まずは感情と肉体。それが言葉になるだけ
「突然ですが、まず想像してみてください。『臨時収入10万円が入りました!』。さぁ、どうでしょう? ワクワクして自然に口角が上がりませんか? それは筋肉が緩んだ証拠。柔らかで明るい声が出るはずです。
さて次に、『10万円貸して』と言われたらどうでしょうか。頬は下がり、眉間にシワが寄りますよね。筋肉は固まり、太く暗い声が出るはずです。もうわかりましたか。心と体と声は、密接につながっている。まさに“三位一体”なのです」
こう語るのは、女優・朗読家として活躍しながら、数多くの女優への演技指導を行っている秋元紀子さん。
「『花がきれい』というセリフは心と体が和らいでこそ、『頑張るぞ!』という叫びは全身に力がみなぎってこそ伝わるもの。『危ない!』と大声を出すときにリラックスしている人なんていないでしょう。ただセリフを読み上げるのではなく、言葉は感情と肉体とつながっている感覚を徹底的につかんでもらうのです」
話し方を鍛えたいなら、まずはおなかから
では、その三位一体メソッド、働く私たちが取り入れるには、どうしたらよいのだろうか。
「まず、声が出るメカニズムから説明しましょう。『声はどこから出るか』と尋ねると、多くの人は『のど』とおっしゃいます。でも、のどは肺からの呼気で声帯が震えているだけで、実際は口腔(こうこう)や鼻腔(びこう)を共鳴させることで声が出ているんです。さらに脳はいろんな声をコントロールしようとするので、頭の上から出るような甲高い声、口先だけを動かす小さな声、胸式呼吸で話す建前の声など、その種類も多種多様。そして、これが重要なのですが、腹から出す声こそが本音で、もっとも相手に伝わる声なのです」
だからこそ取り入れるべきが、体幹のトレーニングなのだそう。
「意識すべきは腸腰筋です。脚を上げ下げするときに使う筋肉で、おなかの奥にある腰椎と股関節をつなげます。ここの働きが安定すると、たっぷりと息を吸い、たっぷりと吐くことができる。すると声量も出て、声質もよくなり、自信にもつながります。ビジネスシーンにおいていちばん重要な“信頼感のある声”ができ上がるのです」
さらに、女性にこそ有効な2つのアドバイスがあるという。
「女性は、自分が伝えたいことに夢中で、話が一方通行になってしまいがちです。そこで相手の表情を観察するもうひとりの自分を意識することをおすすめします。そして、相手と呼吸を交換するのです。自分が話してばかりでは、相手は息を吸うばかり。そこに気づけばこちらは少し間を置いて、相手に息を吐いてもらうことができるでしょう。会話とは、呼吸のやりとり。これさえできればもう怖いものはないはずですよ」
「自信を持って」
最高のパフォーマンスを発揮させたいとき、秋元さんはまずこのフレーズを使うそう。
「肩の力を抜いて」
力んでいると前のめりになりかねず、空回りする危険性も。そこでこのフレーズが有効に。
「そのままのあなたでいいの」
他人も自分も、あるがままを認めてあげることで、話し方はよりスムーズになるのだとか。
リラックスした状態が、実はいちばん美しい
最後に、秋元流美しい話し方のテクニックを披露してくれた。
「エレガントなビジネスウーマンをめざすなら、語尾まできちんと発音すること。『お願いします』なら『す』まで。『ありがとうございました』なら『た』まで。語尾を流してしまうと曖昧で幼い印象を与えてしまいます。また、口を開けたまま話し始めるのは言語道断。同じ『あ』でも、開いたままと閉じた状態からでは全く音が違いますから。1度口を閉じてから発声すると、声はいちばん美しく響くのです」
これらの所作を身につけたなら、話し方の最上級レベル「リラックスした状態」が手に入るのだとか。
「お風呂で歌うのが一番うまく聞こえるのと一緒ですよ。他人の評価を気にするより、自分がどうありたいかに焦点を当てるほうがパフォーマンスは上がるのです。自分の声と自分の考えで堂々と勝負する。そんな女性をめざしてほしいですね」
▼秋元さんが選ぶ 話し方を学ぶ本
(左)DVD付きで初心者にもわかりやすい『究極のボイストレーニング 誰でも驚くほど声がよくなる 歌が上手になる!』(日本文芸社)。(右)わかりやすく知識と雑学まで身につく『声がよくなる本』(主婦と生活社)。
女優、朗読・演技講師
女優として舞台や映画、ドラマ、ナレーションなど幅広く活躍。NHK連続テレビ小説や大河ドラマの主演女優など、俳優の育成にもあたり、現在は各地で数多くの朗読会、また朗読・演技の個人レッスンも行っている。