難しい知識がなくても「会計」は面白く学べます

望月 実●公認会計士

ビジネスは、距離が近すぎると見えなくなってしまうことがたくさんあります。“経営”を一生懸命やっていると「売るしかない」と思ってしまう。でもいくらの利益を出すという計画もなしに経営を行うことは、地図を持たずに歩き回るようなもので、目的を達成できるかは運まかせになってしまいます。

自分が、あるいは自分自身が勤めている会社が確実に利益を生むためには、物事を少し俯瞰(ふかん)して眺め、シミュレーションし、黒字を生むビジネス計画を立てることが一番大事です。そのために私たちは数字を整理し、仕事に生かす技術を学ぶのです。

数字に弱い方でも今回、私が初級であげた3冊を上から順番に読み、きちんと理解できれば、会計の基礎知識は身につくと思います。中級の3冊まで読破できたらもう十分です。上級3冊はかなり難しくなりますが、長期的な戦略を練る財務の知識を身につけたい方でしたら、ぜひ挑戦を。

今や「エクセル会計の時代」

数字を分析するためには、土台となる知識が必要です。まずはビジネスで利益を生むための思考法を習得したり、決算書を読みこなすといった基本から始めること。それとともにエクセルを使いこなす技術を身につけていくと仕事の効率が高まります。

読者の皆さんの中には「新規出店の採算性を検討する」とか「目標利益を達成する販売計画を立てる」といったシミュレーションを苦手とする方もいらっしゃるかもしれませんね。でもそのような悩みは、エクセルを学べば簡単に解決できます。

かつては「電卓会計の時代」でしたから、シミュレーションに必要な計算式を頭の中でつくらなければなりませんでした。しかし今や「エクセル会計の時代」です。ワークシート上に計算式をつくりこんでおけば、知識があまりなくても必要な計算はできるのです。最初は「知識2割、エクセル技術8割」の割合で勉強を進めていき、必要に応じて知識を増やしていきます。

エクセルで目標となる数字をいかに達成するかを計算していくのは、いうなればブロックを積み上げながらお城をつくっていくようなもの。手を動かしながら会計の仕組みを理解していくので、電卓会計の時代よりもはるかに面白く会計を学ぶことができます。

数字の知識をある程度持っていると、目の前に置かれた数字だけに惑わされることがなくなります。正しい判断能力は早めに身につけておきたいですね。

▼会計&会社の数字を頭に入れる9冊
▼初級
『「数字」が読めると本当に儲かるんですか?』古屋悟司、田中靖浩〈案内人〉
ネットショップ経営に苦労する主人公が、経営改善していくストーリー仕立て。「管理会計の基本を学べます」●日本実業出版社/1400円
『世界一やさしい決算書の教科書1年生』小宮一慶
有名企業の決算書を使いながら、決算書の基本的な読み方を解説。「決算書入門編として非常にわかりやすく、おすすめの本です」●ソーテック社/1380円
『一生使えるエクセル仕事術』望月 実、花房幸範
「ミスを少なく仕事を早く終わらせる技術、センスを感じさせる資料作成の技術等、数字の管理に役立つエクセルの仕事術が身につきます」●CCCメディアハウス/1800円
▼中級
『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』シバタナオキ
「決算書からECビジネス、FinTechビジネス、広告ビジネス等のビジネスモデルを分析。数字から企業の現状を比較する力が養えます」●日経BP社/1800円
『ざっくり分かるファイナンス』石野雄一
「会計と財務の関係、キャッシュフロー計算書の読み方、お金の時間価値などがファイナンス初心者向けに丁寧に解説されている本です」●光文社新書/720円
『外資系投資銀行のエクセル仕事術』熊野 整
「コミュニケーションを円滑にする見やすい表の作り方、計算ミスを少なくして仕事を早くする技術などが満載。エクセルをより使いこなしたい人に」●ダイヤモンド社/1700円
▼上級
『武器としての会計思考力』矢部謙介
「会社の実態は決算書に表れます。この本は『会計の数字を使って経営の現実を読み解く力』と『会計の数字を使って経営の現実を変える力』を伝授してくれる一冊です」●日本実業出版社/1700円
『道具としてのファイナンス』石野雄一
「本書とKindleで販売されている問題集に真剣に取り組めば、エクセルを使って仕事に使えるファイナンスをマスターできます。財務部門で働けるくらいの力がつきます」●日本実業出版社/2400円
『外資系金融のExcel作成術』慎 泰俊
「レストランチェーンのケーススタディーを使い、財務モデルを作成します。これをひと通りやると、数字のシミュレーションに自信が持てますよ」●東洋経済新報社/1800円

※本はすべて税抜き価格

望月 実
公認会計士
立教大学卒業後、青山監査法人(現・PwCあらた有限責任監査法人)に入社。監査、株式公開業務、会計コンサルティング等を担当。2002年に独立し望月公認会計士事務所を設立。http://ac-intelligence.jp/
 

自分のコストと価値を自覚していますか?

北村信貴子●アタックス取締役執行役員

企業の存続に、何が一番大切でしょうか。それは長期安定利益を確保することです。つまり「黒字」を出し続けるということです。いくら理想を掲げても「赤字」では企業を存続させることはできません。雇用も守れませんし、未来に向けた投資もできません。また、赤字企業ばかりでは税収が激減し、国の財政を圧迫します。少しキツイ言い方ですが、「赤字」は悪なのです。

企業の活動はすべて数字に置き換わります。企業に所属して働く人間であるならば、「自分たちの活動のすべてが会社の業績を左右している」、そういう意識を持ちたいですね。

自分にどれだけのコストがかかっているのか。それに対し、自分はどれだけの価値を提供しているのか。そして会社の最終利益を黒字にするために自分はどう活動しなければいけないのか。数字はその活動の良しあしを測るものであり、会社の存続を左右するもの。そう考えると数字の勉強がグッと身近なものに感じられると思います。

全社員が経営に参加する“アメーバ経営”という仕組み

初級、中級で身につけてほしいのは数字から企業の健康状態を診断する力です。そして会計は、健全な経営を実現するためにあるということを肝に銘じてほしいと思います。初級で紹介している『稲盛和夫の実学経営と会計』はぜひ読んでいただきたいですね。

稲盛和夫さんが京セラを創業したのは1959年のこと。京セラは創業以来1度も赤字を出したことがありません。稲盛さんといえば、全社員が経営に参加する“アメーバ経営”という仕組みを生み出した方です。この本には赤字を出さない会計の仕組みが詰まっています。

『儲かる会社と儲からない会社の違い』も、ちょっと視点が変わっていて面白い本です。右肩上がりではなく、右肩下がりの経済下では、すべてを逆算して考える「逆算経営」の思考が有効であると。「売り上げ-費用=利益」ではなく、売り上げから必要な利益を引いて残った費用で賄うという発想の転換もビジネスに生かせるのではないでしょうか。

そして上級にあげた3冊は、より高いレベルの経営活動を実現するために役立つ専門書です。『KPIで必ず成果を出す目標達成の技術』では、結果に結び付くKPI(重要業績評価指標)の活用方法が学べます。数字を学ぶことは、よりよい未来を創ることにつながっています。自分自身の働き方を改革するうえでも、きっと役に立つはずです。

▼数字で考える思考力が身につく9冊
▼初級
『意外と分かっていない人のための会社のお金の常識41』吉澤 大
「これはなぜこの値段なのだろう?といった日常生活の疑問をベースに、社会の仕組みを数字で理解できます」●ディスカヴァー・トゥエンティワン/1100円
『決算書「分析」超入門2018』佐伯良隆
「その企業の体の大きさは? 筋力は? 血液(お金)は十分?というように、決算の数字を人間の体や体調に置き換えて解説してくれる本です」●朝日新聞出版/1100円
『稲盛和夫の実学 経営と会計』稲盛和夫
「京セラの創業者にして、JAL再生の立役者である稲盛和夫氏による企業経営のための会計学。数字管理の重要性が身に染みます」●日経ビジネス人文庫/524円
▼中級
『決算書を読みこなして経営分析ができる本』高下淳子
「カリスマ講師の、図解を使った経営分析本。決算書から企業の健康状態を診断する方法を身につけたい方に」●日本実業出版社/1400円
『儲かる会社と儲からない会社の違い』関根 威、野本理恵
「利益はいくら欲しい? そこから逆算し売上目標を設定する“逆算経営”という発想が、数字力をさらに鍛えます」●幻冬舎/1200円
『変化にびくともしない「財務アタマ」経営』西浦道明
「数字からみた『いい会社』とはどんな会社? 財務の知識を戦略に結び付ける16の思考力と会社を粘り強い財務体質にしていくための方法が学べます」●かんき出版/1400円
▼上級
『[図解]「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』小宮一慶
「ワンランク上の経営分析を学びたい人に。上場企業において重要な経営指標『ROE』についてしっかり学べます」●PHP研究所/1400円
『[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』高田直芳
「経営に役立てるための管理会計の考え方と、それを未来志向の“戦略会計”へと発展させるための視点が身につきます」●PHP研究所/3600円
『KPIで必ず成果を出す目標達成の技術』大工舎 宏、井田智絵
「経営成果を確実に生み出すための業績管理・評価の指標となるKPIの活用術は現場と経営の連携に役立ちます」●日本能率協会マネジメントセンター/2300円
北村信貴子
アタックス取締役執行役員
中小企業診断士。長年、人事制度に関するコンサルティングに従事。経理簿記入門から管理職のマネジメント強化、女性リーダーの育成等の講師実績が多数ある。https://www.attax.co.jp/
 

数字は絶対ではない。常識を疑おう

石崎順子●大和ライフネクスト代表取締役社長

数字の見方・基礎知識を身につけたら、あとは柔軟な思考力を大事にしてほしいですね。数字は確かに自分のやりたいことを主張するときに有効な手段です。人に説明するときに数字で証明されている事柄があれば、論理的に物事を語ることができます。でも数字は必ずしも絶対ではないと私は考えています。

たとえばKPIなどの数値目標も、設定の仕方によっては経営に有効ではない場合があります。私たちが忘れてはならないのは、いつも柔軟な頭で常識を疑ってみること。そして目の前のことだけでなく、近未来に起こりうる可能性のあることをもいつも想定しておくこと。初級ではそんなことをビジネスウーマンである皆さんにお伝えしたくて3冊を選びました。

そして中級では会社全体の数字を上げていくための組織づくりについて学んでほしいと思います。今は生産性改革の時代といわれています。ではその生産性の正体とは何なのでしょう。

数字のうえでは原価や経費を下げたり、残業を減らしたりすれば利益が上がると出ても、実際はそんな単純なものではありません。人の力の引き出し方や組織の在り方にも気を配ること。これなくして真の生産性の向上はありえないのです。

また『真実の瞬間』に記されているのは、企業は顧客から支持され、価値を認められてこそ経営が成り立つという事実です。顧客と接点を持つ社員全員の、顧客に対する責任意識が会社全体の数字に直結しているということを覚えておきたいですね。

上級では意識をさらに高め、会社の在り方も自分自身の人生もより長期的なスパンで考えるための3冊を選びました。長寿化が進む中、人の働き方も生き方も変化を続けています。社会の変化とともに会社も、そして自分自身も常にイノベーションしていくことが大事です。そしてイノベーションを繰り返していくときの説得材料として、数字を使いこなせれば非常に心強いと思います。

数字で考える感性や経営的なセンスは日常生活の中でもどんどん磨いていくことができます。私は食べることが好きなので、よく飲食店に出かけますが、客単価は? 従業員数は適正?など、いつもお店の経営を想像します。自分の好奇心に従いながら、そんな訓練ができる場面はたくさんあります。数字や情報にとらわれて本質を見誤らないよう感性を磨き、自分の「皮膚感覚」というものも大切にしていきましょう。

▼数字への意識が高くなる経営書9冊
▼初級
『統計でウソをつく法』ダレル・ハフ
「ビジネスにおいて数字はさまざまな判断のよりどころになりますが、統計をうのみにしてはいけないことに気づかせてくれる一冊。見かけの数字にだまされない思考法磨きに」●講談社ブルーバックス/880円
『成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学』ロバート・H・フランク
「数字と向き合うことも大事ですが、偶然の出会いを仕事に生かすことも大切なこと。自分からビジネスチャンスを逃さないように」●日本経済新聞出版社/1600円
『東京五輪後の日本経済』白井さゆり
「会社の数字を考えるうえでは、世の中の経済・社会情勢の変化にどう適応していくかを考えることも大事です。近未来の予測グセを身につけていきましょう」●小学館/1500円
▼中級
『生産性』伊賀泰代
「売り上げを上げれば本当の意味での収益性が上がるかというと、決してそうではありません。管理職の人には組織の生産性を向上させるリーダーシップについても学んでほしいですね」●ダイヤモンド社/1600円
『真実の瞬間』ヤン・カールソン
「スカンジナビア航空を再建した著者が断行した数々の改革は見事としか言いようがありません。真に顧客が求めるサービスのための先行投資も、時には必要なのです」●ダイヤモンド社/1262円
『LEAN IN』シェリル・サンドバーグ
「会社全体の数字を上げていくには、まず会社が“働きやすい環境”でなくてはなりません。この本は女性だけでなく、男性にも読んでほしいです」●日本経済新聞出版社/1600円
▼上級
『会計力と戦略思考力〈新版〉』大津広一
「トヨタ自動車等の財務諸表を使い、事業の実態を想像するという問題をじっくり解いていくと、数字の思考力が養われます」●日経ビジネス人文庫/800円
『【エッセンシャル版】マネジメント』P・F・ドラッカー
「これはもう、経営全般の教科書といえる一冊。組織を成長させていくマネジメントの原理原則が、ここに集約されています」●ダイヤモンド社/2000円
『LIFE SHIFT』リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット
「今や人生100年時代。企業の在り方も自分自身の人生の在り方もイノベーションが必要です。そのための武器として数字を使いこなせたら」●東洋経済新報社/1800円
石崎順子
大和ライフネクスト代表取締役社長
大阪大学法学部卒業。日本リクルートセンター(現・リクルートホールディングス)、リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)等を経て、大和ライフネクスト入社。2016年10月から現職。