入社以降、営業一筋。激戦区で奮闘中

アサヒビール 東京統括支社 中央支店 主任
大河原由美子(おおがわら・ゆみこ)
さん

アサヒビール入社6年目の大河原由美子さんは、飲食店激戦区の東京都内で、酒類をはじめとした同社商品の業務用営業を担当している。入社以来、毎年個人予算達成を継続し、月ごとに行われる大きな成果をあげた担当者による事例発表会の常連とあって、この春、主任に昇格した。

仕事服は?●全体的に地味めな色合いです。レンタル自転車に乗って複数の飲食店を回ることが多いので、パンツが6割。真夏以外はジャケットを羽織っています。ネイルはシンプルでベージュ系の目立たない色みにしています。

業務用営業のクライアントは、飲食店と、飲食店に飲料を卸す酒屋だ。大河原さんの場合、入社時に渋谷エリアの飲食店の担当になり、3年目からは同エリアの酒屋も担当に加わった。5年目以降は青山、赤坂、日本橋エリアの飲食店を担当している。

女性の業務用営業は、多いといわれる首都圏でさえ10人程度、男性の10分の1程度だ。そのため、飛び込み営業先で「女かよ」と言われて悔しい思いをしたこともあったというが、そうしたなかでも成績を残し続けているのは、話し方にどんな工夫をしているからなのだろう。

「飲食店の新規開拓で難しいのが、先方にとって邪魔にならない時間帯がお店ごとに違うところです。ドアを開けてまずは元気に『アサヒビールの大河原です。ご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか』とお声がけをします。そこでタイミングが悪そうなら、『お忙しそうなのであらためてお伺いしたいのですが、何時ごろでしたら比較的お時間いただけそうでしょうか』と確認して、すぐ退出します」

そのまま話ができそうなときには、その店に資料を卸している酒屋や、その店で決定権を持つキーマンを確認し、次につなげるという。

酒屋を確認するのは、自社の酒屋担当者などと社内調整をすることで、今後の営業活動をスムーズに進めることができるからだ。それを行ったうえで、次の訪問からは、今その店でどんな商品に力を入れたいと思っているか、先方の課題などを聞いていく。

「特に他社商品を扱われているときには、最初の数回の訪問では具体的な提案よりも、“相手を知る”ことに注力します」

相手の時間を無駄にする質問はしない

キーマンと話をするときは、メニューの悩みなど、現在の潜在的な悩みやニーズなどを引き出していく。

「例えば、先方があまりお話をされないときには、『ビールを飲まれるお客様が多いんですか?』『ビールの次によく出ている飲料はなんですか?』など、まずは答えやすい質問からしていきます。このとき、『お店の状況はどうですか?』といった漠然とした質問や、『名物料理はなんですか?』といった事前に調べておけばわかるような無駄な質問は、先方の時間的負担になるだけなので、しないように心がけています」

そうした会話を繰り返していき、自社商品で提案できるものがないかを模索する。

「メニューを見せていただいて、『この銘柄のウイスキーを使っているのに、ハイボールがこの価格帯とは安いですね』とお伝えしたとき、先方から『実は仕入れ値と売値が合わないと思っていた』と言われるような話の展開になれば、『銘柄のこだわりがないようでしたら、仕入れ値がもう少し低い商品に替えることで、売値を変えずに利益を増やせます』とお薦めできます」

何げないやりとりのように見えるが、この会話をするために、大河原さんはあらかじめ近隣の飲食店の飲料の価格帯のほか、他社飲料の価格や味も調べている。そのため夜は視察のための飲食店巡りや、他社商品のチェックを行うことが多いという。

聞きにくい売り上げを、どうやって問う?

もう少し踏み込んで、店舗の売り上げ状況を知りたいときにも、聞き出し方のテクニックがあるという。

「初対面なのに『月の売り上げはどのくらいですか?』とダイレクトには聞けませんよね。そこで『先日飲みに伺ったのですが、女性のお客様が多いんですね。1人予算3000円くらいで食べられたのですが、お客様の回転率は2回転くらいですか?』というような質問をすることで、だいたいの売り上げが予想できるのです」

「もっと女性客を増やしたいが、どうしたらいいか」「メニューを新しくしたいので、相談にのってほしい」「周年イベントを検討しているので、何か協力してもらえることはないか」など、大河原さんの元には担当エリアのクライアントからの要望が後を絶たない。

営業訪問前にリップを塗り直す理由

無理難題を出された場合でも、「とにかく一回、がんばってみます。そのうえでどうしてもできない場合にはご相談します」と伝え、誠意をみせるという。

的確かつ冷静にクライアントに対処しているように見える大河原さんだが、今でも新規で声をかけるときには緊張するという。

「お店に入る前にリップを塗り直して気持ちを落ち着けてから、第一声で元気に挨拶をする、その繰り返しです」

入社間もない頃は、1日30件を目標に営業をしていたが、現在の目標は15件。しかしそれは1件あたりの時間のかけ方や先方との接し方が変わったからだ。“ダイレクトに話を進めず、上手に相手のニーズを引き出していく”、これが大河原さん流・話し方のコツのようだ。

▼Questions
左から(1)、(2)
(1)必携のGOODSは?
A4サイズのノートにマス目を入れた、オリジナルの予定表です。訪問先を書く手帳とは別に、営業先で出された宿題などを、1マスに1つずつTo Doとして記入し、完了したら、赤ペンで×を入れていきます。営業先で打ち合わせする際にこれを出して、やるべきことを記入していくので、常に持ち歩いています。入社当初、やらなければならないことが多すぎて優先順位がわからなくなっていたとき、当時の上司が教えてくれました。今は後輩にも教えています。
(2)ストレス解消法は?
酒屋担当者と飲食店担当者間で社内調整も必要なので、社内の人とはよく話をします。悩んでいるときは、同期や先輩、上司と飲みに行ってアドバイスをもらいます。話しながら泣いてしまうこともよくあるのですが、風通しがよく相談しやすい会社なので、温かく相談にのってもらってすっきりします。名刺入れや仕事で使えるものを衝動買いしたり、気分を変えたいときには深夜でも、ネイルを塗り替えて気持ちを上げることもあります。
(3)学ぶときには?
日本経済新聞の電子版で、ニュースや飲食店、競合他社の情報を仕入れますが、営業方法は実践と社内の人から学ぶことが多いです。