大人の「肌トラブル」大事典
「肌は本来、環境に適応できる力があります。しかし、誤ったスキンケアで環境に適応しにくくなり、多様なトラブルが発生するのです」と語るのは上出良一先生。働く女性の多くは、「私の肌は乾いている」「私は敏感肌だ」と思い込み、過剰に保湿をするなど足し算のスキンケアに走りがち。アイテムを最低限にするなど引き算のケアを心がければ、肌の状態は自然とよくなるそう。
「現代は化粧品に関する情報があふれています。そのため、本当に信頼でき、自分の肌に合う化粧品を見極めて、取捨選択することが必要です。情報の海に溺れないよう、コスメもリテラシーが求められる時代なのです」(上出先生)
肌は体調など、その人のすべてを映し出すもの。自分に合った正しいケアでトラブルを解消しよう。
肌トラブル、なぜ起こるの!?
肌は表皮、真皮、皮下組織に分かれ、表皮のもっとも外側にあるのが角層。外部の刺激から肌を守ると同時に、肌内部から水分が蒸発するのを防ぐ。一方、真皮はコラーゲンとエラスチンに支えられ、肌の弾力をキープ。そのすき間をヒアルロン酸が埋め、肌の水分を保っている。
「セラミド、エラスチン、コラーゲン、ヒアルロン酸は、加齢によって産生量が減少。セラミドが減ると肌は乾燥しやすくなり、コラーゲンやヒアルロン酸が減ると、肌がしぼんだ印象になります」(吉木伸子先生)
肌の健やかさに大いに関係するターンオーバー
「ターンオーバーとは、肌の細胞が新しく生まれ変わるサイクルのこと。通常は約28日周期で行われますが、年齢とともに速度がダウン。40代では約40日周期となり、シミなどができやすくなります。美肌をめざすには、ターンオーバーを促すケアが必要なのです」(吉木先生)
また、肌トラブルの原因は、過剰な洗顔や皮膚の摩擦といった外的要因から、睡眠不足などの内的要因まで多種多様。ふだんのスキンケアや生活習慣を振り返り、トラブルの原因を知ることが改善の第一歩となる。
スキンケアとは肌を健康な状態に保つこと。これに対し、治療は肌トラブルの原因を探り、薬などを用いて健康な状態へと導くのが目的だ。多くの人は、大きなトラブルがないと皮膚科を訪れることはないが、少しでも気になる症状があるなら、皮膚科に相談してみよう。「“肌が乾燥する”など困った症状があったら、皮膚科に相談することで正しいお手入れ法が見つかります。自己判断で誤ったケアをすると症状が悪化することも。早期に対処することで症状が進むのを防げます」(菅原先生)
気になる肌トラブル(1)
【乾燥・カサつき】
「健康な肌は角層に20~30%の水分を含んでいますが、水分量がそれ以下になると乾燥肌に。また、肌の水分はセラミドによって維持されています」と吉木先生。保湿ケアの基本はセラミドを補うことだという。
また、菅原由香子先生によると、肌に合わない化粧品を使い続けることも乾燥の原因に。
「肌に合わない化粧品は皮膚の構造を壊し、バリア機能を低下させます。その結果、肌が水分を保てなくなって乾燥が進行。そのほか過剰なスキンケアで肌を触りすぎたり、熱いお湯で洗顔したりすることでも乾燥を招きます」(菅原先生)
・赤み、湿疹がある
・頭皮がかゆく油性のフケがある
・かゆくてこすってしまう
【指でチェックしてみよう!】
上出先生によると、頬に指の背をあててベタつきを感じたら、過剰保湿の可能性が。乾燥していると思っていても意外とベタついている人が多いそう。乾燥に加えて、上記の症状がある場合は皮膚科の受診がオススメ。
洗顔後は肌にワセリンを塗るだけ、という人も多い。しかし、菅原先生いわく、ワセリンは油分で肌の表面を覆うだけで水分を与えられず、表面はしっとりしていても、肌内部は乾燥している状態に。湿疹やニキビの原因になることもあるので注意を。
気になる肌トラブル(2)
【シミ・肝斑】
「シミは光老化のひとつ」と上出先生。紫外線を浴び続けると表皮のメラノサイトという細胞に異常が起こり、メラニン色素を過剰に分泌してシミが発生。そのため、シミは紫外線をカットすることで予防できる。
一方、肝斑(かんぱん)は頬骨のあたりに、モヤッと薄茶色のシミのようなものが広がる症状。菅原先生によると、ホルモンバランスの乱れによってできることもあるが、スキンケアなどで頬骨に手が当たり、刺激を与えることで皮膚が炎症。その結果、皮膚が薄茶色になる。頬骨の部分に化粧水などをつけるときは手の力を抜き、やさしく押さえるよう心がけて。
▼シミと肝斑の違い
紫外線によるシミは「老人性色素斑」とも呼ばれ、1度できてしまうとセルフケアで消すことはできない。これに対し、肝斑は炎症を抑える「トランサミン」という薬を服用し、スキンケアで肌をこすらないよう注意すれば消えていく。ただ、シミか肝斑かを自己判断するのは難しいので、皮膚科で診察してもらうのがオススメ(菅原先生)。
美容皮膚科でのシミの治療は、ピーリング、レーザー、フォトフェイシャル、レチノイン酸ケアなどがある。「それぞれ内容や金額、通院の頻度が異なるだけでなく、治療方法によっては一時的に赤くなったり、カサブタができたりします。医師はシミの状態に合わせた治療を提案しますが、最終的に選ぶのはあなた自身。予算やライフスタイルを鑑みて、希望に合った治療を選びましょう」(吉木先生)
気になる肌トラブル(3)
【シワ・たるみ】
シワやたるみは、加齢によって皮膚の真皮にあるコラーゲンが減少したり、紫外線によって傷つけられたりすることでできるもの。
「スキンケアで、たるみをなくすことは難しいですが、レチノール配合の化粧品を使うことでコラーゲン合成を促し、シワを予防することができます」(吉木先生)
また、菅原先生によると、たるみが気になるからとマッサージをするのは逆効果。皮膚が引っ張られて、たるみが加速することに。また、顔の筋肉を鍛えようと口の周りを大きく動かすエクササイズもNG。口周りのシワが増えるので気をつけて。
年齢を重ねると皮膚全体は薄くなるが、ターンオーバーが遅くなり、角層が厚くなる。すると、ターンオーバーが阻害されて、新しい細胞に生まれ変わりにくくなるうえ、くすみの原因になることも。「ピーリングによって表面の不要な部分を少しとってあげることでターンオーバーが活性化し、アンチエイジングにもなります」(吉木先生)
気になる肌トラブル(4)
【大人ニキビ】
「フェイスラインや口の周りにできるのが大人ニキビの特徴。原因はホルモンバランスの乱れとストレスで、皮脂の分泌を急激に増やします」と亀山孝一郎先生。皮脂は肌にうるおいを与え弱酸性に保つが、過剰な皮脂は毛穴の開きや詰まりを招き、ニキビなどの炎症を起こす。また「炎症老化」もニキビの原因に。体内では常に何らかの炎症が生じており、加齢によりダメージが拡大し、皮膚の老化を促進する。
「ニキビを防ぐには、ビタミンの摂取や食生活の見直しが必要。そして、おおらかに笑って過ごす時間をつくることも大切です」(亀山先生)
●白ニキビ
ニキビの初期段階で、過剰な皮脂が毛穴に詰まっている状態。毛穴を清潔に保ちつつ、しっかりと保湿をして余分な皮脂分泌を防ぐことで改善される。
●黒ニキビ
白ニキビが進行し、毛穴に皮脂や汚れがたまることで、角栓の固まりが黒く酸化。洗顔を見直し、毛穴の詰まりを解消して角栓を除去することが必要となる。
●赤ニキビ
黒ニキビが、炎症を伴う赤ニキビに。抗炎症作用があるビタミンCなどをスキンケアに取り入れながら、ニキビ周辺を清潔にし、刺激を与えないよう注意する。
正しいクレンジングと洗顔、スキンケア法
「クレンジングはスキンケアの中でもっとも肌に負担が大きく、一歩間違うと肌トラブルの元に」と吉木先生。クレンジングでメイクの半分程度を落とし、残りは石けんで落とすダブル洗顔が、トラブルを防ぐ基本。
また、肌は触ったぶんだけ老化が進むもの。スキンケアは目的と化粧品の成分を踏まえ、アイテムを絞ることが重要。さらに、肌に化粧品を塗り込んで浸透させているつもりが、逆に手で成分を取り除いていることも。化粧品は“塗る”のではなく、顔に“のせる”よう意識して。
ひふのクリニック人形町院長
東京慈恵会医科大学客員教授。40年間、大学病院の皮膚科で診療・教育・研究に携わった知識と経験を生かし、肌の悩みを抱える人に寄り添う治療を行いつつ、適切なスキンケアを伝授。また、アトピー性皮膚炎を専門とし、アトピーに関する理解を深める「アトピーカフェ」を主宰している。
吉木伸子(よしき・のぶこ)
よしき皮膚科クリニック銀座院長
レーザーやケミカルピーリングといった美容皮膚科学と、漢方を取り入れた皮膚科治療を行うほか、雑誌、書籍、テレビなどの各種メディアを通じて正しいスキンケア方法を指南。皮膚科医ならではの科学的根拠に基づく的確なアドバイスで、肌の悩みをもつ多くの人の信頼を得ている。
菅原由香子(すがわら・ゆかこ)
菜の花皮膚科クリニック医師
自身が大学時代から約20年間、ひどい肌荒れに悩み続けた経験をもとに行う治療が注目され、テレビや雑誌、書籍などで幅広く活躍。岩手県一関市にあるクリニックには、全国から毎月1万人もの肌荒れに悩む人が訪れる。また、完全無添加化粧品の研究開発にも携わる。
亀山孝一郎(かめやま・こういちろう)
青山ヒフ科クリニック院長
ビタミンCとニキビ、テカリ、オイリー肌との関係を分析し、「ビタミンC療法の第一人者」と呼ばれている。皮膚科専門医として35年以上の経験を重ねた現在も、最先端研究に臨みつつ、肌のトラブルを抱える人々の根本治療に尽力。また、オリジナル化粧品の研究開発も行う。