【Part 1】独立前に知っておきたいこと
独立したいと思っても、一体どんな方法があるのかわからないという人も多いはず。実は独立にはいくつかのやり方があるんです。
独立するにはどうすればいいの?
起業しようと考えたとき、まずは形態を決める必要があります。大きく2つあり、1つは「個人事業主」になること。そしてもう1つは「法人」を設立することです。
法人には株式会社(営利法人)、NPO法人(非営利法人)、公社(公法人)などが該当します。事業の主体は個人とは切り離された別の人格、会社そのもの。これに対して、個人が主体となって自己責任で事業を行うのが個人事業です。自営業やフリーランスなど、個人事業を行う人が個人事業主と呼ばれます。では、事業の主体が個人か法人かで、何が変わってくるのでしょうか。
たとえば、事業で借り入れをしたにもかかわらず、返済ができなくなってしまった場合、個人事業主は個人の財産を売却してでも借金を返さなければいけません。しかし、法人は生じる責任も事業主本人とは別と考えられるので、基本的には法人の財産の中から返済します。
たしかに個人事業は事業の全責任を個人が背負うのでリスクがありますが、簡単に起業できるメリットも。開業する際に複雑な手続きや費用が必要ないのです。
また、所得が低いうちは個人事業のほうが税負担は少なく済みます。利益が500万円から600万円を超えるようであれば、法人化したほうが税金面では有利になるでしょう。
どんな職種で独立する人が多いの?
企業を退職して法人を設立する人もいますが、多くの人がまずは個人事業主になる道を選びます。職種にもよりますが、企業などに数年勤めてスキルを身につけて独立する人もいれば、好きなことを仕事にするために独立する人もいます。
個人事業主として働ける職種は数多く存在しますが、「IT系」「プロフェッショナル系」「クリエーター系」「販売系」「士業系」の5種類に分類できます。
IT系は、パソコンを使ってシステム開発などに携わる人たち。インターネットにさえつながれば場所を選ばないので、国内外どこでも仕事ができます。プロフェッショナル系はスキルを活かしてコンサル的な立ち位置で活躍します。クリエーター系はフリーランスで働く人が多い業種。未経験者でも参入しやすい分野でもあります。最も趣味を反映しやすいのが販売系。世界中の人を相手にした商売も可能です。そして、資格取得のハードルが高く、多くの収入が得られるのが士業系となります。
週末起業などを経て独立する人が増加中
働き方改革などの影響もあってか、起業の相談に来る人が増えています。以前は企業を退職して、個人事業主になるか、法人を立ち上げるかがほとんどでした。しかし、最近は週末起業などを経て独立する人が多いです。これは、昨今、副業を解禁する企業が増え、気軽に副業を始められる環境が整ってきたからといえるでしょう。副業がOKの企業に勤めている場合は、まずは副業で様子を見てみるのもよいかもしれません。
フリーランスと個人事業主の違いは?
フリーランスとは働き方の1つで、独立して仕事を請け負う人をいいます。会社員は勤務先の企業と雇用契約を結びますが、フリーランスは単発の仕事ごとに契約します。
一方の個人事業主は個人で事業を営んでいて、法人を設立している人以外のこと。税務上の事業所得を得ている個人です。つまり、フリーランスと呼ばれる人の多くは個人事業主ですが、必ずしも「フリーランス=個人事業主」というわけではないのです。
メリット
・少ない資金で開業できる
・好きな時間に働ける
・働く場所にも自由がある
デメリット
・収入が安定しない
・人脈がないと事業運営が困難
・現金回収までに時間がかかる
【Part 2】開業前に考えておくこと
やりたい事業を実現するために、まずはプランを練りましょう。事業にはいろいろなモノや人脈、お金が必要になります。綿密に計画を立てることが成功への第一歩です。
まずは何から始めればいいの?
最初にすることは事業コンセプト、提供したいものを決めること。これが事業計画の基本になります。
まずは事業のウリを考えてみましょう。商品の内容や質、雰囲気やテーマなど、他社との差別化につながるポイントを1つ決めるのです。
次は優先順位をつけながら、条件の整理を。たとえば、収納コンサルタントの人が、ウリを「ワーキングマザーがラクにできる収納提案」にしたとします。にもかかわらず、おしゃれさを優先して複雑な収納方法を提案しても、支持を得るのは難しいかもしれません。事業のウリを最大限に活かせるよう何を優先すべきなのかを考えることが大切です。
そして最後に、「誰に・何を・どのように」届けるのかを明確にしながら、コンセプトをまとめます。一貫性のある事業計画が立てられるかで、事業の成功度が変わるので、時間をかけてでも取り組みましょう。
事業計画の立て方にコツがあれば教えて!
事業計画を立てるうえで把握しておきたいことがあります。それは、ビジネス上の自分の強みと弱み。自分がすでに「持っている財産」と「足りない財産」を洗い出すことで、強みと弱みが見えてくるのです。ここでいう財産とは、「ヒト・モノ・スキル・カネ」の4つに分けられます。
事業を運営していくには、どれだけの人脈(ヒト)を持っているかが重要なポイント。人脈があれば、いろいろな場面で助けてもらえることがあるはずです。ほかにも事業には、オフィスや機材(モノ)、専門知識や技術(スキル)、またそれらを手に入れるための資金(カネ)が必要になります。
これら4つの角度から強みと弱みを分析するのですが、そこで役立つのが事業計画書。何度も書き直すことで、自分の事業に必要なものが具体的に見え、全体像が把握できます。
事業計画書は、金融機関から融資を受ける際にも、審査の判断材料になる重要な書類。「日本政策金融公庫」のホームページ上で「創業計画書」というひな型が無料配布されているので、まずはそれを利用して自分なりに作成してみましょう。
どんなお金が必要になるの?
個人事業の場合、設立費用は特にかかりませんが、事業を形にするには元手が必要です。開業するには、「準備資金」「運転資金」「生活費」を用意しておかなくてはなりません。
準備資金は事業を始めるために必要なお金。たとえば、オフィスを借りるための保証金や仲介手数料、家具など。業種や規模によって額は違いますが、開業する環境を整えるためにさまざまな出費が予想されます。
運転資金は事業を継続させるために必要なお金。売り上げにかかわらず発生する家賃や人件費、交通費などの「固定費」と、売上額に応じて変動する、外注費や広告宣伝費などの「変動費」に分けられます。
生活費は、事業主の生活に必要なお金。衣食住にかかわる費用のほか、税金の支払いなどが含まれます。
開業してもすぐに軌道に乗るとは限らないので、運転資金と生活費は最低でも各3カ月分は確保しておくとよいでしょう。
資金が足りないときはどうすればいい?
自己資金がどうしても足りないというとき、家族などからの援助が期待できない場合は金融機関からの借り入れを検討しましょう。
借入先として、民間金融機関が浮かぶと思いますが、個人事業の場合は社会的な信用度が高くないので、銀行や信用金庫などからの借り入れはほぼ不可能と考えてください。
そこで、最優先で候補にあげたいのが、政府系の金融機関。特に日本政策金融公庫は、新しく起業する人のための融資プランが充実しています。また、民間の金融機関に比べて融資を受けやすいだけでなく、返済期間を長く設定できるなどのメリットがあります。
次に検討したいのが、制度融資。これは、自治体と金融機関、信用保証協会が連携して融資を行う制度のこと。自治体が資金源、信用保証協会が事業主の保証人のような立場になることで、金融機関のリスクが軽減されるのです。これにより、担保や保証が十分でない事業主も融資を受けられるようになります。
ただし、事業主は信用保証協会への「信用保証料」支払いが必要。保証料は融資額の1%前後が相場となっています。融資プランは各自治体によって条件や内容が異なるので、開業場所が決まったら自治体に問い合わせてみましょう。
積極的に補助金・助成金を活用して!
国や地方自治体が雇用対策や地域活性化を目的として事業主に支給する補助金・助成金を利用しない手はありません。原則として、返済の必要がないからです。大半は審査があったり、審査に通っても給付まで時間がかかったりというケースもありますが、日頃から自分の事業に該当する補助金・助成金制度の情報を集めておくようにしましょう。
【Part 3】開業前に手続きしておくこと
事業を始めるには、健康保険や年金の手続き、届け出など、さまざまな準備が必要です。忘れてはいけないことを把握しておきましょう。
そろえておくべきアイテムってあるの?
事業の業種や形態によっても異なりますが、事業用の名刺、印鑑、預金通帳、クレジットカード、マイナンバーカードは最低限用意しておきたいものです。
特に印鑑は取引や各種手続きの場において、重要な役割を担うアイテム。認印で済ませる人もいますが、事業用の「実印」「角印」「銀行印」をつくることをおすすめします。
事業用の個人口座の開設とクレジットカードの用意も忘れずに。経理作業の負担が格段に軽くなります。ただし、個人事業主はクレジットカードの審査に通りにくいので、できれば会社を退職する前につくっておいてください。
そして最後に、マイナンバーカードの申請を。身分証明書にもなるマイナンバーカードは、書類の提出や報酬を受け取る際に提示を求められることがあります。持っておくと何かと使い勝手がよいはずです。
保険や年金はどうすればいいの?
企業を退職して個人事業を始める人は、「国民健康保険」と「国民年金」に加入する必要があります。
会社員の場合、「被用者保険」「厚生年金」に加入していますが、企業を退職した翌日から、保険や年金の資格は喪失してしまうのです。資格喪失の手続きは勤めていた企業がしてくれますが、国民健康保険や国民年金への加入手続きは、自分で行わなければなりません。退職日の翌日から14日以内に手続きが必要です。
会社員の配偶者がいる人の場合は、事業が安定するまでの間、配偶者の扶養に入れてもらうのも手。条件は健康保険組合ごとにルールが異なる部分が大きいので、まずは組合に相談・問い合わせをしてみましょう。
また、年金額が不安な場合は国民年金基金に加入を。加入すると、上乗せする保険料にもよりますが、会社員並みの年金を受け取れるようになります。詳細は国民年金基金のホームページで確認しましょう。
開業に必要な「届け出」って?
個人事業にかかわる届け出は、「税金にかかわるもの」と「雇用にかかわるもの」に分けられます。
必須なのは「個人事業の開業・廃業等届出書」と、「事業開始等申告書」の2つ。個人事業の開業・廃業等届出書は、事業の実態を通知する届け出で、納税地を所轄する税務署に提出します。事業開始等申告書は、事業の開始を知らせるための届け出で、所在地を所轄する市区町村役場に出します。自治体によって提出期限に差があるので、注意が必要です。
書類は必ず2枚ずつつくっておくこと!
後々、開業届の控えの提出を求められる場面に出くわすことがあるかもしれません。しかし、税務署や役所では控えは出してくれないので、書類は2部作成を。1部は提出し、もう1部は日付入りの受付印を押してもらって控えにすれば、どこかで控えの提出を求められても、すぐに対応できます。
【Part 4】うまく運営するために知っておきたいこと
事業は集客や資金繰りなど、戦略を立てながら進めていくことが重要。成功するためのノウハウを教えます。
集客するにはどうすればいい?
持っている人脈を活かして、リピーターや紹介を増やすことが、集客における最も効率のよい方法です。
リピーターは、事業に共感や興味を持ってくれているので、こちらが発信する情報もチェックしてくれます。フェイスブックなどのSNSをうまく使って、リピーターにとって有益な情報を提供すれば、信頼も親密度も深まるでしょう。
新規客を獲得するには、ホームページの充実化を図ったり、クラウドサービスを利用したりしてみても。
利益率も考慮しながら、顧客との関係性を意識して戦略を変えることが、集客につながります。
途中で資金が足りなくなったらどうしよう……
手持ちの資金が枯渇しないよう、最低でも月商の1カ月分の現金はすぐに用意できる状態にしてください。
それでも資金不足に陥ってしまったら、優先順位をつけて対策を。まずは無駄な経費を徹底的に削減することから始めましょう。次に、家族や親族、金融機関からの借り入れの検討を。このあたりまででなんとか資金を工面できれば理想的です。
それらがどうしても難しいときには、取引先や仕入れ先に売掛金の早期回収や買掛金の支払い延期の相談を。従業員を抱えている場合は賞与や給与の減額、整理解雇なども検討する必要があります。
借入金を増やさないことも大事ですが、事業を続けていくなら、取引相手を不安にさせたり、自ら信用を落としたりする行為はできるだけ避けたいところ。こういった状況を未然に防ぐためにも、最初の事業計画が大事になってきます。
○成功:円満退社を心がけ、独立後は下請けに
デザイン会社を経て、デザイナーとして独立。円満に退職し、仕事はそのまま下請けとしてもらえることに。会社員時代に知り合った仲間からの仕事の紹介は途切れることはない。独立前は人間関係を良好に保つことに留意し、人脈を広げておいてよかった。(45歳女性/39歳で独立)
×失敗:下調べせずに開業。経営計画が甘く、資金繰りが大変!
輸入雑貨のネットショップを開業したが、こんなにも競争が激しく、利益率が低いとは思わなかった。仕入れ資金と広告費、運営費を融資でまかなえるかどうか、資金繰りが毎月大変。業界や商品をよく調べてから、方向性を決めればよかったと後悔している。(42歳女性/40歳で独立)
○成功:無料相談を利用し、戦略的な売り込みができた
会社員時代に身につけたノウハウをもとに、Webサイト運営のコンサルタントに。起業コンサルタントに無料相談したところ、出版でのブランディングを勧められた。教えのとおりに売り込んだ結果、出版を果たすことができた。専門家に相談したのが勝因だと思う。(35歳女性/33歳で独立)
×失敗:事業計画があいまいで、強みを活かせなかった
ターゲット客層や売り方があいまいなまま、マナー講師として起業。その結果、約1年間、ほとんど売り上げが上がらなかった。兄の会社で事務として働いて何とか食いつなぐことができたが、事業計画書も書かずにスタートしたことが失敗のもと。(39歳女性/37歳で独立)
事業を成功させるには?
(1)人脈をつくる
(2)経営・専門分野の情報を収集する
(3)強みを磨く
当然のことながら、事業は顧客や親身になってくれる人がいてこそ、発展していくものです。また、経営や業界に関する有益な情報を、敏感にキャッチして逃さないことも大事。それにはやはり人脈がものをいいます。そして、事業の強みやウリに磨きをかけて、顧客にとって唯一無二のサービスや商品を提供することが、成功につながります。
起業コンサルタント(R)
V-Spiritsグループ代表。「まるごと起業支援.com」を主宰。年間約300件の起業相談を無料で受け、多くの起業家を輩出している。主な著書に『一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」』(明日香出版社)など。