「63歳のときに、フリーの仕事と並行して長年続けていた、デパートの契約更新の打ち切りを打診されて大慌て。70歳まで続けるつもりだったから、老後の仕事やお金のことはなんにも考えていなかったの」と笑うのは生活研究家としても活動する阿部絢子さんだ。

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不安定なフリーの収入を下支えしていたのが、契約で得ていた定期収入の安心感。60歳から月3万円の年金を受給していたが、安定収入が途絶えるショックは大きかったという。

「結局67歳まで働かせてもらいましたが、その間に最初の就職活動。実務経験はなかったのですが、薬剤師の資格を持っていたので、新聞募集を見て電話をかけました」

即、スーパー内薬局に就職が決定。やれやれと思ったのもつかの間、経営統合で調剤薬局に。阿部さんは調剤経験がなかったため71歳で退職、再び就職活動をすることに。しかし、70歳すぎての2度目の就活は予想以上に難航!

たくさんの「お祈りメール」(不合格通知)を受け取る一方で、「近所の薬局に飛び込んで、雇ってくれませんかと、直談判したこともあります」と阿部さん。

就活中は、年金とフリーの収入だけではまかないきれず、貯蓄を取り崩した。薬品会社のパートが決まるが、それだけでは収入が足りず、さらに3回目の就活をスタート。1年近く続く就活に何度も心がくじけそうになりながら、ようやく調剤薬局のパートが決定。この春から昼と夜の掛け持ちで、ダブルワークがスタートした。

▼阿部さん就活戦記
60歳 年金受給開始 月3万円
63歳 消費者アドバイザーとして勤めていたデパートから65歳で契約更新打ち切りの通告。就活開始
67歳 デパート退職。薬剤師の資格を活かしてスーパー内薬局に就職(週2日)
71歳 薬局の経営統合に伴い退職。2回目の就活。人材紹介会社の紹介で薬品会社就職(週2日)
72歳 3回目の就活。人材紹介会社の紹介で調剤薬局に就職(週3日)。ダブルワークスタート
▼現在の1カ月の収入
・年金 5万円
・薬品会社(昼週2日) 6万円
・調剤薬局(夜週3日) 7万円
合計18万円+執筆などのフリーの不定期収入

「60代、70代になっても体が元気なうちは、自分で自分をまかないながら生きていきたい。まずは、働こうという気持ちがあることが大事。収入だけでなく、社会とつながることが、生きる力になっていくはず」

定年後、どんな仕事ができるのか、という点も気になるポイントだが、「現役時代ほど稼げなくてもいいし、無理や我慢をするより自分が楽しい、好きだと思える仕事を優先したほうが絶対いい」と阿部さん。

周囲にも、カルチャースクールで絵を習っていたのをきっかけに絵画教室でパート講師をする、出版社を早期退職して保育園で保育士補助をするなど、自分が楽しみながら働く人が多いという。老後は社会の役に立ちたいというなら、シルバー人材センターで子育てや家事、着付けなど自分の趣味やスキルを活かすのも方法だ。

「定年後の人生を楽しく働くためにも、現役時代の今からどんなことをしたいのか、自己分析しておくことが大切ですね。そこがはっきりすれば、会社で働きながら必要な資格や人脈づくりなどを準備できます。それだけで気持ちに余裕が生まれて、老後の仕事選びが変わってくると思いますよ」

阿部絢子(あべ・あやこ)
薬剤師・生活研究家
家事、生活全般に関わる執筆活動などのかたわら薬剤師として働く。著書に『65歳で月収4万円。年金をもらいながらちょこっと稼ぐコツ』(KADOKAWA)、『ひとり暮らしのシンプル家事』(海竜社)など。