真剣に本を読み始めたのは25歳頃から
ビジネス書『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』が発売6日目にして異例の10万部を突破。芸人の枠を超えた活動で注目を集めている西野亮廣さん。幼い頃の読書体験を聞くと、すでにその個性の一端がうかがえる。後に絵本『えんとつ町のプペル』を制作して30万部以上を売り上げる西野さんが、物心ついて手に取ったのも絵本。1970年初版のロングセラー『チャイクロ』だ(現在は「新装版」が発売中)。
「ページを開くといろんなキャラクターが出てくるんですけど、それぞれの場所で物語が勝手に進んでるんです。ストーリーに沿って順番に読んでいくような本ではなくて、読者が勝手に遊びどころを探せる。今思うと、なんか“スナック的”だったんですよね。スナックって、お客さんも自分でお酒をつくらされるし、場合によっては掃除までさせられる。『チャイクロ』も参加型で、むっちゃ楽しかったのを覚えています」
だが意外にも、真剣に本を読み始めたのは25歳頃からだという。
大事なのは「キャッチーで説明が短い」
「学校の先生や親から『本を読め』って、さんざん言われていたんですけど、とにかく本が読めなかったんですよ。ほんとにアホなので、文章が窮屈で。最後まで読めたのは織田信長と王貞治とエジソンの伝記くらい。『織田信長』は、『とんでもない奴が現れたな!』と震え上がったのを覚えてます。親父(おやじ)の葬式のとき、信長は位牌(いはい)に焼香の灰を投げたんですよ! 『ドラゴンボール』でフリーザが『オレの戦闘力は53万』って言ったときに『ヤバい奴に出会ってしまった』と思ったあの感じに似ています(笑)。子どもの頃の信長は、石合戦をして勝つんですけど、なぜかというと、相手はオフェンスしかしなかったのに、信長はケガをした味方をフォローしながら戦ったからなんですね。『こいつ、頭もいいんか!』ってびっくりしました」
伝記3冊に共通していたのは“キャッチー”さ。西野さんは、そこにも心引かれたという。
「天下統一とか、ホームラン王とか、電球を発明したとか。極端だからアホでもわかりやすかった(笑)。でも、キャッチーで説明が短いっていうのは、ほんと大事だなと思っていて。今でも何かサービスをつくるときに、すごく意識しています」
西野さんが信頼を寄せる先輩芸人
本の魅力に目覚めたのは、西野さん自身が書くことを迫られたとき。
「やってみたらうまくいかなくて。担当編集者に『一回本読んでみたら?』って言われたんです。それで『面白い本を教えてください』って頼んで、すすめられたのを読んでみたら面白かった! その中の一冊が、森見登美彦さんの『有頂天家族』。その後も『夜は短し歩けよ乙女』とか、森見さんの本を読みあさりましたね。あと、東野圭吾さんとか伊坂幸太郎さんとか、ヒットしてる本は一回読んどこうと思っていろいろ読みました。面白かったです。ヒットするにはちゃんと理由があるんだって思いました」
最近は友人にすすめられた本を購入することが多い。芸人の先輩であるロザンの菅広文さんも、西野さんが信頼を寄せる“選者”のひとり。
給与明細も見ない男が、1円にこだわる理由
「菅さんに『これだけは読んどけ!』って言われたのが、西原理恵子さんの『この世でいちばん大事な「カネ」の話』。僕は給与明細も見たことないくらいお金に無頓着なので、『このままだと、いずれ大変なことになるよ』と心配してくれて(笑)。今でも僕は、生活費がそんなに要らないし、ほとんどソバしか食わないし、ギャンブルもしない。でも、製作費は要るんですよね。今、映画をつくってるんですけど、スタッフさんを雇うとき、お金のことが不透明だと、そのご家族にまでご迷惑をかけることになる。だから1円単位でちゃんとしようと思ってます。この本を読んでなかったら、そうはなってないでしょうね」
いろんなエンタメがある中で、今、一番未来があるのは紙の本だと西野さんは目を輝かせる。
「本は、読み物としての役割から、コミュニケーションツールとしての役割の比重が増えていると思うんです。たとえばスナックで飲んでるとき、『この本、超面白いよ!』って話になって、その場にあったら、『買うわ』ってなるんじゃないかと。『革命のファンファーレ』を、知り合いのスナックに置いてみたら、10日くらいで350冊も売れたんですよ。コミュニケーションが起こりやすい場所なら、本はもっと売れると思うんです」
『パイレーツ・オブ・カリビアン─呪われた海賊たち』
監督:ゴア・ヴァービンスキー
2003年・アメリカ
「ジョニー・デップがカッコいい! あと映画の規模がでかい! あの規模の映画をつくろうと思ったら、大きいお金を動かすためにだいぶ手前からデザインしていく必要がある。自分がつくれないものを見せられるとメラメラってなるんです」