやりたいんです。それも楽しんで」

だから、本の読み聞かせには多くの手があがるのだ。悪しき平等主義に貫かれ、母親たちをキリキリと苦しめる組織ではなく、やりたい人がやりたいように、子どもにとって意味のある活動を担っていく、ゆるやかな保護者組織に、PTAはそろそろ脱却すべきではないのだろうか。

黒川 祥子(くろかわ・しょうこ)
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)ほか。息子2人をもつシングルマザー。