30歳の誕生日、Ready for創業者の米良はるかさんは、大きな不安と重い気持ちを抱えていた。悪性リンパ腫との闘いの真っ最中だったのだ。その年、左の首に異変を感じ、検査をしたところ病が判明。クラウドファンディングのプラットフォームの先駆けとして起業し4年目を迎え、勢いに乗っている時期だった。会社も軌道に乗り、さらにこれからの展開にワクワクしていた矢先の出来事。

Ready for 代表取締役 米良はるかさん

ショックで仕事が手につかないこともあったが、治療方針が見え始めると、先の時間の過ごし方を考えられるようになってきた。

創業以来とにかく走り続け、アウトプットが続き、そろそろ自分のインプットも必要と思っていた時期でもあった。信頼できる仲間に会社を預けていったん休職。治療のための期間を、自分への投資のために使うことに決め、学びたいいくつかのテーマを考えた。その最初が「歴史」だった。

「経営者は、日々決断しないといけない場面が多い。もちろん現代の経営者で尊敬している人はたくさんいますが、歴史上のリーダーたちがどう意思決定しているのかを知りたかったのです。過去のことなので、すでに成果は見えています。その背景にあった決断や行動を理解したかった」と動機を語る。

まずは全体像をつかもうと高校の日本史の教科書を読んだり、NHKの歴史解説動画を見たりした後、気になる内容があるとさらに関連本を読んで掘り下げた。なかでも興味を引かれたのが明治維新。長く続いた幕府政治から明治政府による天皇親政体制の民主主義へと改革が進められた、大きな時代の転換期だ。

「私自身はすぐ行動に出る坂本龍馬タイプですが、大事なときに冷静に考える勝海舟に引かれるんです。それに、あの時代のリーダーたちは島流しなどで2、3年、世の中から離れる時期があり、その間に改めて起こっていることの分析や今後の指針を考えられたのだと思います。私の休職期間も会社の現在と今後を考えられる、大事な時間だったのです」

さらに興味を持ったのは、「人々が正しいことを選べなくなる瞬間はなぜ起きるのか」ということ。戦争や人種差別、紛争……。歴史の失敗例を学ぶことで、リーダーや組織のあり方を改めて考え直す機会になり、復帰後は仕事にも新たな発想が生まれている。

「また3年くらいしたら、集中的なインプットの時間を持ちたい。リーダーになる人にこそ必要な時間かもしれませんね」

その人がどれだけの人かは、人生に日が当たっていないときにどのように過ごしているかで測れる。日が当たっているときは、何をやってもうまくいく。
―勝 海舟―


●Kaishu Katsu(1823~1899)
幕末から明治初期の武士であり、政治家。10代から剣術や禅を学び、地理学や兵学を研究して蘭学塾も開いた。ジョン万次郎や福澤諭吉とともに遣米使節として渡航。江戸幕府の家臣でありながらも、世界に目を向け広い視野で日本の未来を考え、坂本龍馬、西郷隆盛とともに明治維新の立役者となった。
当時の私
抗がん剤治療など約半年間の闘病を乗り越えたとき、仲間たちが誕生日をお祝いしてくれました。仕事を離れることは不安で仕方なかったけれど、素晴らしい仲間たちに囲まれたおかげで復帰することができました。